十五 ヤンキーモモ

文字数 2,171文字

 省吾は夢を見た。

 打撲と、腕と脚を骨折した中学生が病室にいる。ヤンキーモモと呼ばれてる上尾モモコだ。モモコちゃんと呼ぶのがめんどうくさいので、省吾はモーコチャンと呼んでいたら、そのうちモーコと呼ぶようになった。モモコは省吾がそう呼ぶほうが親しくなれると言ってほほえんだ。
 
『どうして怪我したの?』
「怪我したんじゃないよ。怪我させられたんだ。五人に寄ってたかって・・・・」
 モーコは高校生の不良に絡まれて怪我をした。絡まれる理由なんかなにもなかった。モーコのスタイルがよくて、かわいいという、ただそれだけの理由だけで、怪我をさせられた。

『モーコ、反撃したか?』
「五人もいたんだよ。反撃なんかできないよ」
 モーコは悔しい思いを噛みしめている。
『そうか。でも、反撃しないとやられるだけだ。
 そうだ。攻撃方法を教える。
 先手必勝だ。最初の相手に大ダメージを与える。そしたら、ほかのがひるむ』
「気楽に言うけど、私、そういうの知らないよ」
 モーコはこまっている。これまで、殴り合いのケンカなんてしたことないのだ。

『そしたら、かんたんのを教える。
 使える左の手で、ぼくの襟元をつかむんだ・・・。
 そうだよ、そしたら、こうやって、襟をつかんだモーコの左手の親指のつけ根を、ぼくの右手の親指と残りの指でつまむ・・・。
 そして、ぼくの左手の平を、モーコの左手の甲に添えて、モーコの左手をモーコの手首の曲がる方向へ外側に捻る。
 ぼくみたいに、両手と両腕と身体全体を使って捻るんだ・・・。
 ねっ。かんたんに襟から手がはずれるし、モーコはもう、手首を動かせない。
 無理に動かすと・・・、痛いだろう?』
「ショウゴさん、どこでこんなの覚えた?」
『いろいろ教えてくれる人がいるんだ。
 手首を握られたら、親指の方向へ手を捻れば、相手の手がはずれる』
「だけど、相手が攻撃してきたら、防げないよ」
『大丈夫。防衛方法を教える』
「うん。だけど、うまくゆくかな・・・」

『ケンカって、先手必勝だ。ボスを倒せば、指示系統がくずれるから、勝てる。
 戦国時代の合戦で勝負がきまらないのは、大将を倒せないせいだ』
「でも、最初に仕掛けるんは下っ端だよ」

『モーコは小学生の時、サッカーをしてたよね。
 そしたらこういう攻撃を・・・・』
「わかったよ。ショウゴさん」


 三ヶ月入院して、モーコは退院した。

 放課後。コンビニに寄ったら、またあの不良たちが現れて、モーコの友だちたちから、金をせびろうとした。

「やめなよ。いつまでそんなことしてるの。
 店長!警察呼んで!」
 モーコがそう叫ぶと、不良の下っ端がモーコにつかみかかってきた。

『アイツの胃にむかって、足を上げろ!』
 モーコは足の親指のつけ根に力をいれて、つかみかかってくる下っ端の目の前に、右足を上げた。

 下っ端は自分からミゾオチをモーコの足にぶつけ、ゲロを吐きながら、その場に倒れた。
「てめえ!!」
 次の下っ端が飛びかかりながら、右の拳をモーコに見舞った。

『左拳を相手の肩めがけて突き出せ!』
 モーコは左拳を力いっぱい握りしめて前へくり出した。
 下っ端の右ストレートは、モーコがくりだした左腕の肘でブロックされ、モーコの腕を弾くように右へそらせた。
 モーコの左拳はクロスカウンターになって、飛びかかってきた下っ端の顎に炸裂した。

「舐めた真似しやがって・・・」
 不良のボスがモーコに近づいた。両手を拡げ、モーコに飛びかかった。

『伏せて!足払い!』
 一瞬にモーコが身を伏せた。ボスの前からモーコが消えたように見えた。
 モーコは小学生の時、サッカーをしていた。身を伏せたまま、コサックダンスのように、モーコはボスの足首に強烈な右回し蹴りを見舞った。

 両足をはらわれ、ボスの巨体が横向きのまま、アスファルトに倒れた。自分の体重のため、ダメージは大きい。

 さらに、次の下っ端がモーコに襲いかかったが、
『アイツの膝はサッカーボールだ!蹴ろ!』
 モーコのローキックが下っ端の膝を襲い、下っ端はその場に倒れた。それらを見ていた最後の下っ端は、その場から逃げだした。

 パトカーが来て不良たちを取り押さえた。
 コンビニからは、不良たちによる日頃の盗難が警察に報告されている。店長は、不良たちが一方的にモーコに手をだし、返り討ちに合ったと証言した。
 警察は正当防衛と見なしたが、モーコはありのままを話した。
 モーコと不良たちは、警察に連行されていった。


 翌日、モーコが省吾の病室に来た。
「ショウゴさん、ありがとう。ただ、おびえてるだけだといけないね。
 それと、ただ、戦うだけでも、いけないね。
 あとのことを考えないといけないとわかったよ・・・」
 モーコの背後にはデブの不良と下っ端がいた。
「みんな、私の友だちになったよ・・・」
 不良たちはモーコが警察に話す潔い態度に驚き、モーコを尊敬のまなざしで見るようになった、とモーコが説明した。そして、モーコに対する不良たちのなにかが変った。

『うん、よかった。みんな、これからもモーコの良い友だちでいてくれ!』
「ウイッス!師匠!」
 目だけの省吾の黙礼に、モーコと仲間があいさつした。

「モモコちゃん、よかったね」
 モーコたちを見て、省吾の手を握っている久美がほほえんでいる。
 最近、久美も、省吾に何が起っているか、感じはじめている。 
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