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文字数 1,249文字

「はぁ……」

「どうしたんスか、サキさん」

「いや、なんでもない」

 思わずため息が出る。

つまらん。何か物足りない。

毎日ケンカ漬けで、この間は渋谷のチーマーを撃退、先日は秋葉原から来た族を潰した西東京のヤンキー集団・『ブラックアウト』。

 その頭を務める高1のオレ、榊沙樹はアンニュイな気分だった。

 今日で学校が終わり、夏休み。普通の学生だったら、きっと羽を伸ばしたくてたまらないだろう。高校1年の夏休みなんて、遊ぶには最高。もってこいだ。受験もないし、模試もない。赤点? 勉強ができるヤンキー、それが今の流行だろう? 勉強ができないやつに、ヤンキーは務まらん! ということで、オレはしっかりやっていた。

「でもなんで西東京なんかに渋谷やアキバの荒くれが来るんですかね?」
「知らねぇよ……。それもこれもあの女のせいだろ」

 そうだ、あの女。伝説のヤンキーと言われたあいつ……。
 
あいつが消えてから1年。オレの地元・西東京は荒れに荒れていた。

『ブラックアウト』はヤンキー集団と言ってもそんなに過激なやつらの集まりではない。補導くらいはされるけども、ヤクはやらない、女は回さない、タバコは健康を害するからしないという超絶健全な『ステゴロをメインとする』集団だ。

 それに比べて渋谷のチーマーとアキバの族はとんでもねぇ。

 渋谷のやつらは全員ヤクでトリップした状態でケンカを売ってきた。だから穏便に警察官になった先輩に対処してもらった。
 アキバの族は、全員単車を路駐でしょっぴいてもらった。

 公権力バンザイ。結局一番強いのは、所詮公の力なのである。

「はっはっは。さすが俺たち、頭脳派ブラックアウトだな!」

「まぁ、まともに殺りあったら、普通に死人出ますからねぇ……。ヤクとチャカ持ってる相手や単車で乗りつけるイカレ野郎どもですよ? 渋谷のやつら、バックに変なのいなければいいんですけど」

「変なの? オレの親父やお前の親父より変なのか?」
「なんでもありません……」

 そうだ、俺たちの親父は西東京に住んでいる芸能人や著名人。もちろん表立って裏の人間と付き合いはないが、渋谷に住んでいるにわか芸能人よりもしっかりとした『派閥』を持っている。

「フッ、何かあったときの親!! 親ガチャ最強のオレたちに歯向かおうなんて、100億年早いんじゃ、ボケェ!!」

「いや、ヤンキー集団なのに、頼みの綱が親ってダサくないですか?」
「何言ってんだ!」
「あべしっ!!」

 パーンッ!! と舎弟・向井の頬を軽く打つが、こんなのは戯れに過ぎない。

 渋谷やアキバから刺客は来るが、どうも物足りない。ただ単純な殴り合いがしたい。チャカだとかヤクだとか……そんなものこそおもちゃでしかない。

「ちっ、本物のヤンキーは、やっぱり拳だろ」
「あんたバタフライナイフが武器じゃ……」
「ふんっ!!」
「あだっ!!」

 今度はアッパーを向井に食らわせる。だが、やっぱり殴ったうちには入らない。

 夏休みに入ったけども、物足りない。
――やっぱりオレは、あいつがいないと物足りないんだ。

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