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文字数 2,303文字

「……おい」
「ん……」

 なんだかポカポカしていて心地いい。心地よすぎてこのまま眠っていたい……。
 ピーチチチと鳥の鳴き声も聞こえる。暖かいし平和だ。今日は日曜日だっけ? 

「おい、起きろ」
「母さん、うっせぇ……あと1時間」
「だーれーが! 母さんだぁっ!」

 バチンッ!!

 思い切り頬に何か当たった感覚がして、目が覚める。

「いっつ……」
「ふん、ようやく起きたか。小童が」

 目の前には、ボブカットの女子。よく見ると結構かわいい。――って、こいつは!

「高坂! え? 今日は日曜日じゃ……」
「何が日曜日だ。周りを見渡せ」
「え……えぇぇ!?」

 オレが寝転がっていたのは、野原のど真ん中。春うららかな気候。今は夏だったはずなのに、気候も違う。

「ここ、どこだ!?」
「わからん。っていうか、そのリアクション遅すぎるぞ」
「あっ! そういやおめぇ、殴ったな?」
「殴ってはいない。起こしただけだ」
「上等だ! どこだろうが夢だろうがなんだっていい! タイマンの続きだ! 確か勝負してたよな! オレたち」
「え……お前案外バカっていうか、のんきだな? ここでタイマン?」

 高坂は怪訝な顔をする。なんで夜だったのがいきなり昼になったのかとか、戦っていた場所が違うだろ! とか色々あるけど、多分夢だ。うん。一発殴られて気絶かなんかしているんだろう。でも、ファイティングポーズは取り続けねぇと!

 オレが立ち上がって高坂をにらみつけると、高坂もにやりと笑った。

「しっかたねぇな……おめぇも戦闘狂ってやつか。だったら上等だ! とりあえずカタぁつけてからこの状況を考えようじゃねぇか!」

 オレも大概バカだが、高坂もバカだ。ケンカしか頭にない不良は、どこだろうがタイマン中はタイマン。戦わないわけにはいかない。

「私が勝ったとりあえずもう二度と白薔薇学院には近づくなよ」
「オレの目的はおめぇに勝って、西東京1の称号を手に入れることだ」
「そういやお前、名前を聞いてなかったな。顔も見覚えがない。そんなガキが西東京1? ハッ! ちゃんちゃらおかしいわ」
「……ッ! 舐めやがって……。オレは榊サキ! おめぇに勝つ男だ。覚えとけ!」
「秒で忘れるわぁ! こっちから行くぞ!」

 高坂が特攻を仕掛ける。脚を素早く上げ、回し蹴りが来るのをすんででかわすと、今度はストレートを繰り出す。が、またもバチンッ! と大きな音がして、何かに跳ね返させられる。

「っ……なんだ? さっきから」
「ふふっ、おめぇは私に触れられない。『西東京の魔女』も『白薔薇のメデューサ』も、敵に触れられたことがないんだ。これで終わりだ!」

 腹に重いパンチ……? を食らう。いや、パンチではない。拳の感覚がない。ただあったのは……拳風?

「グゥッ……!!」

 もろに腹に食らったオレは、その場にうずくまる。まだまだだ。まだオレは余裕で戦える。地面に唾を吐きかけると、すぐに立ち上がる。

「いいモンもってんじゃねぇか!」
「ふん、お前に私はまだ指一本も触れてねぇ。それなのに、まだやる気か? 今度は肋骨を折るぞ?」
「できるもんなら……」

 やってみろ! と声を上げようとしたところ。

 グウウウウ……。

 盛大に腹が鳴る。げっ、オレ、最高にカッコわりぃ!! 啖呵切ろうとして、腹が鳴るなんて!! 

高坂はというと、その音にきょとんとしている。そして――。

「……ぷっ、お前、腹へってんのかよ!」
「う、うるせぇ! わりぃか! 夕飯コンビニで軽くしか食ってなかったんだよ!」
「にしても、私ものどが渇いたな。ここは本当にどこだ? 私たちはT大の敷地内の噴水広場でやり合ってたはずなんだが」

 ようやくここでオレたちは、現状把握をしようとし始めた。ここは決闘にはふさわしい野原だ。ただ、今は昼。

「オレたちが戦ってたのは夜だよな?」
「うん。殴り合おうとした瞬間、雷が落ちて――あっ!」
「なんか気づいたことがあるのか?」

 高坂はオレを見ると、ごくりと唾を飲み込む。

「私たちがやり合っていたところは、T大のテレポート試験場と言われていたところ……」「ってことは、もしかして……どこかにテレポートしちまった、とか?」
「可能性はなくはない。雷と……私のアレで電気が走った。条件はある意味整ってしまったのかもしれない」
「『私のアレ』ってなんだよ」
「それはおいおい説明する。それよりもしテレポートしてしまったとしたら、ここがどこか知らねぇといけない。日本ならいいんだが……」

 難しい顔で考え込む高坂だが、『日本ならいい』という言葉にオレは少し自分の立場を把握した。日本の……関東圏のどこかだったらまだ帰れる。だけど、これが沖縄だとか北海道だとかだったら金がなくて帰れないし、ましてや海外だったら言語すら使えねぇじゃねぇか!

「に、日本の関東のどっかに決まってんだろ。ちょっと北茨城から飛んだだけだって」
「だけど気候がまるで春だし、夜だったはずなのに昼……もしかしたら地球の時差があるところかも……」
「よ、余計なことを考えるなよ! とりあえず、人を探すとかしねぇと。あと、水と食料は欲しい」
「それもそうだな。いつまでもこんなだだっ広い場所にいるわけにはいかない。移動するか」
「移動って言ってもどっちだ?」
「知らねぇわ!」
「知らねぇって……あっ、こんなときのスマホ!」

 スマホを取り出すが、あいにく圏外だ。電波もなければ、GPSの位置情報も無効。本当にここはどこだ?

「ダメだ、GPS死んでる……」
「こうなりゃ野生の勘を信じるしかねぇ! なんとなくこっちだ!」
「大丈夫かよ、高坂……」

 こうして心もとないオレたちは、野原から人がいそうな方向へ移動を始めた。

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