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文字数 2,735文字
異世界という夢物語みたいなワードを口にする高坂を、オレは鼻で笑う。
「ははっ、んなわけねぇだろ。それよりおめぇ、『異世界』なんて言葉がすぐ出るあたり、ネット小説読み漁ってんのか? 案外オタクだな」
「そういうお前もネット小説ってわかる時点でオタクじゃねぇか」
「うるせぇ! このくらい一般常識だっ!」
だけど、高坂がここを異世界というのも少しは納得してしまうような。
変な果物に変な魚。少なくとも日本では見たことがない。ただ、異世界というにも確証はない。
「どこかオレたちの知らない海外っていう可能性だってまだあるぞ」
「それはそれで困るけどな。帰れないことには変わりない」
「……」
難しい顔で考え込む高坂。しかし、考え込んだって仕方ないだろう。川に入っていたオレは、高坂を冷静にさせるために水をかけた。
「な、何をっ!! うわっ!!」
「高坂!?」
高坂がバランスを崩して川に落ちる。その瞬間――。
バチバチバチッ!! と、体中に電流が走る。
「うわぁぁっ!?」
川の中にいた先ほどの飛び魚たちも、ビチビチビチっ!! と陸に飛び上がる。
「やべっ……」
川に落ちた高坂がすぐに水から上がると、電流が流れる感覚はなくなった。なんだ、今の。まだ体中がしびれている。フラフラする……。
「お、おい、大丈夫か? サキ」
「大丈夫……だけど、おめぇ、何しやがった?」
「……私さ」
高坂が何か言おうとしたときだった。
バザァァッ!! と水が盛り上がり、川から何か巨大なものが現れる。
「!?」
オレも急いで陸に上がる。川から出てきたのは……。
「×○△□×○!!!」
「……な、なんだ!?」
出てきたのは、金髪できれいな女性。ただ、体は透き通っている。まるで水のような……というか、川の水だ、これは。
「もしかして、川の精的なものなんじゃ?」
「はぁっ!? おめぇ、何川の精を呼び出してんだよ、高坂!」
「知らねぇよ! そういうお前が水を私にかけたのがいけねぇんだろ!!」
「××○△×○○□!!」
「「うるせぇ、何言ってんのかわかんねぇよ!!」」
声がハモった。
川の精だかなんだかわからん人、というか物体。日本語を話さない。しかし、これで確定したっぽいな。ここは海外ではない。やっぱり、川に『精霊』みたいなのがいるファンタジーな世界。
「○○×○△※※□!!」
川の精は、何を言っているのかわからないが、どうやら怒っているような感じだ。
もしかして、怒らせた? 高坂が?
「おい、なんかヤバくねぇか? これ」
「ヤバいっていうか……怒ってるっぽいな。どうする?」
「どうするも何も、怒らせたのおめぇだろ」
「その原因を作ったのはお前だ」
「※×○△!!」
「うわぁっ!!」
川の精が腕を上げると、水がザバァッ! と盛り上がる。それがオレたちに襲いかかる。
バシャーン!!
「うわっ、つめてぇっ!! 高坂、何したのかわかんねぇけど、とりあえず謝れ!」
「その前に日本語が通用すっかわかんねぇよ!」
「とりあえず、誠心誠意を込めて土下座しろ!」
「ちっ、わかったよ! サーセンでしたぁぁぁっ!!」
高坂が土下座すると、一瞬川の精が動きを止めた。しかし。
バシャーンッ!!
「って、全然伝わらねぇじゃねぇか!!」
水をかぶった高坂が、オレに突っかかってくる。参ったな。となったら、もうここは……。
「逃げるしかないんじゃね!? 行くぞ!」
「仕方ねぇ、それしか方法はねぇみたいだな!」
オレたちはその場をあとにしようと背中を向けるが、足首を川の水が触手のようにつかみ取る。くそっ、捕まった。逃げられねぇ!! ……このまま殺されるのか?
キッと川の精をにらむと、手に何か持っている? あれは……。
「あーっ!! オレのジッポ!」
「ジッポ?」
「もしかして、さっき電流みたいなのが走ったとき、落としたのか?」
ジッポからはオイルが少し漏れているようだった。
川の精は笑顔で手にしたジッポを水圧で潰す。これは……なぜか相当怒ってる?
「もしかして、ジッポのオイルで川を汚したことを怒ってるんじゃないか?」
「はぁ!? 確かに川に落としたのは悪いかもしれねぇけど、不可抗力だろ。なんか知らんけど電流が走ってふらついたんだから」
「ともかく、もし川を汚したことで怒っているならば、土下座するのは私じゃなくてお前だな」
「……ちっ! 高坂が何かしたのが悪いんだろ!」
「お前が水をかけたりしなければこうならなかった」
「くっ……わかったよ! 土下座な! サーセンしたっ!!」
高坂に引き続き、オレも土下座する。だが、土下座という文化がこの異世界(?)にあるのだろうか? それでも謝罪の気持ちが伝わればいいんだが。
しばらく、川の精の動きが止まる。わかってくれたか? ゆっくりと顔をあげると。
「いてっ!!」
川の精が、潰れたジッポをオレの顔面に投げつける。そして両手を上げると、また川の水が盛り上がる。もしかして、土下座通じねぇのか!?
