第24話 こじれ
文字数 1,433文字
天十郎の「行方不明だ」という話があってから、しばらくして夏梅の着ものモデルの帯と着物を合わせるために、みんなで出かけた、
【黒川氏の美容室で】
僕らは黒川氏に引き留められた。
「つまりどういう事?」蒲が黒川氏に聞いた。
「ポートレートを見た茂呂社長から提案があった。天十郎と連絡が取れなくなった時点で、事務所とは契約違反で契約解除になっている」
蒲が吐き捨てるように「どんな契約だよ」というと、天十郎は情けない顔をした。
黒川氏は続けた。
「詳しい内容はわからないが、とにかく、天十郎と連絡がとれるなら、うちと新たに契約したいと言う事だ。弁護士にも相談中だが今の事務所との契約内容を確認して、うちにも天十郎にも不利にならないようにしたい」
「しかし、今の事務所が黙っていないのでは?」
蒲は不安そうだ。
「その辺は、茂呂社長が今の事務所と天十郎の契約がある限りその部分を含めた、ギャランティを考えるそうだ」
「そこまでして、天十郎が欲しいのか?」
黒川氏が頷きながら
「恐ろしい執念だよ。相手が悪いな。慎重に動かないとまずいかも知れない」
と答え、しばらくの沈黙のあと気を取り直したように
「で、考えてみたんだが、こちらはモデル・タレント事務所ではないのでメイクやヘアコーディネイトを基本契約にして、個人指名が出来ない専属モデルの貸し出しをする。モデル自体にフィを発生させないやり方が望ましいが、天十郎君は俳優だろ?モデル業だけをしていれば良い訳ではないだろ。
こちらは俳優業の営業スキルはないので、うちで引き受けるなら、そこのところを蒲がサポートしないと、難しい」
と黒川氏が、蒲に向かって尋ねるように話した。
すると今まで黙っていた天十郎が黒川氏に
「今の事務所との契約が切れる来年の四月まで、なんとかしのごうと思っていたのですが、今の話だと、黒川さんの所でしばらくモデルをして、その期間に蒲が俳優の方の営業をすると言う事ですか?」
「まだ、提案の段階だが、おおざっぱには、そうだ。まあ、いくつかの茂呂社長からの条件があるが…」
「どんな条件ですか?」
「今のところ、新たに月三回の化粧品の代理店研修の参加と半年間のコマーシャルタレントの契約延長がメインかな。半年というのは、丁度、今の事務所との契約が切れるタイミングでしょ」
「ああ、そうですね」
「なにか、ネックになる事はあるかな?」
黒川氏が天十郎に聞いた。天十郎は考えていたが
「たぶん、結婚が出来ないくらいじゃないですか?」
「そうか…。ここは笑っていいよな」
と黒川氏は楽しそうにした。
「ええ、いまのところ、結婚願望はないです」
黒川氏に合わせて天十郎も微笑んだ。
「しかし、どうして、こんな事になっているの?個人的な話を聞きたい訳ではないけれど、差しつかえのない程度でいいから、聞かせて欲しい。これじゃあ、本業ができないでしょ?」
「ええ、もとはと言えば、コマーシャルタレントの話があった時に、十八歳の時から付き合っていた梶原美来と別れるように事務所から指示があったのですが、その話がこじれて美来から高額の慰謝料を請求されました」
「えー。嘘みたい。仕事の為に別れるの?」
知らん顔して聞き耳を立てていた夏梅がその話題に反応した。その夏梅を横目で見ながら天十郎は続けた。
「そこのところは別に良くて、付き合っていた感覚も本当はなくて、取り巻きの一人だったのですが、いつの間にか、付き合っている事になっていたというか?」
「なんだい、それ?」
【黒川氏の美容室で】
僕らは黒川氏に引き留められた。
「つまりどういう事?」蒲が黒川氏に聞いた。
「ポートレートを見た茂呂社長から提案があった。天十郎と連絡が取れなくなった時点で、事務所とは契約違反で契約解除になっている」
蒲が吐き捨てるように「どんな契約だよ」というと、天十郎は情けない顔をした。
黒川氏は続けた。
「詳しい内容はわからないが、とにかく、天十郎と連絡がとれるなら、うちと新たに契約したいと言う事だ。弁護士にも相談中だが今の事務所との契約内容を確認して、うちにも天十郎にも不利にならないようにしたい」
「しかし、今の事務所が黙っていないのでは?」
蒲は不安そうだ。
「その辺は、茂呂社長が今の事務所と天十郎の契約がある限りその部分を含めた、ギャランティを考えるそうだ」
「そこまでして、天十郎が欲しいのか?」
黒川氏が頷きながら
「恐ろしい執念だよ。相手が悪いな。慎重に動かないとまずいかも知れない」
と答え、しばらくの沈黙のあと気を取り直したように
「で、考えてみたんだが、こちらはモデル・タレント事務所ではないのでメイクやヘアコーディネイトを基本契約にして、個人指名が出来ない専属モデルの貸し出しをする。モデル自体にフィを発生させないやり方が望ましいが、天十郎君は俳優だろ?モデル業だけをしていれば良い訳ではないだろ。
こちらは俳優業の営業スキルはないので、うちで引き受けるなら、そこのところを蒲がサポートしないと、難しい」
と黒川氏が、蒲に向かって尋ねるように話した。
すると今まで黙っていた天十郎が黒川氏に
「今の事務所との契約が切れる来年の四月まで、なんとかしのごうと思っていたのですが、今の話だと、黒川さんの所でしばらくモデルをして、その期間に蒲が俳優の方の営業をすると言う事ですか?」
「まだ、提案の段階だが、おおざっぱには、そうだ。まあ、いくつかの茂呂社長からの条件があるが…」
「どんな条件ですか?」
「今のところ、新たに月三回の化粧品の代理店研修の参加と半年間のコマーシャルタレントの契約延長がメインかな。半年というのは、丁度、今の事務所との契約が切れるタイミングでしょ」
「ああ、そうですね」
「なにか、ネックになる事はあるかな?」
黒川氏が天十郎に聞いた。天十郎は考えていたが
「たぶん、結婚が出来ないくらいじゃないですか?」
「そうか…。ここは笑っていいよな」
と黒川氏は楽しそうにした。
「ええ、いまのところ、結婚願望はないです」
黒川氏に合わせて天十郎も微笑んだ。
「しかし、どうして、こんな事になっているの?個人的な話を聞きたい訳ではないけれど、差しつかえのない程度でいいから、聞かせて欲しい。これじゃあ、本業ができないでしょ?」
「ええ、もとはと言えば、コマーシャルタレントの話があった時に、十八歳の時から付き合っていた梶原美来と別れるように事務所から指示があったのですが、その話がこじれて美来から高額の慰謝料を請求されました」
「えー。嘘みたい。仕事の為に別れるの?」
知らん顔して聞き耳を立てていた夏梅がその話題に反応した。その夏梅を横目で見ながら天十郎は続けた。
「そこのところは別に良くて、付き合っていた感覚も本当はなくて、取り巻きの一人だったのですが、いつの間にか、付き合っている事になっていたというか?」
「なんだい、それ?」