じゅうよん

文字数 707文字

 目的を持って過ごすと、時間が経つのが早い。もう金曜日だ。今日もコンビニで缶チューハイでも買って飲もう。あと一仕事を終えれば1週間が終わる。そう考えると自然と足取りが軽くなった。

「あ・・・」

 廊下を歩いていると、今1番会いたくない人が目の前にいた。上野さんが気まずそうな顔でこちらを見ている。

「お疲れ様です」

「・・・」

 上野さんが何か言う前に、俺は挨拶だけしてその場を去ろうとした。

「早乙女くん。最近、ハッキリと言い過ぎじゃない?・・・でもあの後よく考えたら、早乙女くんの言っていることって正論だなって思うの。今まで私に意見する人なんていなかったから、いつもつい熱くなっちゃって」

「え・・・?」

 想定外の方向に物事が進んでいる。もっと溝が深まらないといけないのに、俺の意見に賛同されてしまっている。

「いや、僕の意見は必ずしも正しいとは限らなくて・・・」

「今更何を言っているのよ。私、最近プライベートで若い人たちと話す機会があって、相談に乗ってあげることが多いんだよね。なんか、彼らの悩みを聞いていたら私も自分を見つめ直さなきゃって思ったの」

「若い人って、部下ですか?」

「ううん、全く違う人たち。インターネット上のサービスなんだけどね」

「そうなんですか。とにかく、僕の意見を受け止めていただいて嬉しいです」

「こちらこそ、早乙女くんのおかげで大切なことに気付けた。ありがとう」

 そう言うと、上野さんは前髪を掻き上げながら歩き出した。確かに上野さんは筋が通っていればちゃんと聞いてくれる人だと聞いている。しかし、俺たち採用側とは溝があったから、あのような排他的な態度だったのだろう。俺はすぐに帰り支度をして家路に着いた。
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