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文字数 2,095文字

――夜。

近所の墓場は怖い物知らずのヤンキーが屯している。
というか、呼び出したのがオレだ。

「宮藤さん! 榊の野郎どもが来ました」
「んー……敵は何人?」
「2人です!」
「ずいぶん舐められてるねぇ」
「……お言葉ですが」
「ん?」
「こっちは人数いますが、先日のアキバとの交戦で、ケガしている兵隊が多数ですし……」
「そのくらいなんてことないじゃない」
「ですが! そういう宮藤さんは明日から補習だからぜってーケガできねぇじゃねぇですか!」
「ううん……困ったねぇ」
「榊の野郎ども、こんな状況で乗り込んでくるなんて、本当にブラックアウトはクズだな!」
「まぁまぁ、この間共同戦線張った相手のところに乗り込んでくるなんて、さすがに人間じゃないなぁとは思うよ。ここは穏便に帰ってもらおう。僕も拳痛めてペンが握れなくなるのは困る」

 ぐったりしているヤンキーたちは、オレたちを見ても襲ってはこない。にらみは効かすが……。まぁ先日の抗争のせいだろう。

「なんか不気味っスね」
「みんなケガしてるんだろ。こっちの仲間もまだ入院してるやついるし」
 南高の現トップ・宮藤は、墓場の中心にある古寺で待っていた。

「ようこそ、榊くん、向井くん。さっきは折鶴ありがとう。だけどケンカって感じではないんだよね。悪いけど、君たちみたいなバーサーカーに付き合ってられないんだ」

 オレはへらへらしている宮藤を見て、察しがついた。

「……補習か。『南高の切れ者』が」
「まぁね。これでも僕、勉強は最高にできないんだ」
「そうか、それはどうでもいい。オレが知りたいのは、『西東京の魔女』のことだ」

 切り出すと、宮藤の眉毛がぴくりと動いた。

「……何?」
「だから、西東京の魔女はどこかと聞いている。お前、同高だろ? 何か知らねぇか?」
「知ってたとしても、言うわけないでしょ? ようやく邪魔者が引退したんだよ? あんな女にでかい顔いつまでもさせておけるかって話」
「だけど、あいつがいなくなったせいで西東京は攻められてるだろ。いや、正確には『共通の敵がいなくなったせいで、他の区のヤンキーにケンカを売るバカが増えた』」
「うーん……まぁそれはそうなんだけどぉ」

 ひょろっとした長身に赤い髪の宮藤は、困ったように頬をぽりぽりとかく。

「だから、魔女にタイマン張りたいんだよ」
「……なんで?」
「西東京の魔女を倒して、俺が西東京最強になれば、今まで市街にケンカ売りに行ってたやつらがみんなオレのところに来るだろ?」
「榊くんが襲われるけど、いいの?」
「ケンカ上等だろ! 何年ヤンキーやってると思ってんだ」
「中2から、たったの5年でしょ……」
「バカ野郎、2年だ! オレ、今高1年! 計算以前の問題だぞ。その年数だったら高校卒業してんだろ!」
「おぉ、サキさんがツッコミに回っている……」
「むかいうるさい」
「さーせん」
「まぁ、そういうことなら教えてあげてもいいけど……」

 その瞬間、オレの頬を拳が掠る。

「おいおい、補習があるからケンカはしねぇつもりじゃなかったのか?」
「んータイマンなら別かな。僕に一発食らわせられたらいいよ」
「さすが血の気が多い西東京の野郎だな。おめぇも所詮そのひとりかっ!」

オレは右ストレートを繰り出すが、すんでのところで避けられる。どんなにバカでもさすが南高のトップだ。すぐに左アッパー。それも避けられた。だけど、相手の攻撃は読めている。次はカウンターを狙ってくるはず。だから――。

「ッ!!」
「ダーッ!!」

 パンチを繰り出す瞬間、同じようにパンチを打つと見せかけて、左足で股間に蹴りを入れる。

「アァーッ!! ウッ……!!」
「ふん、金玉が隙だらけだ。痛いだろう」
「いだいいだいいだい」
「チャカで撃ち抜かれるよりマシだし、ナイフで切り取られるよりマシだし、族車に轢かれるよりマシだから。蹴りでよかったな」
「そ、そりゃそうだけど、股間はないでしょー? 相変わらず汚いなぁ」
「何を言う。敵の弱点を徹底的に痛めつけるのがオレのやり方だ!」
「敵の傷に塩塗るなんて、さすがサキさん」
「むかいうるさい」
「もぅ……わかったよぅ、魔女について教えればいいんでしょ?」

 意外に素直な宮藤の言葉に、オレたちはびっくりする。が、相手も一応どんなにバカだと言っても南高トップだ。

「その代わり、絶対に魔女を倒してきてよ? 僕は前みたいに仲良く殴り合いがしたいだけなんだから」
「それはオレも一緒だ」

 宮藤は腰をトントンしながら、ぼそぼそと話始めた。

「魔女は北茨城に引っ越した。北茨城のN市って聞いてる」
「北茨城か……」
「もぅ、ちゃんと話したんだから、きっちり倒してきてね? そして、今度こそその榊をタイマンで僕がボコると。うん、計算パーフェクト!」
「お前には倒されねぇけど」
「ふうん……? やる?」
「やってもいいけど、お前補習あるんだろ?」
「あー……そうだった。じゃ、榊が魔女を倒してから。や・く・そ・く、だよ? 僕とデートしてね?」
「デートという名の殴り合いな」
「うん! じゃ、頑張って~」

 こうして健全(?)で穏便な話し合いを経て、オレは無事に『西東京の魔女』の居場所をゲットしたのだった。

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