十四 勉強嫌い

文字数 745文字

 省吾は夢を見た。

 小児病棟の片隅のベッドで、中学受験を間近に控えた女子が、何か思いこんでいる。
『何してんの?』
「受験勉強・・・」
 女の子がつまらなそうに答えた。

『おもしろい?』
「ちっとも、おもしろくない。何もわかんない・・・」
『なんで?』
「だって知らないことばっかだよ。世界で最も長い川を、長い順に三つ書けなんて言われても、知らないよ」
『そしたら、答えを見て覚えれば、次に聞かれたときにわかる』
「答えを見たら、勉強にならないよ」
『それ、勉強じゃなくって、問題を解いてるだけだろう。
 ゲームだってやりかたを知らなければ、ゲームをできない。
 どう答えるかを覚えれば、問題が解けるんだよ』
「そっかあ!覚えればいいいんだ!漢字の書き取りと同じだね!」
『勉強ってみんなそうだ。おぼえることなんだよ』
「ありがとう、ショウゴさん。がんばってみるね!」


 勉強嫌いのキョンが省吾の病室を訪ねた。久美にあいさつして、
「おかげで、いろいろおぼえる楽しみがふえたよ。雑学だけどね。
 今度、受験が終ったら、仲間たちとクイズ王にでるんだよ。みんな、ショウゴさんのおかげだよ・・・」
 ベッドの省吾にほほえんでいる。

『どういたしまして。ぼくもいろいろ憶えた。いっしょにクイズ王にでようかな』
 省吾はちょっとだけ目で応対した。
「うん、よろしくね。アドバイスしてね、ショウゴさん」
『うん、いいよ』
「じゃあ、またね・・・」
 キョンは手をふって省吾の病室から出ていった。
 キョンの名は小川京子だ。彼女は膵臓が悪い。小児糖尿病だ。

「みんな、省ちゃんと仲よしだね。いつ知りあったのかなあ?」
 久美は省吾の手を握り、優しくさすった。
 省吾はベッドで寝たままだ。小児病棟の子どもたちが毎日病室を訪れて、意識がもどらない省吾に話してゆく。
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