はち
文字数 1,331文字
「お聞きしていると思いますが、若手の離職率を下げるプロジェクトということで、このメンバーでお願いしたいと思います」
口火を切った半田さんに、早速上野さんが切り込んだ。
「そう言われてもなぁ、私たちはしっかりとしたプログラムを組んでるし。それでも会社を辞めていくのは本人の問題じゃないの?」
上野さんは、派閥のリーダーである半田さんを目の敵にしている。
「私もそう思います!辞めなそうな人を採用できていれば、こんなに離職しないですよね?」
板橋が上野さんに追随する。同意こそが最大の武器だとでも思っているのだろう。虎の威を借りて気が大きくなっている様子に、俺はだんだん腹が立ってきた。
「そうですね。皆さんがせっかく作った立派な教育プログラムが台無しですもんね」
俺は嫌みを1つ言ったつもりだったが、お構い無しといった様子だ。本当に自分達のプログラムが正しいとでも思っているのだろう。
「まあまあ、とりあえず今日は顔合わせということで」
半田さんが場を落ち着かせようとしたところに、上野さんがまた口を開いた。
「やっぱり採用側が面接で見極めてもらわないと、教育するにも限界があるんだよね」
「辞めないメンタルみたいなものは、教育で付けるものではないですよね。そういうものが備わっている人を採用すべきだと思います」
半田さんが口火を切って、上野さんが反論し、板橋が追随する。まるで話す順番が何者かに決められているかのように時計回りで口を開いていく。
「じゃあ、辞めない人ってどうやって見分けるんですか?」
俺はすかさず問いを投げかけた。ここで俺が口を開かなければ、2度と順番が回ってこないような気がしたからだ。
「それは・・・あなたたちの仕事でしょう」
「そんなことは分かってますよ。でも、たかだか数回の面接で見分けることなんて不可能だと思いませんか」
ついつい語尾が強くなってしまったが、俺は間違ったことを言ったつもりはない。その証拠に、2人は何も言えなくなっている。
「じゃあ、辞める理由を訊いたらどうだ」
見兼ねた半田さんが俺たちに提案した。
「ウチを辞める人に訊くんですか?気まずさで教えてくれませんよ」
「じゃあ、面接でも訊いてみるんだ。もちろん違う会社で働いていた人たちだから事情も違うけど、共通する部分はあるだろう」
俺たちと彼女たちは、『なぜ退職するのか?』を考えることにして顔合わせを終えた。
・・・
「早乙女、一杯だけ行くか?」
振り返ると、半田さんがジョッキを飲む仕草をしていた。時計を見ると、もう22時を過ぎていた。書類の整理に没頭していたのだろう。こんなつまらないことで俺の1日が終わっていくと思うと、急に虚しさが襲ってくる。
「いえ、今日は遅いですし、遠慮しときます」
この人と飲みに行ったところで、つまらない1日が延びるだけだ。どうせ仕事の話しかしないし、時間や金、体力を犠牲にしてまで行く必要なんてない。
「そうか。じゃあまた今度な」
半田さんはそう言うと、寂しそうに帰っていった。半田さんの姿が見えなくなった後、俺は両手を上げて大きく伸びをした。胸ポケットにある退職届の感触が、疲れた体にのしかかるようだった。俺は机の上を2、3分適当に整理した後、会社を後にした。
口火を切った半田さんに、早速上野さんが切り込んだ。
「そう言われてもなぁ、私たちはしっかりとしたプログラムを組んでるし。それでも会社を辞めていくのは本人の問題じゃないの?」
上野さんは、派閥のリーダーである半田さんを目の敵にしている。
「私もそう思います!辞めなそうな人を採用できていれば、こんなに離職しないですよね?」
板橋が上野さんに追随する。同意こそが最大の武器だとでも思っているのだろう。虎の威を借りて気が大きくなっている様子に、俺はだんだん腹が立ってきた。
「そうですね。皆さんがせっかく作った立派な教育プログラムが台無しですもんね」
俺は嫌みを1つ言ったつもりだったが、お構い無しといった様子だ。本当に自分達のプログラムが正しいとでも思っているのだろう。
「まあまあ、とりあえず今日は顔合わせということで」
半田さんが場を落ち着かせようとしたところに、上野さんがまた口を開いた。
「やっぱり採用側が面接で見極めてもらわないと、教育するにも限界があるんだよね」
「辞めないメンタルみたいなものは、教育で付けるものではないですよね。そういうものが備わっている人を採用すべきだと思います」
半田さんが口火を切って、上野さんが反論し、板橋が追随する。まるで話す順番が何者かに決められているかのように時計回りで口を開いていく。
「じゃあ、辞めない人ってどうやって見分けるんですか?」
俺はすかさず問いを投げかけた。ここで俺が口を開かなければ、2度と順番が回ってこないような気がしたからだ。
「それは・・・あなたたちの仕事でしょう」
「そんなことは分かってますよ。でも、たかだか数回の面接で見分けることなんて不可能だと思いませんか」
ついつい語尾が強くなってしまったが、俺は間違ったことを言ったつもりはない。その証拠に、2人は何も言えなくなっている。
「じゃあ、辞める理由を訊いたらどうだ」
見兼ねた半田さんが俺たちに提案した。
「ウチを辞める人に訊くんですか?気まずさで教えてくれませんよ」
「じゃあ、面接でも訊いてみるんだ。もちろん違う会社で働いていた人たちだから事情も違うけど、共通する部分はあるだろう」
俺たちと彼女たちは、『なぜ退職するのか?』を考えることにして顔合わせを終えた。
・・・
「早乙女、一杯だけ行くか?」
振り返ると、半田さんがジョッキを飲む仕草をしていた。時計を見ると、もう22時を過ぎていた。書類の整理に没頭していたのだろう。こんなつまらないことで俺の1日が終わっていくと思うと、急に虚しさが襲ってくる。
「いえ、今日は遅いですし、遠慮しときます」
この人と飲みに行ったところで、つまらない1日が延びるだけだ。どうせ仕事の話しかしないし、時間や金、体力を犠牲にしてまで行く必要なんてない。
「そうか。じゃあまた今度な」
半田さんはそう言うと、寂しそうに帰っていった。半田さんの姿が見えなくなった後、俺は両手を上げて大きく伸びをした。胸ポケットにある退職届の感触が、疲れた体にのしかかるようだった。俺は机の上を2、3分適当に整理した後、会社を後にした。