1-8
文字数 2,263文字
カルマ fake:recognition 1-8
「だからぁ!言ってるじゃないですか!第七倉庫にこんな角が生えた化け物が居たって!」
警察署に高木繭花の声が木霊する。
「とは言ってもねぇ。あそこは、もう誰も入れなくなってるしお嬢ちゃんの見間違いなんじゃない?」
警察の制服を少し着苦しそうに着ている小太りの中年のおじさんは、鬱陶しそうに高木繭花の話を聞いていた。
「大体、あそこ立ち入り禁止なの知ってる?なんで入っちゃったの?」
「だから、何度も言ってるじゃないで…!?」
何度も同じ説明をしてうんざりしていた所に、ゴゴゴゴゴッと地鳴りが届いた。
突然の揺れに人々がざわめく。
警察署内に、アナウンスが入った。
「爆発事件が発生。場所は第7倉庫街。各員速やかに持ち場に急行せよ」
(第七倉庫で爆発?狗神くんどうか無事で居て!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
暗い通路を非常ランプが点灯して、辛うじて道が見えていた。
「自分たちは、奥を見てきます。隊長はそっちの部屋を見てきてください」
細身の少年は、蒼髪の少女と共に奥を散策するようだ。
少年は苅磨を横目で見ると奥に進んでいった。
暗くて顔がよく見えなかったが、部外者の苅磨を連れて行く事に不満があるようだった。
その少年の後ろに少女が続いて行った。
苅磨と鬼の面をつけた男は、暫しの沈黙の後部屋を散策した。
どうやらここは研究室のようだ。
各部屋と繋がるモニター画面があった。
モニターは、電源が落ちているのか沈黙している。
ふと、鬼の面の男が口を開いた。
「腕の調子はどうだ?」
そう問われ自分の腕を見る。
肩の付け根の部分を残し切断されている。
切断された腕を、グルグルに黒い包帯の様な布で巻かれ止血された。
よくわからないが、文字の書かれたお札も貼られている。
なんでも呪禁が書かれた術布、というものだと教えて貰った。
おかげで血は漏れてこない。
「腕がある時より痛くない」
ギュッとなくなった腕の部分を、服の上から掴みながら少し皮肉めいて返した。
「フッ、そうか」
鬼の面の男は、探し物をしているのかカタカタとパソコンの内部を探す。
「予想どおり、もうデータは残っていないな。データを復元するにも時間がかかる。あとは…」
あとは、奥の部屋に行った二人の連絡を待つだけだった。
本当は、菜月を探しに自分も行きたかった。が、素人が足を引っ張るな、助かる命も助からないと細身の少年に釘を刺された。
「あれでもお前を心配してるんだ」と小声で鬼の面の男に諭された。
しぶしぶ少年の意見に苅磨は従った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黒装束の少年と少女は奥へと続く通路を歩いていた。
だんだんと、重苦しい空気を感じる。
そんな中、少女は少年に声をかけた。
「彼…何でも菜月という子を探している…」
「ああ、そう」
少年は素っ気なく返事を返した。
「見つけたら…殺すの?」
「状態による」
状態による、といっても無傷以外選択肢は無かった。
身体が、無傷でも精神が耐えられないかもしれない。
長い生涯、トラウマを抱え続けて生きるくらいならそれなら
いっそ…死んでしまった方が楽だと少年は思った。
「そうこう言ってる間に着いたぞ」
重い空気が漂う扉がそこにはあった。
扉の中から音は何も聞こえない。防音の効果か、あるいは誰も生きてはいないのかもしれない。
いなければ、いない方がいいのだが…そして、扉が開いていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
研究室を捜査する苅磨たちに連絡が入った。
「こちらレイヴン・トゥ。生存者は…いない」
「そうか、わかった」
短いやり取りだった。
生存者は、いない。
それを、聞いた苅磨は一目散に飛び出していった。
「おい!!待て!!」鬼の面の男が止める暇もなく苅磨は走り去った。
「どうしたんです?」「くそっ、俺も今行く!」
ブツンと回線が切れた。
「隊長どうしたって?」
「こっちに来るそうだよ…全く言わんこっちゃない」
部屋中の怪物の出来損ないを見るなり少年はため息をついた。
菜月…!!菜月!!生存者はいない。そんなの認められるかっ!!
