3-8

文字数 2,802文字

カルマ fake:recognition 3-8

カルマはシロから受け取った矢を、赤い鬼に見せつけながら言い放つ。
「鬼ごっこの続きと行こうか?鬼らしく、オレを捕まえてみろ!」
「クソ餓鬼がッ!!ぜってぇ許さねェ!!捕まえたら一片の肉片も残らねぇぐらい、グチャグチャに切り刻んでやるからな!」
怒号をあげて赤い鬼は恐ろしい殺気を出した。
(許さねェ、許さねェ、許さねェ!!)
憤怒の思いは増していくばかりであった。
カルマは、その殺気を一身に浴びながらも怯まない。

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
手を鳴らしながら、森の木々を伝って駆けて行く。
追いかけようとする赤い鬼に、青い鬼が腕を掴み忠告する。
「兄者…、気を付けろ…」
「坤…大丈夫だ!安心しろ、ぜってぇ殺してやるから」
赤い鬼は意気込みカルマを追う。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

カルマが一本だが相手から矢の奪取に成功した事により、会場はざわついていた。
そんな中、一人思案に耽ている者がいた。
(ふむ、あんな安い挑発に乗るとは、乾坤兄弟はやっぱりダメかも知れませんね…あんな汚い牢にわざわざ迎えに行ったというのに)

人見は、つい数日前の事を思い出していた。
「乾坤兄弟、貴方達にやってもらいたい事があります。…やり切って頂ければ、キチンと報酬もお支払いしますよ」
「あぁん?って、アンタ…十六夜議会、第十席人見彗國…!?」
細く鋭い目が人見を睨みつけた。
髪は手入れをしてないのかボサボサで、着ている着物もボロボロな小汚い男が牢にいた。

「ちゃんと、覚えいて貰って嬉しいですよ。貴方たち乾坤兄弟は…。確か、同僚達を暗殺して、ある組織に遺体を提供…していたと、報告に上がっています。我々の遺体は極秘情報の塊…それを提供など御法度。禁忌の中の禁忌。然るべき処遇の後、貴方達は、死を待つばかり…違いますか?」

「違う!俺達はんな事してねぇって!嵌められたんだ!!」
「わかってますよ。ですが、それを覆い被すほどの証拠が見つかりません。そこで、今回の依頼を受けて下さるなら…。私が頭目に進言致しましょう。貴方たちの無罪を…。どうです、簡単なお仕事です、悪くないでしょう?」
「兄者…」

兄弟は互いの目を見る。
二人の心は決まっていた。
乾は又とないチャンスに首を縦に振った。

「交渉成立…ですね」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「おっと!危ない」
木々を乱暴になぎ倒しながら、赤い鬼が迫ってくる。
その攻撃を躱しながら、カルマは渓谷まで走った。
「ちょこまかと動きやがって!!」
赤い鬼が森を走り抜けると、そこには大きく口を開けた崖があった。
下には、川が流れゴツゴツとした岩場が見えた。
「チッ」
(アイツ何処に逃げやがった…。まさか、反対側の森に逃げ込んだか…?いや…反対側にも、トラップが仕掛けてある。それが作動した気配は無いな…なら、まだ近くに奴は居る!)

辺りを探る赤い鬼に背後から、カルマは勢いよく飛び出し左腕を振るった。
「貰った…!」
赤い鬼は、後ろから現れたカルマをギロリと睨みつけた。
「バカが!気付かないと思ったか!!甘いんだよッ!」
その瞬間、カルマは左腕を掴まれ投げ飛ばされ、川の方へ落ちて行った。

