1-1 灰の舞い落ちる日

文字数 3,670文字

カルマ fake:recognition 1-1 灰の舞い落ちる日

「ねぇ、狗神くん。近頃、この学校の子が行方不明になってるって話知ってる?」

少女が発したその言葉を境に、少年の日常の歯車は急速に動き出した。



狗神苅磨 (イヌガミ カルマ) 玻座間高等学校 一年
身長173cm 体重65kg 髪の色 銀髪に見える灰色
 趣味 筋トレ と、飼い犬のシロの散歩

髪の色以外は極々普通の高校生男子だと自分では思う。

まぁ、少し名前は変わってるかも知れないが、名付け親の親父もお袋もとうに居ない。
どうして、この名前にしたかもう聞けないからしょうがないし、今じゃ唯一親から貰ったものだから気に入ってるかな。
そんな普通の男子高生が、普通に学校で過ごしてたある日。
オレの学校生活が普通じゃなくなるなんて思いもしなかった。




「おーい、狗神くん狗神くん」
ある晴れた日の放課後の屋上であった…といっても
いつも曇りのような薄白光色に包まれた天気だ。

お天道様が地上を照らすなど、生まれた時から随分前の昔の話である。
そう、今は何処もかしこも晴れと言えば、昔で言う曇りの様な天気なのであった。
それでも、「灰の日」よりも全くもってマシだと狗神と呼ばれてる少年は思った。

「また、こんな所で寝てたの?」ボブくらいの薄めの栗色の髪を揺らし少し呆れたように声をかけてきた女性。
高木繭花(たかぎまゆか) 狗神より学年が一つ上の高校の先輩であった。
目が悪いらしく愛らしい赤色の眼鏡を掛けていた。

「先輩こそ、こんな辺ぴな場所までわざわざようこそ。そして、お疲れ様でした〜」
そう言ってムクリと身体を起こし、気怠げに手を振りながら会話を切り上げようとした。
「ちょっちょっ、ちょい待ち!狗神くん!!」

「嫌ッス!絶対先輩、面倒ごとを押し付けてくる予感がめちゃくちゃするんで帰りますわ〜乙っしたー」
「狗神くん、本当にそんな態度でいいの?…狗神くんが、屋上で日頃サボってること先生に言っちゃおうかなぁ…」
いつものたわいのないやり取りであった。
高木繭花は、探偵部という実質何でも屋というか、先生方からいいように雑用を押しつられてるだけにしか見えない。
活動している部員2名他幽霊部員の弱小部活の部長であった。

狗神は溜息混じりに聞いた、一度こうなると高木繭花はテコでも動かないのである。
「はぁ〜…で?今日は何を頼まれたんスか…」
「よくぞ聞いてくれました!今日は大仕事です!!
なんと!!色々な備品が沢山入ったダンボールを職員室から倉庫に運ぶ仕事です!」


高木繭花は、いつも学校の雑用を引き受ける。
何でも、大事な情報収集の為に必要なことらしい…が、特に探偵らしい行動に至るような情報を得たことは自分が知る限りなかった。
他の生徒達からも、ただの雑用係としての面倒ごとを押し付けられる事が日常茶飯事だった。
だが、彼女は何一つ断らなかった…、最初に見かけた時は虐められているのかと勘違いをしたほどであった。

「狗神くん狗神くんこれで最後だよっ!」
「って、先輩持ちすぎッス!危ねぇッスよ!オレが持つッス」
「大丈夫!ダイジョーブ!私こう見えて力持ちなんだからね!」
彼女の細腕の中に、積まれたダンボールの箱から申し訳程度に瞳を覗かせている。
一度、言い出したら聞かない先輩に、辟易(へきえき)しながらも狗神は提案する。
「はぁ…。ああ、もう!じゃ半分、俺が持つんで先輩は残り半分しっかり頼みます!」
「わわっ、急に視界がクリアになったよー!えへへ、ありがとね!狗神くん!ちゃんと頼まれました!」
半ば強引であったが、荷物を引き取るのに成功した。

「いやー、にしても狗神くんには助けて貰ってばっかだなぁ!1人だったら、絶対、今頃学校の階段の数調べてるだけだったよ」
突拍子もない先輩の発言に、またもや狗神は面を食らった。
「なんスか?ソレ」
「知らない?学校の未解決事件と言えば七不思議でしょ!」
「それ本気にしてるんスか?」
「本気!あーもう、狗神くん笑ったなぁ!」
この呆れるほどの、突拍子の無い会話に慣れてきた自分がいると狗神は内心楽しんでいた。
高木繭花といる時は、この灰色の世界が色付く感じがした。

何だかんだで狗神苅磨は、高木繭花に救われていた。




窓から差し込む光で、時折白銀に光る銀色の髪をアップバングにしている少年。
背は平均的男子高生より高いくらいであろう。
少し筋肉質な少年が、学校の階段を降りていた。
チラリと見えるその気怠げに伏せた瞳から覗くのは、灰色がかった深い水色だろうか。
この学校では、珍しい出で立ちであった少年に、高木繭花は目を奪われていた。

