2-3

文字数 3,752文字

カルマ fake:recognition 2-3

「お手」
中庭に、蝶の眼帯をした美しい蒼色の髪が特徴的な少女が白い犬と戯れている。
少女は前髪のサイドが長めで、後ろ髪をショートにしていた。
少し現実離れした髪色がまた、周りの目線を釘付けにしていた。

側から見ると絵になるのだが、皆一様に目を丸くして通りすがっていった。

「おかわり」
少女の指示通りに手を出す白い犬。
その光景を目の当たりにして、椿乃小鳥は青ざめた。
「ちょっ、ちょっと!レンさん!!ダメですよぉ!!ここペット禁止です!!」
「この子、補助犬なの。…だから大丈夫」
「ええ…そうなんですか!?」
レンはこくこくと首を上下に動かし肯定する。
(なんだか、私が知っているわんちゃんとは、ちょっと違うような…?気がしないでもないんですけど)
なんとも言えない空気が流れる中、口を開いたのはレンだった。
「……嘘」
「へ?」
「よく見て、この子は本物の犬じゃない」
そう言われてまじまじと、椿乃小鳥は白い犬を見た。
「って、本当だ。よく見たらこの頭の模様、術式じゃないですか〜!もう〜、一体誰の式神なんですかぁ!」
「…アイツの式神」
「あいつってまた曖昧な」
ムムムと椿乃小鳥は頭を悩ませた。
「そういえば、レンさん。今日はウチに、なんのご用事で来たんですか?」
「アイツの見舞い…でも、居なかった。その時、迷子になってるこの子に会った」
「ああ、もしかして!アイツってカルマくんの事ですか?カルマくんなら、今しがた鏑木隊長が連れて飛び出して行ってしまいましたよ〜」
あはは…と椿乃小鳥は苦笑いする。

「そう…」
「あっ、ちょっとレンさん!どちらに向かわれるのですか」
「もうここには用がないから帰る…」
そう言いレンは白い犬に行こうと声をかけた。
「…そうですか?では、くれぐれもお気をつけて〜!羽衣石(ういし)先生にもよろしくお願いしますぅ」
少し寂しそうに椿乃はレンに答える。
「わかった」
レンは一言そう椿乃に告げると白い犬と共に帰っていった。
椿乃小鳥はレンと白い犬の後ろ姿が見えなくなるまで、手を振りながら見送った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ええと、鏑木…隊長?あの、オレ達はどこに向かっているんですか?」
だんだんと、人気がない雑木林が生い茂る場所へ向かっていく鏑木にカルマは疑問をもらした。
「フム、ここならいいか…。よし、カルマ一つ聞くが、おまえは龍脈やら俺たちの事を詳しく知らない、そうだな?」
「あっ、はい!そうです、確かヤタガラスでしたっけ…?龍脈は確かなんか風水的…な?」

「まぁ、風水がわかれば話しが早い。風水では地中を流れる気のルートのことを指す。先に龍血の説明をしよう。その方が分かるだろう」
「はい、お願いします!」
カルマは、少しだけワクワクしながら鏑木に仰いだ。
「まず、我々異能の力を使う者たちは、古来より陰陽師や魔術師など、土地により名は変わるがそう呼ばれていた。そして、特にこの国大和では、龍が祀られている。その龍神から承った血を、先祖代々受け継いだ者。龍血の加護があるものが、術を用いる事が出来たとされている」
「龍神…!」
「そして、龍脈は龍血が通る道。龍脈に龍血が通り龍気が練られる、そこから個別の異能とも言える能力が発現する。体質、性質、精神この3つに呼応するとも言われている。それを我々の派閥では、陰陽術の一つとしている」
「な、なるほど…なんとなくわかった気がします!」
「今、我々が追いかけている黒血…、これは龍血を模したものではあるがこれをヒトが体内に取り込むと異形の獣へと堕ちる。人工的に作られているのか、もしくは魔獣の血か」
「…菜月が変容したのも…そのせいですか?」
「ああ…」
「…っ、そうですか…」
カルマは菜月のことを思い出したのか、自身の唇を悔しそうに噛んだ。
「オレにもっと…があれば…」
「そこでカルマ、おまえには龍血の能力を自分のモノとし引き出せるようになって貰う!」
「い、いや、いや!オレそんな大層なモノの血とかが流れてる家系とかじゃないです!死んだじいちゃんからも、聞いたことないです!」
焦るカルマとは対照的に鏑木は告げた。

「カルマ、おまえには優れた龍脈が備わっている。そのおかげで今がある。今回、奇しくも不本意とは言えおまえの体に龍の血が入った事により目覚めた。それにここだけの話、黒龍の血に近しいモノの可能性が秘めてある。黒龍はこの国を治めていた龍神の一体だ。そして、この血を扱えねば八咫烏ではやっていけまい。何故なら、八咫烏とは異能者の集まりであり、国を裏から守護する者達だからだ」

