第18話 化ける
文字数 1,443文字
【翌日、黒川氏夫婦の美容室に行くと】
メイクアーティストの和樹が個室のパウダールームで待っていた。その他、黒川氏と吉江しかいない。和樹は遠目に夏梅を見た瞬間に
「ちょっとこの子は嫌よ」
黒川氏の方を向いた。黒川氏は黙って頷いた。
「どうして?」
吉江は怪訝そうな顔をした。
しかし和樹が同行した蒲と天十郎を見ると
「あら、美形が二人?あれれ、てんちゃん?」
親しそうに天十郎にしな垂れた。どうやら知り合いのようだ。
「和樹さん、こんにちは」
「あら奇遇。なにをしているの?」
「夏梅の付き添いで…」
「あら、この子の付き添いなの?」不愉快そうな顔をしてから「困ったわね、黒川氏と相談しましょう」と和樹は吉江に言った。
【夏梅一人をパウダールームに置いて】
黒川氏は吉江、蒲、天十郎を連れて事務室に向かった。僕も、彼らについていった。事務室に到着すると、さっそく和樹は熱弁を振るった。
「だからね。あの子はダメなの。化粧は化けるから化粧なの、あの子の顔立ちは化粧映えしない顔」
すると、吉江は馬鹿にしたように笑いながら
「どういうこと?これ以上どうしようもないってこと?」
「そうね。言い方を変えればね。化粧は、その人の個性が引き立つように、最初にポイントを探るの。例えば、目が印象的であれば、それを引き立ててより印象深くする。みたいにね。あの子は、各パーツ配置が完璧でそのポイントがない。あの小顔で、足首がこんなに細いと立ち姿もバランスが取れている。完璧すぎて、特徴がないのよ。あえていえば、完璧という欠陥がある。無理だね。特徴がなく目立たない配置だけど、存在がすべての人の関心を引いてしまうような子だわ」
「じゃ、モデルが出来るの」
「それも違う。通常モデルはどれだけ洋服が綺麗に見せられるかが、勝負でしょ。あの子はどんな洋服も、サイズがあえば、自分に合うように着こなすはず、何を着ても、あの子のまま。どんな役をやってもカッコいい高倉健と同じ!そんな感じかな。良くも悪くも、大変な子だわ。私も長年やって来たけど、こんな子にあったのは初めて」
その和樹の話を受けて黒川氏が
「和樹さんありがとう。今日の話はここまでだな。天十郎君、夏梅ちゃんを呼んで来てくれるかな」
天十郎に声をかけた。天十郎はパウダールームに夏梅を迎えにいった。
しかし、蒲と吉江は諦めない。「芸能界なら誰っぽいの?」さらに吉江が振って来た。
「あそこまで、完璧な子は芸能界でもいないわよ。それに特徴がないのに芸能界で生きていける訳がない」
「美人がいっぱいいるだろ?」蒲は可笑しそうに聞くと
「あの子はその辺にいる、ただの美人じゃないの。たぶん、あの子は、化粧したことがないでしょ」
「なんか、リップクリームしかないって」ばかにしたように、吉江が答えた。
「そうよね。化粧をしない理由がわかる?あんたみたいに、特徴があって化粧をすれば、何とかなる顔立ちとは違うのよ。パーフェクトすぎて、芸能界は無理ね。あっ、でも、例えば天ちゃんとの共演なら可能でしょ?」
「天十郎君と共演?」黒川氏が驚いた。
「天ちゃん、化粧品のコマーシャルタレントをやっているでしょ。今度の新製品のカバーガールなら最適じゃない?瞬間的に注目させる力はあると思うわよ」
「ああ、なるほどね。わかるような気がする」
「造られていない、本当の人間の美なのだけど、あんな人もいるのね」
黒川氏と和樹が真剣に話す中、蒲のおふざけが止まらない。
「とりあえず、ファンデーションとかさ、つけまつげとかさ」
メイクアーティストの和樹が個室のパウダールームで待っていた。その他、黒川氏と吉江しかいない。和樹は遠目に夏梅を見た瞬間に
「ちょっとこの子は嫌よ」
黒川氏の方を向いた。黒川氏は黙って頷いた。
「どうして?」
吉江は怪訝そうな顔をした。
しかし和樹が同行した蒲と天十郎を見ると
「あら、美形が二人?あれれ、てんちゃん?」
親しそうに天十郎にしな垂れた。どうやら知り合いのようだ。
「和樹さん、こんにちは」
「あら奇遇。なにをしているの?」
「夏梅の付き添いで…」
「あら、この子の付き添いなの?」不愉快そうな顔をしてから「困ったわね、黒川氏と相談しましょう」と和樹は吉江に言った。
【夏梅一人をパウダールームに置いて】
黒川氏は吉江、蒲、天十郎を連れて事務室に向かった。僕も、彼らについていった。事務室に到着すると、さっそく和樹は熱弁を振るった。
「だからね。あの子はダメなの。化粧は化けるから化粧なの、あの子の顔立ちは化粧映えしない顔」
すると、吉江は馬鹿にしたように笑いながら
「どういうこと?これ以上どうしようもないってこと?」
「そうね。言い方を変えればね。化粧は、その人の個性が引き立つように、最初にポイントを探るの。例えば、目が印象的であれば、それを引き立ててより印象深くする。みたいにね。あの子は、各パーツ配置が完璧でそのポイントがない。あの小顔で、足首がこんなに細いと立ち姿もバランスが取れている。完璧すぎて、特徴がないのよ。あえていえば、完璧という欠陥がある。無理だね。特徴がなく目立たない配置だけど、存在がすべての人の関心を引いてしまうような子だわ」
「じゃ、モデルが出来るの」
「それも違う。通常モデルはどれだけ洋服が綺麗に見せられるかが、勝負でしょ。あの子はどんな洋服も、サイズがあえば、自分に合うように着こなすはず、何を着ても、あの子のまま。どんな役をやってもカッコいい高倉健と同じ!そんな感じかな。良くも悪くも、大変な子だわ。私も長年やって来たけど、こんな子にあったのは初めて」
その和樹の話を受けて黒川氏が
「和樹さんありがとう。今日の話はここまでだな。天十郎君、夏梅ちゃんを呼んで来てくれるかな」
天十郎に声をかけた。天十郎はパウダールームに夏梅を迎えにいった。
しかし、蒲と吉江は諦めない。「芸能界なら誰っぽいの?」さらに吉江が振って来た。
「あそこまで、完璧な子は芸能界でもいないわよ。それに特徴がないのに芸能界で生きていける訳がない」
「美人がいっぱいいるだろ?」蒲は可笑しそうに聞くと
「あの子はその辺にいる、ただの美人じゃないの。たぶん、あの子は、化粧したことがないでしょ」
「なんか、リップクリームしかないって」ばかにしたように、吉江が答えた。
「そうよね。化粧をしない理由がわかる?あんたみたいに、特徴があって化粧をすれば、何とかなる顔立ちとは違うのよ。パーフェクトすぎて、芸能界は無理ね。あっ、でも、例えば天ちゃんとの共演なら可能でしょ?」
「天十郎君と共演?」黒川氏が驚いた。
「天ちゃん、化粧品のコマーシャルタレントをやっているでしょ。今度の新製品のカバーガールなら最適じゃない?瞬間的に注目させる力はあると思うわよ」
「ああ、なるほどね。わかるような気がする」
「造られていない、本当の人間の美なのだけど、あんな人もいるのね」
黒川氏と和樹が真剣に話す中、蒲のおふざけが止まらない。
「とりあえず、ファンデーションとかさ、つけまつげとかさ」