2-2

文字数 2,424文字

カルマ fake:recognition 2-2

カルマは、腕を隠す為着ていた鏑木のコートを脱がされると、血が滲んだ私服のパーカーが出てきた。パーカーも、脱ぐように指示されカルマは従うと腕があらわになった。
剥き出された腕を覆っていた術布が剥がされていく。
徐々に患部が露わになる。
「玄馬、ちゃんと持ってきてくれたわね?」
「ああ、これがカルマの変質した腕だ」
そう言うと、鏑木は徐ろに腕が入った箱を取り出す。
「へ?持ってきてたんですか!?」
「一応、これも大事なものだからな」
斬り落とされた腕にも、厳重に術布が施されていた。
「腕の、付け根の部分は侵食されかけた後はあるものの、今は進行が止まっているようね」
斬り落とされた腕に花衣は目線を配る。
「変質した腕の方を確認したいけど、ここで開けない方が良さそうね。封印の陣を施しながらになりそう」
三つ編みの少女は、カリカリと音を立てて花衣の言葉をカルテに記入している。
「小鳥、地下の防陣の間の準備と。あと、精密検査の用意を」
「は、はい!」

カルマの肩に簡易に術布を貼り直すと、忙しなく椿乃は別の場所に案内する。
「では、カルマくん検査室はこちらになりますので着いてきて下さい」
カルマは椿乃に案内されるがままついていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

艶やかな色をした着物はそれだけで場を華やかにしていた。
和風のお屋敷にそれは良く映えていた。
その着物を着た女性の周りをヒラヒラと蝶が舞っている。
女性が、差し出した手に止まると蝶はフッと消えてしまった。
白蝶(はくちょう)様!スバルとレンが帰って参りました」
禿(かむろ)のような童子が二人の帰りを報せに来た。


「皇スバル、綾瑪レン両名ただいま戻りました」
スバルとレンは片膝をついてこうべを垂れている。
「おかえりなさい、スバル。レン。お勤めご苦労様でした。なにやら大変な事があったようですね」
白蝶と呼ばれる女性は優しく問いかける。
「はい、先生」
スバルは白蝶に向かい短いがハッキリと答えた。
「では、お話聞かせて貰えますか?」
スバルとレン両名は白蝶に事の顛末を報告した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

一つに結んだ長い天河石色の髪を解きながら、花衣は鏑木の隣にやってきた。
「カルマは寝かせたわ。よっぽど疲れてたのでしょうね。すぐ寝ちゃったわ。ところで、玄馬ちょっといいかしら?」
地下の、防陣の間の様子を上階の窓から見ながら花衣は玄馬に状況を伝えた。

「あの子、狗神苅磨の腕を調べた結果なんだけど。わかったことだけ言うわよ」
「ああ」
「正直に言うと、解析は難航しているわ。で、わかったのは、彼に使われた黒血…少しというかかなり特殊なものということよ」
「特殊なものというと?」
「見た目は黒血なんだけど、龍の血に近い…というか龍血そのものというのが正しい」
「む…、では?」
「ヒトが血に飲まれ堕ちた事により魔獣のような怪物へと変容する現象を堕チ人と我々が定義している。その症状へ誘う黒血…、とは見た目以外似て非なるもの、もしかしたらあの血なのかもしれない」
それを聞いた鏑木玄馬は顔をしかめた。
「憶測でしかないけど、もしかしたら騒動で無くなったと言われる遺物、黒龍の一部かも。……、無理矢理、龍の血を入れられて、からだの龍脈が目まぐるしく目覚め、そして暴走したのが彼の腕だと思うわ」
「もし、コレが本物の黒龍の血だとしたら…?」
「コレが黒龍の本当の血だとしたら脅威になる。国も私たちもタダじゃすまないわ。何せ私たちが秘匿にしていた遺物よ、それが龍の意思に関係なく人間たちに施されるとしたら…。眠れし龍が目覚め災いが降り注ぐ…。大体、人間の龍脈が無理矢理にでも開くんですもの、いとも簡単に生物兵器の出来上がりで国同士の勢力も変わってしまうわ。ま、血に耐えられればの話だけど」
「戦争か…」
「それだけで済めばいいけど…、もっと酷いかもね」

「宗十郎、おまえに頼みがある…」
「あらたまって何かしら?どうせ碌でもないのでしょうけど…聞くだけ聞いてあげるわ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ふぁ〜〜〜っと、大きく伸びをしながらカルマは欠伸をした。
連日続いた、検査の数々がやっとひと段落した所であった。
「カルマくんお疲れ様でしたぁ!これでとりあえず全ての検査が終了となります」
椿乃小鳥が、カルテを見ながら告げる。
「だぁーーっ、つっかれたぁーー!」
カルマは、腕を上に伸ばしながらベッドに横たわった。
ここに来てから一週間、左腕がない生活にも大分慣れてきた。
「検査が終わったら…オレどうなるのかぁ…」
何気ない不安をカルマは口にした。

「うーん、そうですねぇ。多分ですけど、上の方々に議会にかけられると思います」
「議会…上の方々?」
「はい、そうなんですよ〜。ウチの組織って隊長の上に十六夜議会の方々が居て、そのまたトップに頭目がいらっしゃるので、とりあえず審議にかけられた後これからが決まると思いますよ〜。何せ特殊な件ですので。上も慎重にならざる負えないかもしれませんね」
「あー、そうなのか。これからの先行きが不安だ」
カルマはこれからを案じてうな垂れた。
「鏑木隊長の事ですから、心配いりませんよ〜多分ですけど」
椿乃小鳥は困りながら笑った。

そんな二人が話していると病室のドアがガラッと音を立てて開いた。
「よぉ…!邪魔するぞ」
「鏑木…隊長!どうかしましたか?」
「悪いが話しは後だ…カルマさっさと支度しろ行くぞ!」
鏑木は荷物が入ったバッグを、カルマに投げつけズカズカと入ってきた。
「わわっ!」
いきなり投げつけられたバッグを、受け取りそびれかけるもカルマは慌ててキャッチした。
状況が掴めないカルマは、椿乃小鳥に視線を投げるも彼女からは首を振ってわかりませんと返された。
「えーと、よくわかんないんですけど…」
飲み込めないカルマは、鏑木に意図を聞くと思いがけない言葉が返ってきた。

「おまえの新しい腕を取りに行く」
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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