「黒龍…の血。そんなものがオレの中に…血を使ってアイツは何をしたかったんだ…」
「黒龍の血、龍の血というものは人に絶大な力を与える。常人では考えられないような力だ。故に求める者は多い、表に出ないだけで皆より真髄へと渇望している。だが適応するには苦難が伴う、予想だが適応できる人間のデータを欲していたのかも知れない」
「そんな、そんなことのために菜月は…っ!?」
「……」
鏑木はただカルマの言葉を重々しく静かに聞いていた。
「…オレの中にもその龍脈っていうのがあって、オレの力になるかも知れないんですよね?」

「ああ、そうだ。少なくとも耐えたのは龍脈が優れている証拠だ」
カルマは残された片腕の手のひらを見つめる。
「練習したら…オレでもその龍脈を自由に使えるってことですか…?」
「ああ、…だが、修行は辛いぞ。ここで、尻尾を巻いて逃げ出すのも一つの選択肢だ」
鏑木はさらに言葉を付け加える。
「その時は…、今ならカルマおまえの記憶から我々のことを消…」
鏑木が、最後まで言い終わるより先にカルマは鏑木に告げる。
「オレはもう現実から逃げないって決めたんだ!これくらいやり通してみせます!お願いします!オレに修行をつけて下さい」
カルマの意志が宿った目を鏑木は見る。
「フッ、いいだろう。これから1カ月半だ!その間おまえに修行をつける!それまでに、習得出来なければ……覚悟を決めろ!」
カルマは息を呑む。
鏑木は習得出来なければ容赦無くカルマを斬るだろう。
だが、カルマのやるという決心は変わらない。

「ハイ!よろしくお願いします!」

こうしてカルマの修行は始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「皆のもの集まったようだな。これから十六夜議会
を始める」
まるで、仙人のような見るだけで他者を圧倒する男が先導した。
その男は、頭の半分が剃り込まれていて異様な紋様が浮かんでいる翁だった。
厳格なる、その雰囲気は他者をより付けようとしない。

厳格な翁はトンっと、杖を突くと共に本堂の中に黒い人影達が出現した。

「今日は、皆知っておろうが…鏑木玄馬現隊長が連れて帰ってきた者がいると言うではないか。名を狗神。狗神苅磨という。他でも無い、今回はこの者の処遇についてだ」
静粛に進んでいく、皆そこに集まったのは隊長格より上の者達であった。
「それで、今回の件について羽衣石白蝶(ういしはくちょう)よ、何かあるか?鏑木は貴殿の配属の隊長であったな?」
羽衣石白蝶と呼ばれた女は口を開く。
「はい、鏑木玄馬は私の直属の配属の者です。鏑木玄馬が信頼の置ける人物である事は、今までの任務遂行力からも察する事が出来るかと思います。私はその事からも彼が気にかける者は、見込みがある者だと思われます。なので、彼の意思を尊重しようと思います」
厳格な翁は次に花衣に意見を求めた。

「花衣よ、貴殿は狗神苅磨の診断にあたったな?そなたからの意見を聞こうではないか…」
「ええ、そうね。まず彼は特殊な経緯で、ウチに関わってしまったが故に簡単に裏切るという事は無いでしょう。寧ろその逆と考えるわ。そして、身体の事なんだけど、色々調べさせて貰った結果。彼の龍脈は優れていると断言出来るわ。コレを手放すのは、我々にとっての後々の脅威になりかねない」
「ほう」
「カッカッカッ!いいじゃねェか面白れェ!ウチに入れればいいじゃねェか!万年人出不足だしよ!」
「ちょっと、雷染!口を慎みなさい!」
豪快な笑い声と共に雷染なる男が割って入った。

「ウチにも俺が拾った奴が居るがちゃんとやってけてるぜ?事が事だったからよ!忠誠心も高い、今更血筋にこだわってる場合じゃねェしよ。弱肉強食!どうせ鏑木の事だから厳しいんだろ?逃げ出さないんならいいじゃねェか?逃げたら始末すればいいしだけだろ」
豪快な男は笑い飛ばしながら提案する。

「他の者の意見はどうじゃ?」
「ボクもそれで良いかと…手元に置いておいたほうが監視もしやすい…それに入団には、試験も有りますしどの道超えねば通れません」
少し陰気な影を孕んだ雰囲気の男が答えた。

「他に異論があるものは居らぬか?居らぬならこれで締めるぞ?」
沈黙、それが皆の答えであった。
「では、狗神苅磨を鏑木玄馬の保護観察の元とする。鏑木玄馬、狗神苅磨のこれからの行い次第ということじゃな、羽衣石よ今後に期待しておるぞ」
「はい、鏑木には重々言っておきます」
「では、解散。皆の者ご苦労であった」

人の形を成した影がスッと消えていった。

その影を見送りながら、厳格な老人は誰に聞かせるわけでもない一言を口に含む。
「灰の少年…狗神の血筋か…。これも運命か。これからが楽しみじゃわい」
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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