3-2

文字数 2,109文字

カルマ fake:recognition 3-2

質素ながらも、カルマは自分用の一人部屋を貰った。
お屋敷は和を感じる造りに見えるが、中は和と洋の部屋で別れていた。
人の生活スペースの半分は、馴染みのフローリングの床だ。
カルマたち、寄宿するものたちの部屋も、普通の家庭の部屋と変わらなかった。
カルマからすると、久しぶりの安堵出来るスペースであった。
本当に、先生や隊長たちには感謝している。
その二人や皆んなに報いる為にも、何としても試験を突破せねばならない。
「試験まで、あと、九日かー…」
寝起きでまどろんでる頭をカルマは起こす為に、顔を洗いに一階の洗面所に向かった。
顔を洗い終えると、朝食を食べに茶の間に向かう。
茶の間にはもうすでに食べ終わったのか、誰も居なかった。
誰が来るのか予想が出来ていたのか机の上に、おにぎりが二つ置かれていた。
メモには、狗神苅磨用と雑に書かれていた。
「誰が書いたんだ?」
カルマはとりあえず、おにぎりをありがたく頂く。
「いただきます」
手を合わせてから、おにぎりを包んでるラップを取るとおにぎりを頬張った。
中の具材はしゃけと梅だった。
中々、悪くない味だ。きっと、作った人は繊細な人なのだろうと、カルマはふと思った。

カルマは朝食を食べ終わると稽古場へと向かう。

屋敷の自分以外いない稽古場で、カルマは腰を下ろすと座禅を組みはじめる。
「全身の龍脈に、龍気を巡らせるイメージ!」
鏑木に、教えて貰った通りのことは大体出来るようになった。
お陰で猫みたいに高い所に跳んだり、着地したりは余裕になってきた。
鏑木に見てもらいたかったのだが、肝心の鏑木は
「自分で整えろ」と言い残してから姿が見えなかった。

白蝶先生には、スバルとかレンを頼ってみたらいいと言われたが…それはそれで前途多難だった。
そもそも、試験は何をするのか知らないのだ…基礎を見るだけと言っても、本当にこのままの修行でいいのだろうかと悩み始めた。

カルマは、スバルとレンの今までの言動を思い出してみる。

どうせスバルに聞いてみても、そんなこともわからないようなら、辞めろとか平気で言いそう
だ。
レンに至っては、シロの事もある…説明が多いタイプでないのは明らかだ。

「だー!!わっかんねー!」
ドテンと後ろにひっくりかえる。
どうにも、雑念が引っかかり集中出来ない。
カルマは、気分転換に外の空気でも吸いに稽古場を出た。

風にあたりに行くために、廊下に出て屋敷の中を歩いても誰とも会わなかった。
しんと静まり返る屋敷に、今日は誰も居ないのかとカルマは少し寂しくなった。
近頃、色んな人に囲まれていた気がする。
アマミの研究所では、研究員たちに腕を見せろなり、血を取らせろなど毎日誰かの往来があった。
(そういえば、シロも見かけてないな?寝る時までは一緒の部屋だったはずなんだが…)
色々な事が堂々巡りした。やはり、雑念が多い。
外の空気を胸いっぱいに吸い込むと、落ち着きをやっと取り戻した。


休憩を終了し、稽古場に戻ると扉が開いていた。
中を静かに覗くと、先程まで自分一人だった稽古場に先客がいた。
その先客は黒髪の少年、皇スバルだった。
深い藍色の道着を着て、座禅を組んでいるようだった。
集中しているのか、空気がピンと張り詰める。
カルマは何か参考になるかもと思い立ち、スバルの様子を伺う。
すると、黒髪の少年は目を閉じたまま眉間に皺を寄せ始める。

「そこで、いつまで見ている気だ?マヌケ」とスバルは、扉の前で立ち往生しているカルマに言い放った。
突然、話しかけられたカルマは動転する。
「へ?よく気付いたな、オレ足音立ててたか?」
鏑木に、出来るだけ音を立てぬよう集中しろと言われていたカルマは、猫足を意識していたつもりだった。
自分の足の裏を凝視し始めたカルマに、スバルは深く溜息をついた。

「おまえ、そんな事もわからないのか?基礎中の基礎だろう…」
やはり、カルマの思った通りの反応をスバルは示した。
「相手の龍脈を、感じ取るのは出来て当然の事だ。特に、龍気を使ったばかりの奴は、龍脈に気配が残る。
気配を遮断する事が出来ない、素人など探るのは造作もない」
やはりスバルの風当たりはキツかった。
ムカつきを通り越して、何も知らない自分自信に落胆した。
だが、これは逆にチャンスなのではなかろうか。
自分一人での修行は鏑木に教えて貰った、復習以外検討がつかなかったカルマにとって次の指標になり得た。

カルマはスバルに勢いよくすり寄った。
「おい!なんなんだ!お前は!?」
「それ、オレでも出来るか?みんな出来る事なんだろ!?」
キラキラと輝く子供の様な瞳で、カルマはスバルを見つめた。
「離れろ!」
「教えてくれるまで離れない!」
「あっち行けよ!気色悪い!」
しばらく二人の押し問答が続いた。
カルマは、スバルの足にへばり付いて離れる気がない。

「わかったから!今後、オレの半径2メートル以内に入ってくんな!なら、教えてやる」
カルマは高速で首を縦に振った。
教えて貰えるならそんな事ぐらいどうでも良かった。
(ったく、鏑木隊長もこれぐらい、教えて置いてくれたら良かったのに…恨みますよ)
スバルの、心の声など知らないカルマは意気揚々としていた。
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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