じゅうなな

文字数 896文字

 翌日のプレゼンも無事に終わった。後片付けをしているところに、上野さんが缶コーヒーを2つ持ってこちらへやって来た。

「早乙女くん、今日はお疲れ様。」

「あ、お疲れ様です」

 上野さんが近くにあった椅子に座り、コーヒーを差し出した。俺は「ありがとうございます」と言い、隣に座った。

「とりあえず無事に終わって良かった。早乙女くん、結構プレゼン上手いんだね」

 上野さんは缶を空けて一口飲んだ。

「いやぁ、そんなことないですよ」

「この前も言ったけど、早乙女くんのおかげで色々と勉強させてもらった。改めてありがとう」

「こちらこそ、言い方悪くてすみませんでした」

「早乙女くんって、今いくつなの?」

「29歳です」

「29歳かあ。若手でもないしベテランでもない。よく分かんない時期だよね」

「これといってやりたいことが見つからないんですよ。30代って楽しいですか?」

「私は仕事バリバリやろうって決めていたから、今、すごく楽しい。30代だからってことはないけど、10の位が変わるタイミングなんだから、自分らしさを考えてみるのもいいんじゃない?これからどんな大人になっていくかを考える準備期間なんじゃないかな」

「29歳としての心得が、最後の最後に分かった気がします」

「最後って?」

「明日誕生日なんですよ」

「そうなんだ。素敵な30歳になってね」

「ありがとうございます」

 2人でコーヒーを飲んでいると、奥から半田さんの声が聞こえた。

「おう、まだいたのか。一杯行くか?」

 またお得意のジョッキを飲む仕草をしている。俺は上野さんと顔を合わせて頷いた。

「よし、じゃあすぐアレしてくれ。汚いけど良い居酒屋があるんだ。よし、じゃあ残ってる橋本と板橋も呼んでくる」と言って半田さんは走って行った。

「じゃあたまには行きますか。20代ラストナイトだね!」

「感慨深いですね。あ、さっきの資料シュレッダーしますか?」

「じゃあお願いしようかな」

「それじゃあ、先に行っててください」

「うん、下で待ってるから」

 そう言うと、上野さんがカバンを持って出て行った。この部屋には自分しかいない。俺は機械の電源ボタンを入れ、今日使った資料をシュレッダーにかけた。
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