さん

文字数 760文字

 席に戻るや否や、6年先輩の半田さんがファイルを片手に俺のところにやってきた。わざわざ俺が戻るタイミングを測っていたようだ。半田さんは常にやる気に満ち溢れていて、前のめりで仕事に打ち込むタイプだ。何事にも真っ直ぐで面倒見が良い人だが、俺の性格とは正反対で、正直苦手だ。

「早乙女、これ、今年の応募者のエントリーシートなんだが、事前にちょっとアレしといてくれる?」

「アレって・・・目を通すってことですか?」

 俺は急いでタンブラーをデスクに置いて、ファイルを受け取った。

「そうそう!じゃあ、よろしく」

 そう言って俺の肩に手をポンと置くと、颯爽と去っていった。

 俺が所属する人事部は、派閥が2つある。採用担当と教育担当だ。この2つは昔から仲が悪い。もはや「チーム」ではなく「派閥」と言った方がしっくりくる。実は昨年、若手の離職率が高いことが会社全体の問題となった。事業拡大で各部署の体制が追いついておらず、若手の力を最大限に発揮できていないようだ。残業が増え、社内の雰囲気も次第に悪くなっている。そして、体調不良やモチベーションの低下が離職という結果に繋がっているのだ。

 今年はこの問題を解決するよう、役員からお達しがあった。採用側も教育側も、本来なら一緒になって考えなくてはいけないのに、この問題が2つの派閥の関係をさらに悪化させている。つまり俺たち採用側からすれば教育側が悪く、教育側からすれば採用側が悪いということだ。この溝を埋めない限りは、問題解決なんて程遠い。

 そんなことは分かっているが、俺はどうせ会社を辞めるからどうでも良い。自分が面倒なことにさえならなければ、どちらが悪くても構わない。2つの派閥に共通して言えることは、何かが起きるとすぐに誰かのせいにしたがるところだ。自分さえ良ければとでも思っているのだろう。
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