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文字数 1,441文字

 そして約束の時間、23時。

「高坂来ねぇな」

 白薔薇学院は全寮制らしく、敷地の中に寮があるとは知っていた。だとしたら、あいつも多分寮生だ。23時に男と会うなんて、かなりヤバいんじゃ? いやでも誘ったのはあいつだし……。

「にしても、来ない」

 23:15あの女、遅刻だ。何してやがんだ、ちくしょう。

「おーおー、イラついてやがんなぁ、オイ」
「!!」

 後ろの門を見ると、そこの上にヒョウ柄のパンツにカラフルな迷彩Tシャツを着たやつがいた。

「誰だ!?」
「誰だって、さっき会ったろ? もう忘れたのかよ。脳みそ詰まってんのか」

 ボブカット……もしかして。

「西東京の魔女?」
「その呼び方やめろや。ここは西東京じゃねぇし」
「っていうか! お前さっきとずいぶんと態度がちげぇじゃねぇか!!」
「たりめーだろ! ここじゃ一応『風紀委員・高坂ユナ様』で通ってんだぞ!」
「それが解せねぇって言ってんだろ! なんでヤンキーが先公の犬やってんだよ! 白薔薇のメデューサってなんだよ! あの時と違って髪も切りやがって!!」
「あー……いっちいちうっせぇなぁ。子犬かよ」

 先ほどのお高いお嬢様……のはずの高坂は、耳の穴をほじりながら面倒くさそうな顔をする。
 だが、すぐに瞳を輝かせてオレを見た。

「とりあえず、久々の娑婆だからな! 全寮制とか肩が凝るし、お嬢様の振りもめんどくせぇんだわ。そうだ、今からコンビニでも行くか? 今ならヤンキーたむろってんだろ? 潰そうぜ!」
「いきなりそれかよ! っていうか、お前はバーサーカーか。オレは別にこの地元のヤンキーにケンカを売りにきたんじゃねぇんだからよ」
「はぁ? 何言ってんの、お前。だったら何しに来たんだよ」
「……なんでお前、北茨城なんているんだ? 南校退学になったんだってな」
「えっ、まさかお前……私をここまで追ってきたのか?」
「うっ」

 改めてそう言われるとなんだか恥ずかしい。べ、別に好きな女を追ってここまで来たってわけじゃねぇ。オレの目的は『西東京の魔女』を連れ戻して、地元の治安を守るためだ。

「お、お前、勘違いすんじゃねーぞ!! オレがここに来たのは……」
「へー、ほーん、ふーん」
「ニヤニヤすんじゃねぇ!」
「だったら何が理由なんだよ。私はここでおとなしくお嬢やってなきゃいけねぇんだよ」
「寮抜け出しの時点でおとなしくねぇだろ」
「あっそ、だったら帰る……」
「いや!! 待て待て!!」
「…………」
「…………」
「そんな子犬みてぇな顔すんじゃねぇよ、戻れねぇじゃねぇか」

数秒見つめ合うと、高坂は照れ臭そうにする。だからそういうんじゃねぇんだって!

「ともかく! なんでこんなお嬢校にいるんだよ! お嬢なんて柄じゃねぇだろ!」
「いや? うちはもともと良家だぞ? 地元で暴れすぎたから、親が少しは女らしさを学べってんでここに来た。シスターが『拳は正義のために使え』とかなんとか言うから、風紀委員もやることになった。まぁ用心棒だな、私は。『この学校入れてやるから用心棒しろ』みたいな。特に用事ねぇなら、マジで帰るぞ。ヤンキー潰しの誘いかと思ったのに」
「あっ! ちょっと待て!」
「だから何」
「ヤンキー潰しじゃなくて、オレとタイマンってのはどうだ?」
「はぁ――?」
「おやおや、西東京の魔女とか白薔薇のメデューサっていう異名はハッタリってか?」
「あぁん? 上等じゃねぇか……。小童め、しつけが足りねぇようだな?」

 よし、これでいよいよタイマンだ。
 これでオレが勝ったらオレが西東京1の男だ!!

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