第7話 夏梅方式

文字数 1,341文字

「えっ、うん」

 天十郎のベクトルは反応していた。蒲が笑いながら「やっぱり。お前も性別は男だな」と下をみた。

「なんだよ」天十郎が恥ずかしそうに夏梅に背を向けた。



【天十郎が洗い終わり、湯船に入るとお湯があふれ出した】

「やっぱり大きいな」夏梅が言うと、天十郎は「見るな」とからだをさらによじらせた。

「なによ」
「それより、天十郎はどう?湯船で香りが取れてきたからわかる?」

 蒲が夏梅に聞いた。

「そう?どれどれ」

 夏梅が逆に、湯船の中の天十郎に向かって身を乗り出していた。夏梅の豊かな胸が目の前に迫り、天十郎は目を白黒させている。

「おい、垢を落とせ湯船に入れるな」

 夏梅を突き放そうとすると夏梅は無表情のまま「蒲、シャワー」命令した。すると、反射的に体を動かしてシャワーで夏梅の垢を落とし始めた。

 何度も夏梅は蒲に「もーいいかい」と聞いた。蒲はエステサロンのマッサージ師のように、丁寧に手で夏梅の垢を落とす。落とし終わり「もーいいよ」と、蒲が言ったとたんに、夏梅は湯船に入り、上半身をぶつけるように、天十郎を抱き寄せて「ふんふん」と、臭いをかぎ始めた。

「お前は犬か」

 天十郎がよけようとするが、からだをさらに乗り出して、頭の臭いを嗅ごうとしている。夏梅の胸が顔の真ん前にある。

「おい、抱き枕みたいだ。窒息するよ」

 天十郎は悲鳴に近い声を出しながら騒いだ。

「大丈夫かも」夏梅が言った。
「おお?」蒲は満足げだ。



【天十郎は夏梅をよけながら】

「なんで、頭の臭いだ」

「頭部の皮脂腺や汗腺から出る成分は、からだの中でも、しつこいほうだから、シャンプーや整髪料・ボディソープなどで、体臭が消えていても、そこで確認すれば、私は大丈夫かどうかわかる」

「何が大丈夫だ」

 蒲が笑う。もがきながら騒ぎ続ける天十郎を抱きしめながら、夏梅は一緒に湯船に入った。

「酔っぱらい!あんたの体臭は悪くないよ。きっとこれで、人を引き付けているのだね」
「何を言っている」

「あんたも、石鹸とかボディソープ、シャンプーリンスをやめなよ。必要のないものをつけて、折角のいい匂いを消すなんてもったいないよ」

「だけど、汗臭くなる」

 すると蒲が

「もちろん、汗も体臭だ。食べものだけでも体臭は違って来る。石鹸とかボディソープ、シャンプーリンスを全面的に否定しないけど、洗濯だってなんだってすすぎが肝心。成分が残れば悪臭の根源となるよ。不要な物が残れば余計に臭くなるのは当然。毎日、シャワーを浴びて下着を変えていれば1週間もしないうちに、汗臭さは気にならなくなる」

「だけど…」

「俺も、この夏梅方式でモテるのさ。夏梅なんか、外出するときにわざわざフレグランスを使って、体臭を消しているくらいだ。人気商売だったら必要じゃないの?強制はしないよ。ただし、この家では使わないルールだから、このうちにいるのなら、化粧品、石鹸、ボディソープ、シャンプー、柔軟剤など臭いの強いものは、諦めろ」

「整髪料は?」
「ワセリンとかベビーオイルで十分だ」

「冬場、カサカサしたら?」
「薬事があるから、効果を期待するなら病院で治療するか医薬品だ。お金が無駄にならない」

「うん、そうか?」
「天十郎は、茂呂社長の化粧品のコマーシャルタレントをしているから、使わないといけないのか?」
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登場人物紹介

夏梅(なつめ)…フリーライター。

亜麻 天十郎(あま てんじゅうろう)…精悍な顔立ちのイケメン俳優。

真間 塁(まま るい)…夏梅の家で暮らしている僕。

蒲 征貴(かば まさたか)…夏梅の同居人。可愛い童顔に似合わない行動を起こす。

黒川 典文(くろかわ のりふみ)…だてメガネの黒川氏 夫婦で美容室を経営 僕たちのよき先輩。

黒川 日美子(くろかわ ひみこ)…黒川氏の奥さん 幼い頃から夏梅をみている。

積只 吉江(つみた だよしえ)…黒川氏の美容室スタッフ。夏梅と極端に反発しあう。

立花 孝之(たちばな たかゆき)…釣り仲間の先輩。雑誌編集長。

紅谷 和樹(べにや かずき)…メークアップアーティスト。僕らの関係に興味を持つ。

茂呂 鈴里(もろ すずり)…化粧品メーカーの社長。天十郎に固執している。

梶原 美来(かじわら みらい)…天十郎の元カノ。美術館で騒ぎを起こす。

吉岡 修史(よしおか しゅうし)…編集記者。夏梅達の関係を暴露しようとする。

亜麻 日咲(あま にこ)…20歳 別名ニコラッチ

亜麻 禾一(あま かいち)…19歳 早々に結婚して芸能界へ

亜麻 玉実(あま たまみ)…17歳 夏梅二世

亜麻 叶一(あま きょういち)…15歳 全寮制の男子校に通っている。大物

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