第83話 いまさらですか?
文字数 1,675文字
天十郎の元で眠っている夏梅と、天十郎の真向かいにいる僕の構図をみて、叶一が「ただいま」の声を引っ込めた。
【全寮制の中学にいる、叶一が久々に帰って来た】
天十郎が「お帰り」というと、いつも僕を見てガンを飛ばして来る叶一が、今日はどこを見ていいのか、迷った風な仕草を見せ。
「珍しいな。夏梅がここで天ママに抱きかかえられて、寝ているなんて」
そう言うと、キッチンに向かった。
「コーヒーでも飲むか?蒲パパはどうした?部屋かな?みんなは?」キッチンから声が聞こえる。
「子供達は見えているよな」天十郎が聞くので、僕はゆっくり頷いた。
「おい、叶一、塁は見えるのか?」叶一は、奥のキッチンから、怪訝な顔を出して僕の方をみた。
僕は笑いながら、頷くと、叶一は驚いたように「いつから?」僕に声をださずに聞いた。
「さっき」僕が普通に答えると
「ひぇー、今さらですか?日咲があれだけ、塁としゃべっていたのに、気が付かない人も凄いよな」僕が、笑ったまま頷くと
「今更って、しょうがないだろ…。おい、塁、その薄笑いをやめろ」天十郎は怒った。
「あれま、ほんとにわかる」声のトーンを上げて驚いた叶一を見て、天十郎は不愉快そうだが僕の方を向いて
【ところで、夏梅はわかるのか?】
「いや、わからないみたいだ」
「このままでいいのか?」
「どうしようもない」
僕は天十郎の質問に答えながら、僕を見られるようになったら、夏梅はどうなるだろう?僕の傍に来たがるかな?それとも、天十郎や子供達の傍に居たがるのか?どっちだろう。考えるだけで、つらくなる。僕が耐えている分、夏梅が地獄にならなければいいと思う。夏梅は、夏梅自身が生きるために、僕が隠れていると信じている。それでいい。
「おい、叶一お前いつから知っているの?」
「いつからって、生まれた時から一緒にいるよ」
「そうなのか?」
「天ママが、夏梅を持ち去った後に、蒲パパは俺たちを置き去りにして、どこかにいなくなっちゃうから、いつも塁ちゃんが面倒見てくれていた」
「ああ、子守ね。結構忙しかった」僕は笑った。
「そ、そうか?」
「夏梅の事も、玉実の事も塁ちゃんから聞いている。だから早くから寄宿舎生活をしたし、禾一なんか頭がいいからささっと、結婚して出て行った。俺も早く結婚しようかな」
「そうなんだ」
「だいたい、蒲パパなんて、俺たちの事は全く興味なしだろ。天ママと夏梅は自分ばっかりで、観察力のない人たちだから、塁ちゃんがいなくちゃこの家は成り立たないよ」
「叶一、普段、僕にガンを飛ばすくせに、こ傍痒いぜ」僕は笑った。
いつの世も、子供に高評価をもらえなかった父親は、非常に気まずい。
天十郎は落ち着きなく、頭を掻きながら
「俺だって、お前らを育てるのに大変だったぞ」
「笑わせるな、親が苦労して子供を育てるのは、当たり前の事で、すべからずみんなやっている。偉そうに言う事か!笑止」叶一が喝を入れた。
「さすが、生まれた時から大物だな」僕は、のびのびと育った叶一が可愛い。僕もそうでありたかった。と思う。
「まったく、この家で一番偉い奴かも知れん。参りました」天十郎は負けを譲った。
【夏梅のお母さんも、夏梅みたいだったのか?】
天十郎が聞いてきた。
「おばあさんがそうだったみたいだ。あまりいい死に方はしていないみたいだけどな。昔、夏梅のお母さんから、なんとなく聞いた覚えがあるが、詳しいことはわからない」
「夏梅みたいな奴って、数が少ないのだろ?」天十郎は疑問をぶつけた。
叶一も僕の隣に座って、会話に参加している。
「いや、そうでもないみたいだ、今、隠れている雄を揺さぶる女が、沢山、街に溢れれば、世の中が変わるかも知れない。玉実が表をどうどうと歩ける世界になればいい」
「どういう事?」叶一が聞いた。
「パンダが貴重だから群がるけれど、奈良の鹿みたいにそのへんにパンダだらけだったら興味もわかないだろう」簡単な僕のたとえに叶一が「なるほどな」と感心した。
