ご
文字数 1,207文字
時計の針は13時を回った。俺は空になった弁当の容器を持って給湯室へと向かった。毎日同じものを食べ、決まった時間に捨てにいく。食べるという行為も含めて、一連の作業として捉えている。2次面接のデビュー戦まであと30分弱。何もこんな時間にやらなくてもとつくづく思う。満腹感と睡魔を戦闘力に変えるのは至難の技だ。
トイレで顔を洗い、鏡の前でネクタイを締め直す。そして「よし」と声に出して、魅力的に見える表情をしてみせる。この儀式は、俺が志望者としてこの会社の面接を受けたときからずっと続いている。今となってはこれも、1日の作業のうちの1つでしかない。俺はため息を1つついてトイレのドアを開けた。
(コンコン)
ドアの向こうからノックの音が聞こえる。気合いか緊張の表れか、少し大きめの音だ。
「失礼します」
この時期は第二新卒の面接の真っ只中だ。志望者は24歳で、爽やかな笑顔が印象に残る。なんとなく後輩の橋下が脳裏に浮かんできた。椅子に掛けてもらった後、俺は軽く自己紹介をした。
「面接官の早乙女と申します」
「同じく人事部の半田です」
「営業部の三上です」
半田さんに加え、営業部の三上部長も同席している。三上部長は、見た目こそ少し厳つめだが、気さくな性格で話しかけやすい。しかし志望者の表情が強張っているため、場の空気はやや重苦しかった。お互いに一礼をした後、俺は自己紹介をお願いした。
「はい。えー私、小島と申します。前職ではオフィス機器の営業をしておりました。商材は異なりますが、御社の商品に興味を持ち、営業職に応募させていただきました」
「なるほど。なんでウチの会社なの?」
「御社を志望する理由はー」
派手さはないが、はっきりとした口調で端的にまとめている。そして、相手に質問をさせながら上手くキャッチボールをしていく。面接の基本を自然とクリアするあたりは、さすが営業出身といったところか。社会人2年目でこの受け答えはまずまずに感じる。少々感心しながら履歴書に目を通すと、特に秀でたものが見当たらない。これが1次面接なら通すが、2次面接となると微妙なところだ。これまでは最低限のレベルさえクリアしていれば良いという考え方で評価していた。つまり、『減点法』だ。長所ではなくどうしても短所の方に目が行ってしまう。こんなつまらない見方しかできない俺は、人を見る目なんてあるのだろうか。いや、それ以前に人に興味が無いのかもしれない。
「早乙女さん、最後に何かありますか?」
半田さんが俺に話を振ってきた。時計を見ると、面接開始からすでに30分が過ぎようとしていた。思わず時計を二度見してしまったが、ペラペラと履歴書を捲りながら平静を装った。
「私は特に大丈夫です」
横を見ると、半田さんと三上部長はスッキリとした表情を浮かべていた。何も言わずとも、その表情が終了の合図だと受け取った。
「それでは、面接は以上です。ありがとうございました」
トイレで顔を洗い、鏡の前でネクタイを締め直す。そして「よし」と声に出して、魅力的に見える表情をしてみせる。この儀式は、俺が志望者としてこの会社の面接を受けたときからずっと続いている。今となってはこれも、1日の作業のうちの1つでしかない。俺はため息を1つついてトイレのドアを開けた。
(コンコン)
ドアの向こうからノックの音が聞こえる。気合いか緊張の表れか、少し大きめの音だ。
「失礼します」
この時期は第二新卒の面接の真っ只中だ。志望者は24歳で、爽やかな笑顔が印象に残る。なんとなく後輩の橋下が脳裏に浮かんできた。椅子に掛けてもらった後、俺は軽く自己紹介をした。
「面接官の早乙女と申します」
「同じく人事部の半田です」
「営業部の三上です」
半田さんに加え、営業部の三上部長も同席している。三上部長は、見た目こそ少し厳つめだが、気さくな性格で話しかけやすい。しかし志望者の表情が強張っているため、場の空気はやや重苦しかった。お互いに一礼をした後、俺は自己紹介をお願いした。
「はい。えー私、小島と申します。前職ではオフィス機器の営業をしておりました。商材は異なりますが、御社の商品に興味を持ち、営業職に応募させていただきました」
「なるほど。なんでウチの会社なの?」
「御社を志望する理由はー」
派手さはないが、はっきりとした口調で端的にまとめている。そして、相手に質問をさせながら上手くキャッチボールをしていく。面接の基本を自然とクリアするあたりは、さすが営業出身といったところか。社会人2年目でこの受け答えはまずまずに感じる。少々感心しながら履歴書に目を通すと、特に秀でたものが見当たらない。これが1次面接なら通すが、2次面接となると微妙なところだ。これまでは最低限のレベルさえクリアしていれば良いという考え方で評価していた。つまり、『減点法』だ。長所ではなくどうしても短所の方に目が行ってしまう。こんなつまらない見方しかできない俺は、人を見る目なんてあるのだろうか。いや、それ以前に人に興味が無いのかもしれない。
「早乙女さん、最後に何かありますか?」
半田さんが俺に話を振ってきた。時計を見ると、面接開始からすでに30分が過ぎようとしていた。思わず時計を二度見してしまったが、ペラペラと履歴書を捲りながら平静を装った。
「私は特に大丈夫です」
横を見ると、半田さんと三上部長はスッキリとした表情を浮かべていた。何も言わずとも、その表情が終了の合図だと受け取った。
「それでは、面接は以上です。ありがとうございました」