じゅう
文字数 1,349文字
「そう言えば今日、snackオンラインやってる人が2人もいたな」
今日の面接が全て終わりデスクでくつろいでいると、半田さんが思い出した様に呟いた。
「snackオンライン?なんですか、それ」
「20代前半をターゲットにした、WEB上のサービスだよ。1人マスターがいて、3〜4人くらいのお客さんを呼ぶんだ」
「そうなんですか。マスターっていうのはどういうことですか?」
「応募制で、いろんな職業の人たちがいるらしいぞ。もちろん、普通のサラリーマンを始め、弁護士とか、アイドルなんかもいるんだってな。審査があるんだろうけどな」
「若い人たちが相談できる場ってことですか」
「そういうことだ。知らなかったのか?結構有名っぽいぞ」
半田さんは流行に遅れまいと情報収集を欠かさない。こういうことも大事なことなのだろう。俺はまだ20代。たまたまこのサービスを知らなかっただけかもしれないが、若者の間で流行っているものくらいは分かっているつもりだ。俺は『正』の字が書かれたメモをポケットに入れて、給湯室へ足を運んだ。
「早乙女さん、夜遅くまでお疲れ様です。あ、よかったらこれどうぞ」
橋本が醤油味の煎餅を1つ持って俺の席にやってきた。
「ありがとう。今日はほぼぶっ通しで12人やったよ。今日はもう帰るわ」
俺が煎餅を受け取ると、橋本は「お疲れ様です」と一礼をしてこの場を離れようとした。
「あ、橋本。snackオンラインって知ってる?」
俺は咄嗟に浮かんだ疑問を投げかけた。
「え、今更ですか?ちょっと前から流行ってますよ。まぁ、僕は利用したことはないですけどね。それがどうかしたんですか?」
「いや、面接しているときに、それが息抜きだっていう人がいてな。半田さんと盛り上がっていたんだよ」
「20代前半の社会人の間で流行っていますから、おかしくはないですよね。そう言えば、相原さんが利用しているって聞きましたよ」
そうか。これはたまたま知らなかったじゃ済まされないくらい流行っているのか。いつの間にか20代の常識が、俺の当たり前では無くなっている。彼らは決して排他的ではないのにも関わらず、俺が勝手に淘汰されているだけだと気付いた。俺はいつから、流行についていけなくなったのだろう。俺だけ置いて行かれているような気がした。
「相原さん、初々しくていいですよね。そういえば今度、若手だけで飲み会をするんですよ」
「23歳って感じだな。俺もあんな感じだったっけ」
俺はもう、彼らの中では若手ではないのだろう。若手飲み会の話題には触れず、話を逸らした。
「早乙女さんの落ち着いた感じからは想像できないですけどね」
「そうかな。これ、ありがとうな」
俺が煎餅を見せながら言うと、橋本は先程と同じ動作をしてこの場を離れた。俺が新卒の頃は若いってだけでチヤホヤされて、それだけで自分は無敵だと思っていた。20代は永遠に続くと思ったりもした。最近、何となく感じてはいたが、改めて20代前半くらいの人たちを見ると、若いなあと感じるようになった。同じ20代のはずなのに、全く違う年代のように見える。20代にすがるのはもう辞めて、30代に向き合う時が来たということなのだろうか。俺は一瞬、自分の感情が分からなくなった。これが29歳であることの難しさなのだろうか。
今日の面接が全て終わりデスクでくつろいでいると、半田さんが思い出した様に呟いた。
「snackオンライン?なんですか、それ」
「20代前半をターゲットにした、WEB上のサービスだよ。1人マスターがいて、3〜4人くらいのお客さんを呼ぶんだ」
「そうなんですか。マスターっていうのはどういうことですか?」
「応募制で、いろんな職業の人たちがいるらしいぞ。もちろん、普通のサラリーマンを始め、弁護士とか、アイドルなんかもいるんだってな。審査があるんだろうけどな」
「若い人たちが相談できる場ってことですか」
「そういうことだ。知らなかったのか?結構有名っぽいぞ」
半田さんは流行に遅れまいと情報収集を欠かさない。こういうことも大事なことなのだろう。俺はまだ20代。たまたまこのサービスを知らなかっただけかもしれないが、若者の間で流行っているものくらいは分かっているつもりだ。俺は『正』の字が書かれたメモをポケットに入れて、給湯室へ足を運んだ。
「早乙女さん、夜遅くまでお疲れ様です。あ、よかったらこれどうぞ」
橋本が醤油味の煎餅を1つ持って俺の席にやってきた。
「ありがとう。今日はほぼぶっ通しで12人やったよ。今日はもう帰るわ」
俺が煎餅を受け取ると、橋本は「お疲れ様です」と一礼をしてこの場を離れようとした。
「あ、橋本。snackオンラインって知ってる?」
俺は咄嗟に浮かんだ疑問を投げかけた。
「え、今更ですか?ちょっと前から流行ってますよ。まぁ、僕は利用したことはないですけどね。それがどうかしたんですか?」
「いや、面接しているときに、それが息抜きだっていう人がいてな。半田さんと盛り上がっていたんだよ」
「20代前半の社会人の間で流行っていますから、おかしくはないですよね。そう言えば、相原さんが利用しているって聞きましたよ」
そうか。これはたまたま知らなかったじゃ済まされないくらい流行っているのか。いつの間にか20代の常識が、俺の当たり前では無くなっている。彼らは決して排他的ではないのにも関わらず、俺が勝手に淘汰されているだけだと気付いた。俺はいつから、流行についていけなくなったのだろう。俺だけ置いて行かれているような気がした。
「相原さん、初々しくていいですよね。そういえば今度、若手だけで飲み会をするんですよ」
「23歳って感じだな。俺もあんな感じだったっけ」
俺はもう、彼らの中では若手ではないのだろう。若手飲み会の話題には触れず、話を逸らした。
「早乙女さんの落ち着いた感じからは想像できないですけどね」
「そうかな。これ、ありがとうな」
俺が煎餅を見せながら言うと、橋本は先程と同じ動作をしてこの場を離れた。俺が新卒の頃は若いってだけでチヤホヤされて、それだけで自分は無敵だと思っていた。20代は永遠に続くと思ったりもした。最近、何となく感じてはいたが、改めて20代前半くらいの人たちを見ると、若いなあと感じるようになった。同じ20代のはずなのに、全く違う年代のように見える。20代にすがるのはもう辞めて、30代に向き合う時が来たということなのだろうか。俺は一瞬、自分の感情が分からなくなった。これが29歳であることの難しさなのだろうか。