2-9

文字数 2,100文字

カルマ fake:recognition 2-9

古城のような、研究所の一室に鳴り響いた音を辿れば、カルマと鏑木が組手稽古をしていた。
「シッ」
カルマは勢いよく、鏑木の上半身に左フックを放つ。
「まだまだ!」
鏑木は、右腕で軽く受け止め、カルマの顎めがけ蹴りを放つ。
カルマは間一髪のところを交わし、バックステップで後ろに下がった。
だが、鏑木はそれを許さない、腰を低く落とし一気にワンツーで詰める。

パチンッと音がした。
「いてっ」
唖然とするカルマは、状況を把握するのに数秒掛かった。
どうやら、鏑木に打ち込まれると思って身構えていたが、鏑木はカルマの額にデコピンをしたようだった。
「いってー」
されどデコピン、鏑木の力では加減をしても中々の威力であった。
「ふむ。まぁまぁ、だな」
「ちぇー、最初は調子良かったのに…」
額をさすりながら、カルマは肩を落としてみせた。
パチパチと何処からか拍手の音がする。
振り向くと、四ツ谷が拍手をしながらこちらに向かっていた。
「やぁやぁ、中々のものを見せて貰ったよ」
「四ツ谷さん!どうしたんですか?ここに来るなんて、珍しいですね」
「いやはや、君の左腕の様子を見てみようかと思ってね。馴染んで来た様子に見えるがどうだい?」
そう四ツ谷に聞かれ、カルマは左腕を動かして見せる。
カルマの左腕には、杭の他に術布も巻いてあった。
いつ暴走するかわからないからなのと、流石に黒く変色した腕を、おいそれと人様に見せるわけにはいかないからである。

「はい、だいぶ動きは慣れてきました。日常のことくらいなら支障ありません」
「うんうん、龍脈も安定しているし、君の飲み込みの早さには驚くよ」
あれから三日、腕は何かを語るわけでもなく呆気ないほど静かにしていた。

「そうそう!今日は、そんな君に新しい修行を持ってきたよ!」
「新しい修行?」
「そうだとも、ステップアップと行こうではないか!」
カルマは、四ツ谷の裏のありそうな笑顔に、引きつりながら鏑木の方を見るが、鏑木は目を瞑り沈黙したままだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

古城の様な研究所の前で、四ツ谷と鏑木は話していた。
古城の周りを囲む湖を眺めながらカルマは、来たばかりの様な気がいまだ抜けきっていなかった。
「もう、行くのかい?」
「ああ、迷惑かけたな」
「迷惑だなんて、ほんの少し地下が壊れて先代の腕を失くして大目玉食らったくらいさ」
四ツ谷が明るく嫌味を飛ばすが、鏑木はどこ吹く風だった。
「あはは…」
そんな、二人のやりとりを見て、カルマは苦笑いするしかなかった。

あれから二週間ほどが立った。

役一ヶ月ほどという、常人より早く着いたカゴシマであったが、結局当初の予定の一ヶ月半は、修行も含めての範囲であった事がのちに発覚した。

これから、一ヶ月かけてまた帰るのかと考えるとカルマは少し気が遠くなった。

「カルマ君どうしたんだい?テンションが低いような?あっ、もしかして、ここが気に入って名残惜しいとか?」
四ツ谷は、物凄く期待した瞳でカルマを見た。
そんな四ツ谷の様子に、言いづらそうにカルマは話した。
「えっ、いや!あの、また一ヶ月かけて帰るのは大変だなぁ…って」
カルマのその発言で、途端に四ツ谷のテンションがクールダウンした。
カルマの後ろを指しながら四ツ谷は語った。
「ああ、それなら心配要らないんじゃなかろうか」
「へっ?」
ブオォンと音を鳴らして、大型バイクに乗った鏑木が現れた。
「い、いつの間に…」
隣にいたはずの鏑木が、いつの間にかバイクに跨って登場した事にカルマは驚いた。
「準備は出来たようだし、そろそろいいかな?」
「ああ、頼む」
カルマは、二人の会話について行けなくなり慌てて問う。
「あの〜、これは一体…?」
「まぁ、見てなって!すぐわかるよ」
そう四ツ谷は言うと、術を唱え始めた。
「境界の門よ、開門せよ」
そう四ツ谷が唱えると、ゴゴゴと地面から巨大な術の印が浮かび上がり、扉がせり上がってきた。

「これは!?」
「この扉は境界の門と言って、登録された龍脈を持つ者だけが通れる。カルマ君の龍脈を一時的にだが、こちらで承認しといたから大丈夫なはず」
改めて異能者達の能力には驚かされるばかりだ。

「これを通る事によって、ぐぐーんと高速で目的地に到着!ただし、この門は、許可が降りてる特定の場所にしか飛べないから気をつけて」
境界の門が開く、凄まじい風で周囲の木々の葉が舞い散った。
鏑木がバイクのエンジンを蒸す。用意したヘルメットをカルマに放り投げた。
「カルマ、後ろに乗れ」
「ハ、ハイ!」
鏑木のバイクの後ろに乗り込んだカルマは、四ツ谷に最後の挨拶をした。
「四ツ谷さん色々とありがとうございました!お元気で!」

「また、腕が故障したりした時は僕を呼びなよ!…いい実験ができそうだ」

四ツ谷がまた物騒な事を呟いたが、カルマは聞かなかった事にした。
鏑木が四ツ谷に合図を送ると、バイクを発進させ門の中に消えて行った。

四ツ谷は二人が見えなくなるまで手を振った。

「本当…観察しがいがある子が来たものだ。さあて、後始末に戻りますか」
ボソッと、色々サボってたから怒られると四ツ谷は誰にも聞こえぬよう呟いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み