3-4

文字数 2,086文字

カルマ fake:recognition 3-4

静けさが漂う稽古場に、一人の銀髪の少年が鎮座していた。
まるで、銅像のようにピクリとも動かない。
あたかも神聖さを感じさせる空気が、ピリリと変わった。
銀髪の少年の後ろに、音もなく黒髪の少年が警策を手に持ち現れる。
黒髪の少年は、銀髪の少年の肩目掛けて迷いなく警策を振り下ろした。

パンッと言う音が鳴り響いた。

だが、銀髪の少年は眉ひとつ動じない。
まるで、何も無かったかの様に座禅を続けてい
た。
黒髪の少年は、何かを確信した様に問いかけた。
「今ので、10回成功だ。まぁ、大分マシになっただろう」
銀髪の少年が瞳を開く。
眼前には、すでに警策が迫っていた。
カルマは難なく、警策を腕でガードする。
「っぶねー、ちょっとスバルさん!ケガしたらどうするつもり…だっ!」
黒髪の少年の警策をカルマは押し返す。
カルマは、ぶつかった振動を振り払ってスバルと向き合った。

「マジで、お前のソレ!やめてくんない!?」
「フン、そろそろ次のステップにいく」
そう告げ終わるとスバルの姿はカルマの目に二人写っていた。
「あれ?スバルって…双子だった?」
溜息をつきながらスバルは「解」と放った。
すると、もう一人のスバルはスッと本体の影に戻っていった。
「影か!?じゃ、今までのスバルって影だったのか?」
「これは影鏡:分霊という術だ。自分とそっくりな姿形を模して命令を実行する。全員が、出来るわけではないから気にするな」
カルマは、相変わらず術というものは、自分が今まで見てきた世界とは違うと改めて思った。
「んで、次は何するんだ?」
「次は、実戦だ」

そう言いスバルは、一枚の細長い黒い布を取り出す。
「これで目を隠して貰う」
その一言にスバルは固まった。
「固まってどうした?早くしろ」
「スバルってさー、そういうのが趣味なの?」
カルマの素朴な疑問が、スバルの耳に届いた時だった。

カルマの顎には、アッパーが打ち込まれていた。
「イッテー!?何!?殺す気で打っただろ?」
軽く目が座っているスバルからは、殺気が漏れていた。
「いいから早くつけろ」
ドスが効いた声を発しながら、目隠し用の布を投げつけてきた。
「…はい」
殺気立つスバルの様子を見てカルマは、諦めて従った。

「よし、見えてないな?」
カルマは問いかけに、コクコクと前後に頷く。
「今から、オレが打ち込むから躱すか龍血をコントロールしてガードしろ。そして、オレから一本取ってみろ」
そう言うなり、スバルの攻撃が容赦なく始まった。
いきなりの先制に、カルマはギリギリの所で躱すしかなかった。
素早くスバルは次の手を打ち込む。
「いって!」

カルマが体勢を崩しても、なお追い討ちをかけてくる。
「どうした、そんな事ではオレから一本取れないぞ?」
カルマは、体勢を立て直す為にスバルから距離をとった。
目からの情報が禁じられ、相手の気配を感知しながら、攻撃を躱すにしろガードするにしろ、動きながらのタスク管理は困難を極めた。
考える暇など、スバルは与えてくれなかった。
開けた距離も、すぐ詰められ打ち込まれる。
スバルと組手をしては、晩飯さえ食べられないほど疲れ眠りに落ちるという日々が続いた。

9日目の朝だった。試験まであと1日。
カルマはスバルと対峙していた。
空気が張り詰めている。二人とも言葉は発しない。
先に動いたのは、スバルだった。
右手をカルマに打ち込む。
カルマは、打ち込まれた右手を姿勢を低くし、するりと躱すとそのまま流れる様にスバルの顔目掛けて右手を突き出した。

突き出された右手はスバルの顔の寸前の所で止まった。

しばしの沈黙が流れる。

攻撃の気配が止んだ。
「フン、稽古はこれで終わりだ。…もう、大丈夫だろ」
「目隠し、もうとってもいいか?」
「好きにしろ」
急いでカルマは目隠しをとった。
「オレ、一本取れたんだよな?」
達成した実感が徐々に湧いてきた。
「おっしゃーーー!!!」
カルマの喜びの声が屋敷に響いた。

「うるさい、あんまり調子に乗るな…!」
いつもの調子でスバルは、カルマに悪態づく。
「ごめ、嬉しくってさー!スバルも付き合ってくれて、ありがとな」
「フン」
スバルは照れからか顔を逸らした。そんな様子をカルマはからかった。
「スバル照れてるのか?」
「うるさいっ!!」
また、二人の言い争いが稽古場を包んだ。
試験まで、あと一日やっとカルマは習得出来たのであった。


試験の前の最後の夜。
カルマは自室のベッドに転がりながら、白蝶先生の言葉を思い出していた。
「明日は、試験だけど君は強くなったんだもの、大丈夫!自信を持って挑みなさい」
白蝶に認められてカルマは、少しだけ自分を認められた。
「ついに明日かー」
昔と変わってしまった、左腕に巻きついている術布を見ながら考える。
結局、試験の内容は当日のお楽しみってことで分からずじまいだった。

カリカリと部屋の扉をこする音が聞こえた。
「シロか?」
音がする扉を開くと、シロと後ろには蒼髪の少女が居た。
「って、レン!?どうした、シロが何かしたか?」
思わぬ客人にカルマは慌てた。

「あなたに渡す物があって、持ってきた」
そう言うレンは、相変わらず淡々とした表情だった。
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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