八 婚姻届
文字数 2,027文字
マンションにもどった。時刻は午後七時前。
「昼ご飯、あんな物だけだったから、お腹すいたでしょう?」
花やしきの売店でソフトを食べたあと、クレープやホットドッグを食べて昼食代わりにした。省吾は甘い物は苦手ではないが、いつもは食べない代物なので、夕刻になっても、かなり満腹感を感じているはずだ。でも、食卓に並んだ新鮮な鯛刺や吸い物は食べるだろう。
そう久美が思ったとおり、食卓にでた刺身を一切れ口に入れると省吾の箸が進んだ。ビールも飲んでいる。一日中外にいて身体が水分不足だったらしい。
「ねっ、おいしいでしょう。実家で食べるお刺身と同じですっごく新鮮だよね」
「こんなに食べて飲んだら、酔って何もできなくなるな・・・」
「今日はまだ、お盆(旧盆)だから、明日からすればいいよ。
今日一日、あたしのしたいことにつきあってもらったから、明日はあたしがつきあうね。
ご飯、よそっとくね。まだ、飲んでていいよ。ビールはたくさんあるから」
久美は茶碗にご飯をよそって冷蔵庫からビールを出した。
「ねえ、ドイツ語ってどんなことするの?物理の教科書、英語っていったよね。
もし、よければ、あたし、見たいな」
「ああ、いいよ」
久美さんは昔からやんわり話して必ず実行する。もしよければではなくて、絶対に見たいんだ・・・。
省吾は久美に、物理とドイツ語の教科書を見せた。
「専門用語はわからないけど・・・、説明は何となくわかるよ・・・。
ああ、驚かないでね。仕事で英文は読むんだ。
フランスやイタリアのファッションが主流といわれてきたけど、経済成長が安定しているドイツは、隠れた人気だよ。だから、ドイツ語も読むの」
久美の机に、国外のファッション誌がある。英文だけでなく仏文、独文、伊文など様々だ。ファッション誌の写真やパソコンの画像も、見るだけで、ある程度わかるが、説明を読まないと確実にこれだとていえないときもあるから、肝心なとこだけ原文を拾い読みする。
「このworkは仕事や作業って考えたら変よね。物理用語だから、実験、研究なの?」
「驚きだ!久美さん、英語もドイツ語も堪能だ。ぼくの通訳になってほしいくらいだ」
「ダメ!甘えてはいけません!
あなたの記憶と判断があなたの個性なんだから、しっかり知識を身につけなさい。
そうでないと、あたしが安心してられないよ。
アッ、忘れてた!
あたしの実家とあなたの実家で話しあって、まとまれば婚姻届を出す、といってたんだ。それでいいか、連絡をほしいって。
朝の連絡なのに、今になってごめんなさい」
久美は話の途中からしおらしくなった。
久美は物理の教科書に目を走らせ、気にしないそぶりをしたが、全てあなたに従うとの気持ちが溢れている。
「ぼくも母から同じこといわれてた。これから電話する」
省吾はスマホをスピーカーモードにし、母に、明日、婚姻届を提出するよう頼んだ。
婚姻届は実筆でなければいけない。久美の実家も省吾の実家も、市役所に知り合いが多い。両家の親たちで婚姻届を出して、婚姻を確認したいのだ。
「井上さんと話しあって、婚姻届、出すわ。現住所は今のままにしておくよ。
久美さんによろしくね。明日、また、連絡するわね」
母は陽気に電話を切った。
「ありがとう!私はとってもうれしいよ!
でも、あなた、本当にいいの?」
久美はうれしかったが、年上の久美が省吾を縛りつけるのではないか気になった。
「心配しないで。ぼくは小さいときからずっと久美さんに縛られてる。しっかりとね。
ぼくの年齢を気にするなら親を見ればいい。たがいに相手を頼りにしてる。個人がどうのでなく、ひと組で活動してる。
それなのに結婚しても個人が出てくるから、破綻するんだよ。
もう、ぼくとか久美さんとか個人はないよ。すでにぼくたちになってるよ。
明日、婚約指輪と結婚指輪を買いに行こう」
「ありがとう!ホントにありがとう!もう何もいえないよ~」
久美は物理の教科書を脇に置き、省吾に思いきり抱きついてボロボロ泣きだした。
省吾は久美を抱きしめた。
「久美さん、ジュエリー店、知ってる?信頼できる店だよ」
「知りあいの卸問屋で買えばいいよ。
独自のデザイン加工までするとこがあるの。小売りもしてる。
そこなら、安心だよ。
ブランド品って、デザイン料が高いから・・・」
久美は涙をぬぐいながら説明する。
貴金属は、高い利潤が上乗せされて販売される。指輪など貴金属はその独自なデザインによって、材料加工、デザイン加工の工程を経る。日常品のように頻繁に売れる物とちがい、利幅を大きくしてあり、デザインのしめる割合が大きい。
「わかった。明日、買いに行こう。それでいいね?」
「うん、ありがとう。あたし、とってもうれしいよ!
