2-4

文字数 2,409文字

カルマ fake:recognition 2-4

「…あのな、一体なんのようだ?邪魔しに来たのか…レン?」
「別に…」
お屋敷の中にある稽古場で声がこだまする。
声の主は、黒髪の少年こと皇スバルと綾瑪レンであった。
「別にって、じゃあ何しに来たんだ?」
「座禅…」
「それならなぜ、…犬がいるんだ!?」
「新入り…」
神聖な稽古場に、唐突に犬を連れて現れたレンに対しスバルは憤りを隠せない。
「は?いいからそいつを早く元の場所に返してこいッ!」
スバルに対してレンは悪びれることもなく、犬に向かってお手、おかわりと戯れはじめる。
「この子は頭がいい。鍛えたら役に立つ。」
「おまえは、鏑木隊長のマネでもしたいのか?…コイツ、……式神か?はぁ、誰の式神を連れてきたんだよ…」
厭きれるスバルに対し、さも問題なさそうに答えるレンにスバルは頭を抱えた。

「あいつの式神…」
「アイツ?」
要領が未だ掴めずにいるスバルは、レンにもう一度釘をさす。
「よくわからないが、先生に知られる前にその犬どうにかしろ!怒られても知らないからな?」
注意するスバルの背後から、今一番知られたくない人の声がした。
「あらぁ?スバル、私がどうかしたのかな?」
華やかな着物を纏う女性、羽衣石白蝶その人であった。
「なっ、羽衣石先生!!こ、コレは、えーっと!」
「先生、この子はあいつの式神…。もう、この子には帰る場所がここしかない」
戸惑いを隠せない様子のスバルを置き、レンは羽衣石に事の経緯を話した。
「なるほどね。お話は分かったわ。今日ね、議会があってね。そこで、あの子の今後の処遇が決まったわ」
二人は、深妙な面持ちで羽衣石白蝶の話に耳を傾けた。
「とりあえず、鏑木隊長の保護観察のもと龍血を使いこなせるようになる事が第一条件。で、無事帰って来たら…」
二人と一匹は羽衣石白蝶の次の言葉を待つ。

「正式に入団する試練を受けてもらう事になったわ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その頃、狗神苅磨は鏑木玄馬と行動を共にしていた。
「うわっ!」
鏑木に、教わった通りに、龍血を龍脈に巡らせるも上手くいかない。
「クソッ!これじゃ、全然進まないじゃないか…」
鏑木玄馬に、教えられたようにしているがなかなか上手くいかなった。
(言われたことをもう一度思い出せ…!)
「龍脈とは、体中に張り巡らせられている。そこを龍血が通る事で精神、肉体に統合性が生まれそこに技が合わさる事により龍気が編み出される」
まずは精神を統一し、身体の龍血が流れるのを感じ、そして思いのまま操る。

「人により得手不得手もある、気を炎や氷にするもの。物を意のままに操るのが得意な者、肉体強化が得意な者それぞれだ。大抵の者は、啓示…閃き直感で相性の良い何かと出会い自分だけの能力に開花する。おまえには、まずは基礎中の基礎で体に張り巡らせられた龍脈を扱い、肉体強化を覚えることを先決とする」
基礎中の基礎、皆が初めに通る道と言っても、少しでも違う事に気が取られると龍気が暴発して、反動でよろけてしまう。
前途多難さにカルマは早くも嫌気がさす。
このままでは、歩く事すらままならない。
とりあえずは、龍血の流れを思い通りにキープしたまま、筋力をコントロールする事が求められた。
龍気を用いれば、普通より遥かに優れた身体能力を得られるからだ。
そして、何より大事なのは、これからカルマの腕を取りに長距離の徒歩を強いられている。
「ええっと、鏑木隊長。腕を取りに行くって一体どこまでですか?」
「ウム、いい質問だ!それはだな…カゴシマだ!!」

それを聞いた時カルマは衝撃が走った。遠い。あまりに遠すぎる。
「一体、どれくらいかかるんですか?」
「一般的には順調にいけば約二か月もすれば着くだろう!だが俺たちは一ヶ月半を目標だ!」
カルマは無理だと思った。
何せふつうに歩くのに加え、龍気をコントロールしながら歩くなど、慣れない自分にはただ歩くだけより進まなかった。
歩く事もままならないカルマに、鏑木は前提条件をつけた。
歩けるようになるまで、ここで修得してからでないとカゴシマには向かわないと宣告した。

なぜなら、龍気を巡らせ身体能力を向上させる事により疲労が起こりづらくなるからだ。
それにより、長距離の移動が可能となる。
これからの過酷な任務に就くにあたり、修得は必須であった。

鏑木はこれさえもできないなら、何もかも諦めるしかないと語った。

「そう言われたら、やるしかない!絶対やりこなしてみせます!」

鏑木の一言でカルマの闘争心に火がついたのであった。



それから一週間がたった。

深呼吸をする。心臓から、龍脈を伝い足に龍気が巡るようイメージする。龍気が巡り、足が軽くなるのがわかった。徐々に、足にエネルギーが帯びてくるのを感じ、そのまま押し留める。

訓練の成果が出てきたのか。大分歩けるようになった。
今はトーキョーニホンバシから出発して、ナゴヤに差し掛かった所あたりだろうか。
「今日は久しぶりに宿に泊まる」
鏑木の一言にカルマは歓喜した。
進みが滞ったり、丁度よく泊まる場所がない時は野宿だった。
「格安の宿だ、期待はするな」
「それでも、雨風や虫を気にしなくて良いだけでも嬉しいッスよ!」
より足取りが軽くなった気がした。


シャワーを済ませ久しぶりのベッドで休む。
固めのベッドは病院のベッドを彷彿とさせた。
この際、贅沢は言ってられない。
(あの事件からもう二週間弱か、…菜月……オレは…)

あの出来事の事は、カルマはできるだけ考えないようにしていた。
今でも思い出しては心が苦しくなって、自分が保てる自信がなくなる感覚に陥る。
今日はたくさん動いた、だがすぐに寝れると横になったはずがどんどん頭が冴えてくる。
疲れているはずなのにと、カルマは内心苛立ったがより寝付けなさに拍車がかかっただけであった。

部屋に置いてある時計の針を眺めては、目を閉じるということの繰り返しが、カルマが今できる唯一のことだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み