「やべぇな……」
「どうするんだよ! 高坂!」
「ここは、戦うしかねぇ!」
「た、戦うって!? 相手は川の精で、多分水だぞ! 物理攻撃が効くか……」
「それでも売られたケンカは買うしかねぇだろ!? ヤンキーだったら逃げてどうする! タイマンじゃねぇけど、相手は人間じゃない。2対1だろうが、勝ちゃいいんだ、勝ちゃ!」
高坂は持ってきていた釘バットを握り占める。あ、こいつ、ずっと持ってきてたな。そういえば。
でも、川の精を釘バットなんかで倒せるのか? オレも一応、川の中に落ちていたと思われる木の枝を手にする。
「……」
川の精とオレたちのにらみ合いが始まる。
「くそっ、水が実体みたいなやつなんかと戦ったことなんてねぇよ!」
「奇遇だな、私もだ」
「何が奇遇だ、日常だったらあり得ねぇだろ」
「だから非日常……異世界なんだろうが。行くぞ!」
「ちくしょうっ、ヤケだ!! うおおおおっ!!」
オレが振るった木の枝は、案の定川の精の体をすり抜ける。攻撃なんぞあたりゃしねぇ。
「クソッ、ダメだ! 高坂!!」
「うおおおっ!!」
高坂は釘バットを横に振るう。そのとき、何かがバチッと光った。
「!?」
なんだ、今のは……。
「食らいやがれっ! 電光石化ぁっ!!」
バットに刺さった釘が、バチバチと電気のようなものを散らす。な、なんなんだ、マジで。
高坂、お前は本当に何者なんだよ!!
電気らしきものが飛んだ釘バットが、川の精が先ほど潰したオレのジッポに当たる。すると、パアンッ!! と水しぶきが派手に飛ぶ。見ると、川の精は目の前からいなくなっていた。
「もしかして……やったのか?」
高坂はハアハアと肩で息をしている。
もしやったとしても、高坂のあの『力』は一体なんなんだ――?
「ははっ、んなわけねぇだろ。それよりおめぇ、『異世界』なんて言葉がすぐ出るあたり、ネット小説読み漁ってんのか? 案外オタクだな」
「そういうお前もネット小説ってわかる時点でオタクじゃねぇか」
「うるせぇ! このくらい一般常識だっ!」
だけど、高坂がここを異世界というのも少しは納得してしまうような。
変な果物に変な魚。少なくとも日本では見たことがない。ただ、異世界というにも確証はない。
「どこかオレたちの知らない海外っていう可能性だってまだあるぞ」
「それはそれで困るけどな。帰れないことには変わりない」
「……」
難しい顔で考え込む高坂。しかし、考え込んだって仕方ないだろう。川に入っていたオレは、高坂を冷静にさせるために水をかけた。
「な、何をっ!! うわっ!!」
「高坂!?」
高坂がバランスを崩して川に落ちる。その瞬間――。
バチバチバチッ!! と、体中に電流が走る。
「うわぁぁっ!?」
川の中にいた先ほどの飛び魚たちも、ビチビチビチっ!! と陸に飛び上がる。
「やべっ……」
川に落ちた高坂がすぐに水から上がると、電流が流れる感覚はなくなった。なんだ、今の。まだ体中がしびれている。フラフラする……。
「お、おい、大丈夫か? サキ」
「大丈夫……だけど、おめぇ、何しやがった?」
「……私さ」
高坂が何か言おうとしたときだった。
バザァァッ!! と水が盛り上がり、川から何か巨大なものが現れる。
「!?」
オレも急いで陸に上がる。川から出てきたのは……。
「×○△□×○!!!」
「……な、なんだ!?」
出てきたのは、金髪できれいな女性。ただ、体は透き通っている。まるで水のような……というか、川の水だ、これは。
「もしかして、川の精的なものなんじゃ?」
「はぁっ!? おめぇ、何川の精を呼び出してんだよ、高坂!」
「知らねぇよ! そういうお前が水を私にかけたのがいけねぇんだろ!!」
「××○△×○○□!!」
「「うるせぇ、何言ってんのかわかんねぇよ!!」」
声がハモった。
川の精だかなんだかわからん人、というか物体。日本語を話さない。しかし、これで確定したっぽいな。ここは海外ではない。やっぱり、川に『精霊』みたいなのがいるファンタジーな世界。
「○○×○△※※□!!」
川の精は、何を言っているのかわからないが、どうやら怒っているような感じだ。
もしかして、怒らせた? 高坂が?
