3-7

文字数 3,377文字

カルマ fake:recognition 3-7

会場の中継に爆発が映る少し前のできごとだった。
カルマは迫り来るトラップから、カモシカと栗鼠を抱えなんとか安全地帯に送り返す事が出来た。
「危なかった!…おまえら、ここは危険だから巣から出ちゃダメだぞ」
カモシカが踏み抜いた罠が発動する一歩手前でカルマは救う事ができた。
獲物の脚を目掛けて作動するトラバサミが、空を切り転がっている。
トラバサミと同時に針が襲ってきたがカルマの左腕で払うことに成功した。

(この左腕がさっそく役に立って良かった)

「ほら、早くいくんだ…!」
カルマは、栗鼠とカモシカに速く逃げるよう促した。
何となく察したのか、2匹は森の奥に走って行った。
「そんな余裕かまして大丈夫なのかよぉ?」
声と共に強い殺気が感じられた。
凶悪な爪の攻撃がカルマの頰を掠る。
爪に気を取られている間に、カルマの足に鎖鎌が巻きついていた。
(もう一人、いるッ!!)
「ぐぁっ…!!」
カルマは、鎖に引っ張られ木に磔られた。
「兄者…今だ!」
「わかってる!これで終いだァ!!」
獲物を串刺そうと鋭い爪が迫ってきた瞬間だった。
「何ッ?」

ガキンと爪が弾かれて、赤い鬼の仮面の男は面の下で顔が歪んだ。
カルマの引き裂かれた衣服から現れた左腕は、五つの杭が差し込まれた異質な黒い腕が露わになっていた。

「第一呪縛 :解呪…」

そう唱えると、カルマの腕から一つの杭が黒い炎を吹き出した。
木々の落ち葉が、カルマの腕を中心に巻き起こる黒い風に巻き込まれ乱れ舞う。

カルマの左腕の一部は杭が解かれ竜の爪の様に変形する、鋭利な爪を纏い鎧のような光沢が鈍く反射する腕はもはや人のソレでは無かった。
「クソッ!どうなってやがる!?」
その姿に、赤い鬼の仮面の男は憤った。
(こんなの知らされていねぇぞ?龍血の扱いがまだまだな餓鬼を潰してこいって、アイツは言ったのに…騙したのか!?)
苛立ちを隠せない赤い鬼に、青い鬼の面をつけた男は異変を知らせる。
「兄者…」
「ああ?」
「俺達の縄張りで、何かが暴れているようだ…。どうする?」
「あぁん?もう一人居るって言うのか?坤始末してこい」
「兄者良いのか?」
「こんなクソ餓鬼は、一人で充分だ!」
「御意」
そう言い、青い鬼の面の男は離脱した。


青い鬼の面が現場に向かうと、数々のトラップが作動したあとが残されていた。
(何だ?これは、獣の足跡…馬鹿な動物如きが躱せるわけがない。が、丁寧に地雷原だけ避けてある)
木の上から見渡す青い鬼の面の男が、罠を観察しに下へと降りてきた。
「なっ!」
青い鬼の面の男が気配を感じとるより速く何かに吹き飛ばされた。


何かが爆発する音が森全体を振動させた。
「へッ!見ろよ弟が暴れているぜ!かわいそーになぁ、どんなトリックを使ったか知らねーがおまえの仲間は、もう死んでるぜ?」
「御託はいい。はやく来いよ?来ないならこっちから行くぞ?」
赤い鬼の安い挑発など、カルマは意にも返さなかった。
カルマの静かな闘志に、赤い鬼の面の下で汗が伝うのを男は感じた。
(ありえない!この俺様が怖気付くだと!?)
「クソ餓鬼が、舐めてんじゃネェ!!」
怖れを憤りに変えて、赤い鬼はカルマに向かって突っ込んでくる。