薄暗い廊下を、駆け抜ける苅磨には誰の声も届かなかった。
しかし少年は鬼の面をつけた男の、覚悟をゆめゆめ忘れるなと言う言葉の重みを嫌と言うほど知ることとなった。
「菜月…!!」
薄暗い通路の奥。例の部屋にたどり着いた。
そこは鼻を劈くような匂いに顔を顰めた。
生存者は…いない。黒装束の少年の報告の通りだった。
この状態を生存しているというには惨すぎた。
辺りは元は人間だった者たちだろう。皆、殆ど原型を留めていなかった。
そういう者たちが無残に積み上げられていた。
檻の中には、辛うじて顔の半分が人のままの子供たちがいたが獣の様な鳴き声をあげていた。
「なんなんだ…これは」
「だから言っただろう、生存者はいないと」
呆れたように黒装束の少年は声をかけた。紫色の瞳がこちらを捉えた。
「ここは実験場、ここでアイツは子供達を集めて研究をしていた。多分その副産物であの鹿のような頭の怪物…を作りだし下僕にしていた」
蒼髪の少女が語り出す。
「私たちの任務は、アイツのような奴等を始末し犠牲者を救いだすこと」
そう語り唇を噛んだ。
「菜月は…?菜月は…どうなったんだ」
苅磨は震えながら問う。
「なんとか言ってくれよ」
黒装束の少年の肩を掴む。その腕を鬼の面の男が止めた。
「落ち着け少年…」
黒装束の少年が少し殺気だっていた。
鬼の面の男が止めなかったら、一触即発したかもしれなかった。
「菜月という子かは私たちにはわからない…けど、カルマ…貴方の名前を呼ぶ子…なら居るわ…」
蒼髪の少女は哀しげに苅磨に告げた。
「だからぁ!言ってるじゃないですか!第七倉庫にこんな角が生えた化け物が居たって!」
警察署に高木繭花の声が木霊する。
「とは言ってもねぇ。あそこは、もう誰も入れなくなってるしお嬢ちゃんの見間違いなんじゃない?」
警察の制服を少し着苦しそうに着ている小太りの中年のおじさんは、鬱陶しそうに高木繭花の話を聞いていた。
「大体、あそこ立ち入り禁止なの知ってる?なんで入っちゃったの?」
「だから、何度も言ってるじゃないで…!?」
何度も同じ説明をしてうんざりしていた所に、ゴゴゴゴゴッと地鳴りが届いた。
突然の揺れに人々がざわめく。
警察署内に、アナウンスが入った。
「爆発事件が発生。場所は第7倉庫街。各員速やかに持ち場に急行せよ」
(第七倉庫で爆発?狗神くんどうか無事で居て!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
暗い通路を非常ランプが点灯して、辛うじて道が見えていた。
「自分たちは、奥を見てきます。隊長はそっちの部屋を見てきてください」
細身の少年は、蒼髪の少女と共に奥を散策するようだ。
少年は苅磨を横目で見ると奥に進んでいった。
暗くて顔がよく見えなかったが、部外者の苅磨を連れて行く事に不満があるようだった。
その少年の後ろに少女が続いて行った。
苅磨と鬼の面をつけた男は、暫しの沈黙の後部屋を散策した。
どうやらここは研究室のようだ。
各部屋と繋がるモニター画面があった。
モニターは、電源が落ちているのか沈黙している。
ふと、鬼の面の男が口を開いた。
「腕の調子はどうだ?」
そう問われ自分の腕を見る。
肩の付け根の部分を残し切断されている。
切断された腕を、グルグルに黒い包帯の様な布で巻かれ止血された。
よくわからないが、文字の書かれたお札も貼られている。
なんでも呪禁が書かれた術布、というものだと教えて貰った。
おかげで血は漏れてこない。
「腕がある時より痛くない」
ギュッとなくなった腕の部分を、服の上から掴みながら少し皮肉めいて返した。
「フッ、そうか」
鬼の面の男は、探し物をしているのかカタカタとパソコンの内部を探す。
