じゅうさん

文字数 636文字

「さすがに言い過ぎたんじゃ無いのか?早乙女」

「半田さんもずっと我慢されていたんじゃないですか?ずっと採用チームが悪いって言われて」

「まぁ、正直スカッとした部分はあるな」

 そう言うと俺たちは声を上げて笑った。

「次の会議で間を取り持つの気まずいなぁ」

「すみません」

「まぁ、なんとかなるだろう」

 俺たちも会議室を出た。体中の力が抜けて、マラソンの後のような充実感が溢れ出てきた。手応えは十分。これで俺は会社から淘汰されて辞めていくのだ。俺が描いたストーリーの1番大事な冒頭部分が終わった。後は台本通りに事を進めていくだけだ。席に着いた後、タンブラーを手に取って給湯室に向かった。

 その次の週の会議も、俺は臆せずに上野さんに立ち向かった。『上司との意見の食い違い』は突拍子もないことを言うのではなく、きちんと議論を戦わせないと意味がない。俺は自分なりに筋の通った意見を持ち合わせるようにして、会議の度に上野さんとぶつかった。その取り組みの結果、上野さんの敵は半田さんから俺に完全にシフトしたようだ。上野さんの口調も次第に強まり、半田さんが間に入ることが多くなった。しかしその気遣いは水に油で、お互いのエネルギーとなっていった。もう一押し、あと一押し・・・。俺は絶対に引く気はない。俺の将来のために。

 半田さんの仕切りで、思いの外話し合い自体はトントン拍子に進んだ。しかし、今更そんなことはどうでもよい。もう少しで俺たちの間に決定的な亀裂が入る。俺が会社を辞めるのも、時間の問題だ。
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