1-10

文字数 2,237文字

カルマ fake:recognition 1-10

ビービーっと、突如施設内に警報が鳴り響いた。
「エマージェンシー、コードBが発令。この施設は二百四十秒後に爆破します。各員速やかに退避してください。繰り返します…」
アナウンスが告げる、もう時期この施設は爆破される事を。

「……ここに居ては巻き込まれる。撤収するぞ」
「了解」

「おい、さっさとしろ。巻き込まれるぞ」
細身の少年は、菜月を見つめたまま動こうとしない苅磨に舌打ちした。
「レン、スバル先に行け」
「了解、隊長もそんなやつ放っておいてはやくしてくださいよ」
少年たちを先に行かせると男はカルマを見る。


「おい、ここで死にたいってんなら置いていくが?どうするんだ、行くのか行かないのか?ハッキリしろ」
そう言うと男は苅磨の肩を軽く掴んだ。
「…俺は先に行くぞ。じゃあな」

「オレ、許せません。こんな事がまかり通るなんて。こんな…絶対に許せません…」
「ならばどうする?こう言ってはなんだが、誰にも知られず死んでいった者たちがいる。おまえたちはその中でもまだ幸運だ」
「幸運、こんな風に死んで幸運?そんなの間違ってる」
「ここから先はそういう世界だ。おまえたちを救えなかった俺が言えることでは無いが」
「…っ、く…。オレは力がない、だから救えなかった。けど、アンタたちは知っている。オレの知らない力を知っている。オレの知らない世界を知っている。ここから逃げてオレはどうなる?……お願いだ、オレを連れて行ってくれアンタたちの世界に」
強い意志を感じる、少年の双眸に鬼の面の男は何かを感じとった。
「何もかも忘れて元の世界に戻らず。オレたちと修羅の道を行くと?ここより先はさらに地獄だぞ」
「それでも、…行きます!」
カルマの意思は揺らがなかった。


ーーさようなら、菜月。さようなら、みんなーー


爆炎と共に倉庫は燃え上がった。何もかもが、跡形もなく吹き飛ばされていく。


「はぁ、何もかも吹き飛んじゃいましたネェ。ま、ワタシがやったのですが」
車の中でモニタリングしている男がいた。第七倉庫を吹き飛ばした張本人、フルフェイスの男ドルイドだった。
「嗚呼、もう!忌々しい!!」
鬼の面の男に負わされた傷を触り思い出す。
「八咫烏の奴らめ、ワタシの崇高なる実験を邪魔するとは不届き者め!」
だが、面白い結果を得られた。この黒血は、取り入れても今までの被験体とは違う反応が見られた。
何という僥倖であろうか。考えただけでもゾクゾクする。
「良いものを仕入れました。さて、今度はコレを手掛かりに始めてみましょうか」
ニヤリとドルイドは嗤った。

「フハ、ハハハハハハハハハ!!」

そして、車の中に怪しい高笑いが反響した。




あれから、第七倉庫の爆発は事故という事で捜査は打ち切られた。

建物の中には、人の死体など見つからないとの事で事件の可能性がないという事になった。


神代菜月と狗神苅磨は行方不明として扱われた。

高木繭花は納得いかなかった。
何度も、警察に掛け合ったが状況証拠不十分として取り扱われなかった。

神代夫妻のもとを高木繭花は訪れた。
「高木さん無理しないでいいのよ」
「おばさん、でも!こんなんじゃ、私納得できません!」
高木繭花は神代葉月に食い下がった。
神代葉月は首を振りながら懇願した。
「もう、私は誰にも危険な目に合って欲しくない!お願いだから高木さんもうやめて」
そう言い神代葉月は泣き崩れてしまった。
見かねた夫の辰馬が葉月を諭した。
「葉月少し向こうで休んで来なさい」

辰馬は高木繭花にどうやら話しがあるとのことだった。

「苅磨くんのお母さんはね、産まれてすぐ亡くなってしまったんだ。その亡くなった母親は、葉月の実の姉だったんだ」
「そうだったんですね…」

「だからね、家族や誰かが死ぬのが彼女にとってのトラウマなんだよ。もう誰にも死んで欲しくない。それはね、君にも例外ではないんだよ。君は、苅磨と仲良くしてくれたんだってね。ありがとう。そんな君が、これ以上僕たち家族のせいで危ない事になってしまったら、それこそ取り返しがつかない。だから、どうかこの事は忘れてくれ」
辰馬に説得され、しぶしぶ高木繭花は引き下がった。


「この辺でいいです。すぐそこなので」
「気をつけて、帰るんだよ」

高木繭花は神代辰馬に送って貰った車を見送りながら空を仰いだ。

「狗神くん…」

空は相変わらずの曇り空だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

時刻は深夜から早朝に切り替わった。薄ぼんやりと白色が掛かった日差しだった。

トウキョウトの中では、数々の大病院がある。その中でも、有名な一つに数えられるであろう病院だった。
トウキョウト花衣総合病院、政治家やVIPが通うとも噂される所であった。
「倉庫で大規模な爆発事故、アイツから連絡があった…それで、その子の容態は?」

「は、はいっ!う、腕が片腕無いみたいですっ」
ピンクベージュの髪を三つ編みにしている少女がしどろもどろになりながら答える。

「アンタねぇ、素人並みの事しか言えないの?」
「は、はいぃ!ご、ごめんなさい、院長!」
そんな少女に頭を抱えながら院長と呼ばれる声の主は立ち上がる。

スラリとした長身だった。長い足にヒールを履きこなしている。
「ホラ、ボサッとしない!行くわよ」
「行くって?」
「決まってるじゃない、患者のもとへよ。アンタの説明を聞くより見たほうがはやい」

そう言い放つとどこか抜けている少女を連れ、この病院に運び込まれた狗神苅磨のもとに向かった。


to be continued
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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