「隠れている人が、多く表に出れば、きっと世の中の変化は大きいだろ?」話の筋を理解した天十郎が「しかし…」考え込んだ。
【全寮制の中学にいる、叶一が久々に帰って来た】
天十郎が「お帰り」というと、いつも僕を見てガンを飛ばして来る叶一が、今日はどこを見ていいのか、迷った風な仕草を見せ。
「珍しいな。夏梅がここで天ママに抱きかかえられて、寝ているなんて」
そう言うと、キッチンに向かった。
「コーヒーでも飲むか?蒲パパはどうした?部屋かな?みんなは?」キッチンから声が聞こえる。
「子供達は見えているよな」天十郎が聞くので、僕はゆっくり頷いた。
「おい、叶一、塁は見えるのか?」叶一は、奥のキッチンから、怪訝な顔を出して僕の方をみた。
僕は笑いながら、頷くと、叶一は驚いたように「いつから?」僕に声をださずに聞いた。
「さっき」僕が普通に答えると
「ひぇー、今さらですか?日咲があれだけ、塁としゃべっていたのに、気が付かない人も凄いよな」僕が、笑ったまま頷くと
「今更って、しょうがないだろ…。おい、塁、その薄笑いをやめろ」天十郎は怒った。
「あれま、ほんとにわかる」声のトーンを上げて驚いた叶一を見て、天十郎は不愉快そうだが僕の方を向いて
【ところで、夏梅はわかるのか?】
「いや、わからないみたいだ」
「このままでいいのか?」
「どうしようもない」
僕は天十郎の質問に答えながら、僕を見られるようになったら、夏梅はどうなるだろう?僕の傍に来たがるかな?それとも、天十郎や子供達の傍に居たがるのか?どっちだろう。考えるだけで、つらくなる。僕が耐えている分、夏梅が地獄にならなければいいと思う。夏梅は、夏梅自身が生きるために、僕が隠れていると信じている。それでいい。
「おい、叶一お前いつから知っているの?」
「いつからって、生まれた時から一緒にいるよ」
「そうなのか?」
「天ママが、夏梅を持ち去った後に、蒲パパは俺たちを置き去りにして、どこかにいなくなっちゃうから、いつも塁ちゃんが面倒見てくれていた」
「ああ、子守ね。結構忙しかった」僕は笑った。
「そ、そうか?」
「夏梅の事も、玉実の事も塁ちゃんから聞いている。だから早くから寄宿舎生活をしたし、禾一なんか頭がいいからささっと、結婚して出て行った。俺も早く結婚しようかな」
「そうなんだ」
「だいたい、蒲パパなんて、俺たちの事は全く興味なしだろ。天ママと夏梅は自分ばっかりで、観察力のない人たちだから、塁ちゃんがいなくちゃこの家は成り立たないよ」
「叶一、普段、僕にガンを飛ばすくせに、こ傍痒いぜ」僕は笑った。
いつの世も、子供に高評価をもらえなかった父親は、非常に気まずい。
天十郎は落ち着きなく、頭を掻きながら
「俺だって、お前らを育てるのに大変だったぞ」
「笑わせるな、親が苦労して子供を育てるのは、当たり前の事で、すべからずみんなやっている。偉そうに言う事か!笑止」叶一が喝を入れた。
「さすが、生まれた時から大物だな」僕は、のびのびと育った叶一が可愛い。僕もそうでありたかった。と思う。
「まったく、この家で一番偉い奴かも知れん。参りました」天十郎は負けを譲った。
【夏梅のお母さんも、夏梅みたいだったのか?】
天十郎が聞いてきた。
「おばあさんがそうだったみたいだ。あまりいい死に方はしていないみたいだけどな。昔、夏梅のお母さんから、なんとなく聞いた覚えがあるが、詳しいことはわからない」
「夏梅みたいな奴って、数が少ないのだろ?」天十郎は疑問をぶつけた。
叶一も僕の隣に座って、会話に参加している。
「いや、そうでもないみたいだ、今、隠れている雄を揺さぶる女が、沢山、街に溢れれば、世の中が変わるかも知れない。玉実が表をどうどうと歩ける世界になればいい」
「どういう事?」叶一が聞いた。
「パンダが貴重だから群がるけれど、奈良の鹿みたいにそのへんにパンダだらけだったら興味もわかないだろう」簡単な僕のたとえに叶一が「なるほどな」と感心した。
「隠れている人が、多く表に出れば、きっと世の中の変化は大きいだろ?」話の筋を理解した天十郎が「しかし…」考え込んだ。