このこと、家に連絡していいよね?」
「ああ、もちろんだよ」
久美は久美の母に婚約指輪と結婚指輪を買いにゆくと電話している。省吾も実家へ婚約指輪と結婚指輪を買いにゆくと電話した。
「昼ご飯、あんな物だけだったから、お腹すいたでしょう?」
花やしきの売店でソフトを食べたあと、クレープやホットドッグを食べて昼食代わりにした。省吾は甘い物は苦手ではないが、いつもは食べない代物なので、夕刻になっても、かなり満腹感を感じているはずだ。でも、食卓に並んだ新鮮な鯛刺や吸い物は食べるだろう。
そう久美が思ったとおり、食卓にでた刺身を一切れ口に入れると省吾の箸が進んだ。ビールも飲んでいる。一日中外にいて身体が水分不足だったらしい。
「ねっ、おいしいでしょう。実家で食べるお刺身と同じですっごく新鮮だよね」
「こんなに食べて飲んだら、酔って何もできなくなるな・・・」
「今日はまだ、お盆(旧盆)だから、明日からすればいいよ。
今日一日、あたしのしたいことにつきあってもらったから、明日はあたしがつきあうね。
ご飯、よそっとくね。まだ、飲んでていいよ。ビールはたくさんあるから」
久美は茶碗にご飯をよそって冷蔵庫からビールを出した。
「ねえ、ドイツ語ってどんなことするの?物理の教科書、英語っていったよね。
もし、よければ、あたし、見たいな」
「ああ、いいよ」
久美さんは昔からやんわり話して必ず実行する。もしよければではなくて、絶対に見たいんだ・・・。
省吾は久美に、物理とドイツ語の教科書を見せた。
「専門用語はわからないけど・・・、説明は何となくわかるよ・・・。
ああ、驚かないでね。仕事で英文は読むんだ。
フランスやイタリアのファッションが主流といわれてきたけど、経済成長が安定しているドイツは、隠れた人気だよ。だから、ドイツ語も読むの」
久美の机に、国外のファッション誌がある。英文だけでなく仏文、独文、伊文など様々だ。ファッション誌の写真やパソコンの画像も、見るだけで、ある程度わかるが、説明を読まないと確実にこれだとていえないときもあるから、肝心なとこだけ原文を拾い読みする。
「このworkは仕事や作業って考えたら変よね。物理用語だから、実験、研究なの?」
「驚きだ!久美さん、英語もドイツ語も堪能だ。ぼくの通訳になってほしいくらいだ」
「ダメ!甘えてはいけません!
あなたの記憶と判断があなたの個性なんだから、しっかり知識を身につけなさい。
そうでないと、あたしが安心してられないよ。
アッ、忘れてた!
あたしの実家とあなたの実家で話しあって、まとまれば婚姻届を出す、といってたんだ。それでいいか、連絡をほしいって。
朝の連絡なのに、今になってごめんなさい」
久美は話の途中からしおらしくなった。
久美は物理の教科書に目を走らせ、気にしないそぶりをしたが、全てあなたに従うとの気持ちが溢れている。
「ぼくも母から同じこといわれてた。これから電話する」
省吾はスマホをスピーカーモードにし、母に、明日、婚姻届を提出するよう頼んだ。
婚姻届は実筆でなければいけない。久美の実家も省吾の実家も、市役所に知り合いが多い。両家の親たちで婚姻届を出して、婚姻を確認したいのだ。
「井上さんと話しあって、婚姻届、出すわ。現住所は今のままにしておくよ。
久美さんによろしくね。明日、また、連絡するわね」
母は陽気に電話を切った。
「ありがとう!私はとってもうれしいよ!
でも、あなた、本当にいいの?」
久美はうれしかったが、年上の久美が省吾を縛りつけるのではないか気になった。
「心配しないで。ぼくは小さいときからずっと久美さんに縛られてる。しっかりとね。
ぼくの年齢を気にするなら親を見ればいい。たがいに相手を頼りにしてる。個人がどうのでなく、ひと組で活動してる。
それなのに結婚しても個人が出てくるから、破綻するんだよ。
もう、ぼくとか久美さんとか個人はないよ。すでにぼくたちになってるよ。
明日、婚約指輪と結婚指輪を買いに行こう」
「ありがとう!ホントにありがとう!もう何もいえないよ~」
久美は物理の教科書を脇に置き、省吾に思いきり抱きついてボロボロ泣きだした。
省吾は久美を抱きしめた。
「久美さん、ジュエリー店、知ってる?信頼できる店だよ」
「知りあいの卸問屋で買えばいいよ。
独自のデザイン加工までするとこがあるの。小売りもしてる。
そこなら、安心だよ。
ブランド品って、デザイン料が高いから・・・」
久美は涙をぬぐいながら説明する。
貴金属は、高い利潤が上乗せされて販売される。指輪など貴金属はその独自なデザインによって、材料加工、デザイン加工の工程を経る。日常品のように頻繁に売れる物とちがい、利幅を大きくしてあり、デザインのしめる割合が大きい。
「わかった。明日、買いに行こう。それでいいね?」
「うん、ありがとう。あたし、とってもうれしいよ!
このこと、家に連絡していいよね?」
「ああ、もちろんだよ」
久美は久美の母に婚約指輪と結婚指輪を買いにゆくと電話している。省吾も実家へ婚約指輪と結婚指輪を買いにゆくと電話した。