「おい、なんかヤバくねぇか? これ」
「ヤバいっていうか……怒ってるっぽいな。どうする?」
「どうするも何も、怒らせたのおめぇだろ」
「その原因を作ったのはお前だ」
「※×○△!!」
「うわぁっ!!」
川の精が腕を上げると、水がザバァッ! と盛り上がる。それがオレたちに襲いかかる。
バシャーン!!
「うわっ、つめてぇっ!! 高坂、何したのかわかんねぇけど、とりあえず謝れ!」
「その前に日本語が通用すっかわかんねぇよ!」
「とりあえず、誠心誠意を込めて土下座しろ!」
「ちっ、わかったよ! サーセンでしたぁぁぁっ!!」
高坂が土下座すると、一瞬川の精が動きを止めた。しかし。
バシャーンッ!!
「って、全然伝わらねぇじゃねぇか!!」
水をかぶった高坂が、オレに突っかかってくる。参ったな。となったら、もうここは……。
「逃げるしかないんじゃね!? 行くぞ!」
「仕方ねぇ、それしか方法はねぇみたいだな!」
オレたちはその場をあとにしようと背中を向けるが、足首を川の水が触手のようにつかみ取る。くそっ、捕まった。逃げられねぇ!! ……このまま殺されるのか?
キッと川の精をにらむと、手に何か持っている? あれは……。
「あーっ!! オレのジッポ!」
「ジッポ?」
「もしかして、さっき電流みたいなのが走ったとき、落としたのか?」
ジッポからはオイルが少し漏れているようだった。
川の精は笑顔で手にしたジッポを水圧で潰す。これは……なぜか相当怒ってる?
「もしかして、ジッポのオイルで川を汚したことを怒ってるんじゃないか?」
「はぁ!? 確かに川に落としたのは悪いかもしれねぇけど、不可抗力だろ。なんか知らんけど電流が走ってふらついたんだから」
「ともかく、もし川を汚したことで怒っているならば、土下座するのは私じゃなくてお前だな」
「……ちっ! 高坂が何かしたのが悪いんだろ!」
「お前が水をかけたりしなければこうならなかった」
「くっ……わかったよ! 土下座な! サーセンしたっ!!」
高坂に引き続き、オレも土下座する。だが、土下座という文化がこの異世界(?)にあるのだろうか? それでも謝罪の気持ちが伝わればいいんだが。
しばらく、川の精の動きが止まる。わかってくれたか? ゆっくりと顔をあげると。
「いてっ!!」
川の精が、潰れたジッポをオレの顔面に投げつける。そして両手を上げると、また川の水が盛り上がる。もしかして、土下座通じねぇのか!?
「やべぇな……」
「どうするんだよ! 高坂!」
「ここは、戦うしかねぇ!」
「た、戦うって!? 相手は川の精で、多分水だぞ! 物理攻撃が効くか……」
「それでも売られたケンカは買うしかねぇだろ!? ヤンキーだったら逃げてどうする! タイマンじゃねぇけど、相手は人間じゃない。2対1だろうが、勝ちゃいいんだ、勝ちゃ!」
高坂は持ってきていた釘バットを握り占める。あ、こいつ、ずっと持ってきてたな。そういえば。
でも、川の精を釘バットなんかで倒せるのか? オレも一応、川の中に落ちていたと思われる木の枝を手にする。
「……」
川の精とオレたちのにらみ合いが始まる。
「くそっ、水が実体みたいなやつなんかと戦ったことなんてねぇよ!」
「奇遇だな、私もだ」
「何が奇遇だ、日常だったらあり得ねぇだろ」
「だから非日常……異世界なんだろうが。行くぞ!」
「ちくしょうっ、ヤケだ!! うおおおおっ!!」
オレが振るった木の枝は、案の定川の精の体をすり抜ける。攻撃なんぞあたりゃしねぇ。
「クソッ、ダメだ! 高坂!!」
「うおおおっ!!」
高坂は釘バットを横に振るう。そのとき、何かがバチッと光った。
「!?」
なんだ、今のは……。
「食らいやがれっ! 電光石化ぁっ!!」
バットに刺さった釘が、バチバチと電気のようなものを散らす。な、なんなんだ、マジで。
高坂、お前は本当に何者なんだよ!!
電気らしきものが飛んだ釘バットが、川の精が先ほど潰したオレのジッポに当たる。すると、パアンッ!! と水しぶきが派手に飛ぶ。見ると、川の精は目の前からいなくなっていた。
「もしかして……やったのか?」
高坂はハアハアと肩で息をしている。
もしやったとしても、高坂のあの『力』は一体なんなんだ――?