十六 麻取捜査官

文字数 1,062文字

 省吾は夢を見た。

 さっきまでコイツと言い争っていた。
 証拠の覚醒剤を手に入れたのに、コイツは
(ぶつ)を組織に渡す。組織に目をつけられたら、今後の捜査をできなくなる」
 と妙なこと口走って興奮し、私に銃を向け、
「覚醒剤をよこせ」
 といった。

 コイツ、私を脅してるんだ、と思ったら本当に撃った。
 私は反射的に応戦した。
 被弾した私の左肩から血が噴きだし、その場に倒れた。
 私の放った銃弾はコイツの額を貫通し、背後の壁にめり込んでいる。
 意識が薄れていく・・・。

 銃声を通報されたらしく、警官隊が押しよせた。
「私は麻取だ。責任者に『象牙の燻製を確保した』と伝えろ・・・」
 私はコンくリートの床に倒れたまま、麻取の身分を示す合い言葉を話し、保護を要請した。

 警官隊の責任者らしき私服の男が私にいう。
「捜査官、銃を置いてくれ。そして、ゆっく両手を後頭部に置いてくれ。
 我々は警視庁の組織犯罪対策部だ。君を保護する。良くやってくれた。
 私は刑事の福島だ。私が班を指揮している」
 警官隊は警視庁組織犯罪対策部特別班だった。

 私は福島刑事に訊いた。
「コイツ、仲間の下田広治だが、私を撃った。いったい何者だ?」
 福島刑事がいう。
「表向きは麻取だが、実態は組織から麻取に送りこまれた工作員、スパイだ」
「何だって?」
「我々組対はこうしたスパイを捜査してきた。
 彼らは子どものころから、組織のために働くよう、一般社会人として育てられている」

「私を撃ったのは、スパイと気づかれないようにするためか?」
「おそらくそうだ。麻取に潜入して、組織に潜入した麻取を逆捜査してたのだろう。
 おーい!暴力団員と女が死亡だ!
 救急車!死体を運べ!
 いいか。君は死んだ。わかったな!」
 組対の福島刑事は私に目配せした。

「そうだな・・・」
 私はあいまいに返事した。救護班が肩の銃創を治療している。鎮痛剤が投与され感覚が麻痺し、意識があいまいになりはじめた。
「まあ、ゆっくり休め。
 我々を警戒しなくていい。我々は麻取との共同捜査を開始した」
 私は、赤色灯が消えてサイレンも鳴っていない救急車で、廃墟ビルから病院へ運ばれた。

 厚生労働省麻薬取締官の上尾モモコは、警察病院のベッドで目覚めた。
 私はなぜここに居る?何があった?
 思いだそうとするが、覚醒剤を入手したあとの記憶がない・・・。
 モモコはベッドで呆然とした。

 病室で目覚めた省吾は、省吾の手を握っている久美に、麻薬取締官のことを伝えようとした。だが、動くのは目が少しだけだ。
 僕が経験したのはフィクションじゃない・・・。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み