「予想どおり、もうデータは残っていないな。データを復元するにも時間がかかる。あとは…」
あとは、奥の部屋に行った二人の連絡を待つだけだった。
本当は、菜月を探しに自分も行きたかった。が、素人が足を引っ張るな、助かる命も助からないと細身の少年に釘を刺された。
「あれでもお前を心配してるんだ」と小声で鬼の面の男に諭された。
しぶしぶ少年の意見に苅磨は従った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黒装束の少年と少女は奥へと続く通路を歩いていた。
だんだんと、重苦しい空気を感じる。
そんな中、少女は少年に声をかけた。
「彼…何でも菜月という子を探している…」
「ああ、そう」
少年は素っ気なく返事を返した。
「見つけたら…殺すの?」
「状態による」
状態による、といっても無傷以外選択肢は無かった。
身体が、無傷でも精神が耐えられないかもしれない。
長い生涯、トラウマを抱え続けて生きるくらいならそれなら
いっそ…死んでしまった方が楽だと少年は思った。
「そうこう言ってる間に着いたぞ」
重い空気が漂う扉がそこにはあった。
扉の中から音は何も聞こえない。防音の効果か、あるいは誰も生きてはいないのかもしれない。
いなければ、いない方がいいのだが…そして、扉が開いていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
研究室を捜査する苅磨たちに連絡が入った。
「こちらレイヴン・トゥ。生存者は…いない」
「そうか、わかった」
短いやり取りだった。
生存者は、いない。
それを、聞いた苅磨は一目散に飛び出していった。
「おい!!待て!!」鬼の面の男が止める暇もなく苅磨は走り去った。
「どうしたんです?」「くそっ、俺も今行く!」
ブツンと回線が切れた。
「隊長どうしたって?」
「こっちに来るそうだよ…全く言わんこっちゃない」
部屋中の怪物の出来損ないを見るなり少年はため息をついた。
菜月…!!菜月!!生存者はいない。そんなの認められるかっ!!
薄暗い廊下を、駆け抜ける苅磨には誰の声も届かなかった。
しかし少年は鬼の面をつけた男の、覚悟をゆめゆめ忘れるなと言う言葉の重みを嫌と言うほど知ることとなった。
「菜月…!!」
薄暗い通路の奥。例の部屋にたどり着いた。
そこは鼻を劈くような匂いに顔を顰めた。
生存者は…いない。黒装束の少年の報告の通りだった。
この状態を生存しているというには惨すぎた。
辺りは元は人間だった者たちだろう。皆、殆ど原型を留めていなかった。
そういう者たちが無残に積み上げられていた。
檻の中には、辛うじて顔の半分が人のままの子供たちがいたが獣の様な鳴き声をあげていた。
「なんなんだ…これは」
「だから言っただろう、生存者はいないと」
呆れたように黒装束の少年は声をかけた。紫色の瞳がこちらを捉えた。
「ここは実験場、ここでアイツは子供達を集めて研究をしていた。多分その副産物であの鹿のような頭の怪物…を作りだし下僕にしていた」
蒼髪の少女が語り出す。
「私たちの任務は、アイツのような奴等を始末し犠牲者を救いだすこと」
そう語り唇を噛んだ。
「菜月は…?菜月は…どうなったんだ」
苅磨は震えながら問う。
「なんとか言ってくれよ」
黒装束の少年の肩を掴む。その腕を鬼の面の男が止めた。
「落ち着け少年…」
黒装束の少年が少し殺気だっていた。
鬼の面の男が止めなかったら、一触即発したかもしれなかった。
「菜月という子かは私たちにはわからない…けど、カルマ…貴方の名前を呼ぶ子…なら居るわ…」
蒼髪の少女は哀しげに苅磨に告げた。