高木繭花は、ふと自分が今運んでいる荷物の存在を思い出した。
少しの間だが、忘れていたのであった。
急に、ずっしりと重いそれを認識してしまったら、腕が重さに悲鳴を上げている事まで思い出してしまった。
この荷物を、一階から三階の職員室に運ばなくてはいけなかった。
やっとの事で二階の所までたどり着いた所だ。
彼女が作り出した探偵部は、正式には部活として認められていない。
なぜなら、彼女以外の部員がゼロ人だからである。
正式に、部として認められるには3人以上の部員が必要であった。
そんな事もあり認めてもらうにはと、先生達からの雑用をこなしながら、周りから認知されようと躍起になっていた。
荷物を抱え、必死にバランスを取るが、努力虚しく荷物は宙を舞った。
その反動で高木繭花は階段を踏み外した。
身体から漂う浮遊感に、高木繭花は目を瞑り次の衝撃を覚悟した。

(絶対にコレはヤバイやつ!私じゃ受け身なんて取れないし、ああ、痛いんだろうな…。頭から落ちるなんて…)
だが一向にその覚悟虚しく、そんな事は起こらなかった。
「おーい、アンタ大丈夫か?」
声がした。低くもなく、かといって高くもない、妙に馴染む声だった。
高木繭花は恐る恐る目を開けた。
声の持ち主は、どうやら先程、高木繭花が目を奪われていた少年だった。

少年が腕を引っ張ってくれた反動で、高木繭花は少年の上に覆い被さる姿勢になっていた。
高木繭花の思考回路はショート寸前であった。
顔は恥ずかしさと情け無さで青ざめていた。
「わっ、ごめんなさい!」
そう言い高木繭花は下に敷いてしまった、少年の上から飛び退く。
(こんな醜態晒して、顔でも覚えらたら恥ずかしすぎるっ!)
高木繭花は恥ずかしさのあまりか、少年の顔を見ないように俯いて急いで片付けに取り掛かる。
ダンボールの箱から、溢れ落ちた中身を必死に掻き集めている高木繭花の頭にポンと、テキスト集が乗せられた。
「はい、アンタが落としたのはこれで最後。」
慌てふためいていた高木繭花を見かねて、少年がテキストを拾ってくれていたようだった。
「……あっ、ありがとう…!」
まさかの事態に、またもや思考停止しかけたが、なんとかお礼を述べる事が出来た。
階段にぶち撒けた荷物の中身を掻き集め終わり、一安心したのも束の間、少年の行動に高木繭花は驚いた。
「そっ、それどうするつもりなの?」
「どうするって…運ぶんじゃなかったのか?」
「そっ、そうだけど!えっと、ええっと運ぶのは私の仕事だから」
「イヤイヤ、無理すんなって。届け先は職員室だろ?」
そう言って、荷物を上の階に運ぼうとする少年に、高木繭花は追い縋ろうと立ち上がった時だった。
「いたっ…!?」
足首に痛みが走った。どうやら足首を捻ったらしい。
「やっぱ無理するから、これ直ぐ置いてくるから!アンタはそこにいる事!」
少年は、高木繭花にそう言うと風を切りながら走り出していった。


「軽い捻挫ね、まあしばらく安静にして頂戴」
「ハイ、ありがとうございました。失礼します。」
高木繭花は、保健医の先生に軽く会釈をして保健室を出た。
「軽い捻挫みたい…」
「そっか、大事無くてよかったな…」
「あの、なにをしてるのかな…?」
「?何って帰るんだろ?おぶってやるって」
「いい!いいです!大丈夫です!!」
高木繭花は、先程の事を思い出して早口で断わった。
職員室に荷物を届け、急いで帰ってきた少年におぶられて、保健室に運ばれたのであった。
その最中、校内の生徒たちの特異な物を見るような視線に耐えきれなかった。
「ああ…ごめん。つい、従姉妹とかにしている癖で」
少年は照れくさいのか鼻の頭を掻きながら言った。
「本当にごめん。オレ、こんな髪の色だし目立ったよな…悪い」
思った以上に、平謝る少年に声を出して高木繭花は笑ってしまった。
「なんか、オレおかしい事言った?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ」
「ただ?」
「キミって、こう一匹狼っぽいのにすごく普通の人なんだなって思って!」
「えっ普通って。いや普通だけども…アンタは少し変わってるかも…」
「ええっ!!心外だよ!…えっと…名前そう言えば聞いてなかったよね?」
そう言って、さっきまでむくれていた顔を、コロっと変えて高木繭花は少年に名前を訪ねた。
「あぁ、オレは…狗神、狗神苅磨」
「私はね!二年の高木繭花!」
そう言って瞳をキラキラさせ満面の笑みを見せる。
「よろしくね!狗神くん!」

それが高木繭花との出会いだった。
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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