カルマは間一髪、何とか左腕の爪が崖に引っかかり事なきを得た。
「ハハッ!手間取らせやがって!テメーはここで終わりだよ!!」
赤い鬼は、トドメを刺そうと歩み寄る。

「終わりはお前だ!今だ、シロッ!!」
そう言うとシロが、後ろから鬼を思い切り蹴飛ばした。
赤い鬼はそれをギリギリ腕でガードするが、崖下の獲物から目を離すことになる。
「なっ、いつの間に!?気配はしなかったぞ!」
カルマはこの隙に崖を登り、一気に赤い鬼を羽交い締めにした。
「アンタは、オレに気を取られて気付かなかっただろう?シロが森の影に、隠れて機を窺ってたことに!もう、オレとシロに挟まれて逃げ場はない!」
「ハッ、だからそれがどうした?」
「負けを認め、矢を寄越せ!そしたら解放する!」

赤い鬼は急に黙り込んだ、そして徐々に笑い声を発し肩を揺らし始めた。
「降参しろって言ってんのか?…舐められたもんだなぁ!?俺達には、後なんか残されてねぇんだよ!!」
そう言うや否や、カルマをガッチリ捕まえ自分ごと川に飛び込んだ。
「これで、川に入ったらお前の犬ッコロは動けまいよ!」
川に落ちながら赤い鬼は高笑いをする。
「そうか…残念だよ」
「?」
二人は渓谷の底に落ちていった。

水の中に落ちたというのに、カルマはピクリとも動かなかった。
(何だ?もう死んだか、急に静かになって…)
赤い鬼の脳髄に電気が走った。
(なっ!?俺の手が勝手に動きだした?)
赤い鬼の籠手のついた右腕が暴れだす。
右腕の暴走を抑える為に、カルマを捕まえていた左腕が疎かになる。
右腕側の服を引き破ると、籠手の関節の隙間に鋭く尖った木の破片が突き刺さっていた。
ビリビリと小さな稲妻が籠手を走る。
(そこは…!やめろ!今、起動するな!!)
水の中でショートされたら、自分にまで感電が広がると赤い鬼は急いで籠手を外しにかかる。
慌てる鬼の隙をつき鬼の体を踏み台にするとカルマは蹴りをバネにし浮上する。
「クソ…が!!」


赤い鬼を置いて一足先にカルマは岸辺に上がった。

遅れる事数刻、赤い鬼も後を追い川から上がった。
その様子は、川に落ちる前とは変わっていた。
自身の顔を秘匿する鬼の面は無くなり、自慢の大爪の籠手は外されていた。
赤い鬼は自分の命令など最早聞かない、自身の腕に付いている籠手を止むを得ず外す事になった。
「お…お前…!俺の籠手の弱点…いつから気付いていた!?」
「アンタと最初に戦った時に…、ピリッと電流が走ったのを感じた。それにその籠手の排気口から熱が逃げているんだろう?」
赤い鬼の籠手は龍気を電気に変えて動かしている、あのまま水の中で暴走していたら自身が感電していた。
「ハナから気付いていたのか…、クソッ」
(泳がされていたのか…俺達はコイツに…!?)
「破邪の印、再印」
カルマがそう唱えると左腕の杭が再び戻った。
カルマは左腕を再度封印すると、赤い鬼に提案する。
「なぁ、アンタとオレの勝負タイマンでケリつけないか?」
突然のカルマの提案に、鬼の男は何か裏があるのではと疑った。
「ハ?舐めてんのかクソ餓鬼がッ!!」
カルマの発言に、男は怒気を強める。
「アンタは矢を持って逃げてればいいのに、わざわざ仕掛けてきた。アンタは、オレを殺りたいんだろ…?…アンタは、一人でも強い!!拳を交わしたからわかる!…だから、オレはアンタとサシで闘いたんだ!」
返事を寄越さない鬼に、カルマは頭を掻きながらもう一度提案する。

「アンタの拳とオレの拳、どっちが強いか勝負がしたい!」

「ハッ、ハハハ!!頭でも沸いたのかよ?後悔するんじゃねェぞ?」
カルマの発言に、鬼の男は嗤った。

「上等!!」
カルマは、鬼の男に気合いの入った返事を返した。



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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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