きゅう

文字数 376文字

「ではこれで面接を終わりにします」

 半田さんは姿勢を正して一礼をした。次の面接まで30分空く。俺は背もたれに体を預けて一息ついた。

「早乙女、その『正』の字はなんだ?」

 俺と同じ姿勢の半田さんが、俺のノートを覗き込んできた。

「あぁ、これは、何て言うか・・・」

「面接で早乙女が良いと思った人数?」

「あぁ、そんな感じです」

 面倒だったので、俺は適当に誤魔化した。本当は退職理由を数えていた。今日これまで面接した数は8人。『上司と考え方が合わない』が5人、『待遇が悪い』が2人、『転勤』が1人だった。この『正』の字が、俺の心を突き動かした。

『上司と考え方が合わなくて辞めた』

 これだ。俺もこれを理由に会社を辞めればいいのだ。強く書かれたこの「正」の字が、俺を正しい方向に導いてくれるに違いない。俺の背中を後押しするように、胸ポケットの周りが熱くなった気がした。
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