だが、カルマは襲い来る凶爪をいなし続ける。
なかなか当たらない攻撃に赤い鬼は苛立ち、隙を見せた。
(…そこだ!!)
カルマは赤い鬼の隙を見逃さなかった。
赤い鬼のみぞおちに、カルマの左腕が入った。
「グアッ!?」
赤い鬼は勢いよく吹き飛んだ。
(クソッ、クソッ!こんなはずじゃ!話と違う!!許さねェ!!)
ふと赤い鬼は、地面がおかしい事に気付いた。
ここだけ掘り起こしたかのような、真新しい土が覆っている事に。
(まさか!?これは)
カチッという音と共に、赤い鬼の周りから爆発音が辺りを包んだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

スバルは繋がった中継を食い入るように見る。
「アイツは、無事なのか!?」
画面は土煙が滾り、様子がわからなかった。
「皇くん、気になるのはわかりますが、落ち着いて下さい。そんなとって食いやしませんよ。貴方もやったかと存じますが…、簡単なゲームみたいなものでしょ?」
「オレがやった時は、お前が担当じゃなかったからな」
「おや、冷たいですね」
人見は、冷めた笑みを浮かべながらスバルを茶化した。
「見て…あそこにいるの」
レンが映像に映る人影を見つけた。
「どうやら、一本取れたみたいですね。だから言ったでしょう、簡単なゲームだって」
納得が行かない様子のスバルを横目に、人見は笑みを絶やさなかった。
(ふむ、乾坤兄弟では、こんな所ですかね…)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

爆発の煙が、辺りに充満していた。

「兄者…よ、無事か」
煙が晴れたそこには、赤い鬼を庇ってボロボロになった、青い鬼がいた。
「坤!!おまえどうして!!」
「兄者、すまな…い。矢を取られてしまった」
「もういい、喋るな…。全部全部兄ちゃんが、取り返してやるから」
バウッと、一鳴きして木々を駆け抜け白い狼が現れた。
「おお!シロ良くやった、偉いぞ〜!! 」
シロは持って来た矢をカルマに渡した。
「まずは、一本!!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

昨晩の事だった、カルマの部屋にシロを連れてレンが訪ねてきた。
「レンまで、こんな遅くにどうしたんだ?」
「出来たから、持って来たの」
「出来た…?」
「そう、シロを貴方の式神として扱えるようにする、接続式が」
接続式という聞き慣れない単語に、カルマは首を傾げた。
「今のこの子は、貴方のと言うより貴方を守護する命令を受けて行動しているに過ぎない。だから今から貴方の直属の式神にする、そうしたらもっと意思疎通が捗る」
「なるほど…。じゃ、オレとシロのコンビネーションがもっと良くなるって事だな!でも、どうやってやるんだ?」
レンは、ゴソゴソと巻物を一本取り出す。

「この子の式を解読したわ。接続式がこの中に書いてある」
「これ一本丸ごとか?」
「そう…、この子の術者本人からの譲渡でない限り、強力な呪いでもない限り難しい。だから、この子に再接続して新しい主として認識して貰う」
呪い、最初にレンにあった時も、言っていた事を思い出す。
「じゃあ、始めるからそこに座って」
カルマは促されるまま自室の床に座った。
「この頁に、貴方の血が必要。少し痛いけど我慢して」
そう言うなり、レンはカルマに小刀を渡した。

受け取った小刀を、カルマは右手の親指に押し当てる。
裂けた皮膚から血が湧き出る。
「ここに血を」
レンに言われるがままに血を頁に捧げた。

「接続式を開始」
レンの言葉と共に巻物が光を放つ、巻物から部屋一面に陣が広がりシロを包む。
「対象の契約を更新。…新たな主は、…狗神苅磨」
シロはジッとカルマの瞳を眺める、そしてシロの額の模様が点滅する。
激しい風が巻き起こると共に、陣がシロの中に流れていくのが見えた。
「シロ…?」
固まって動かないシロにカルマは困惑した。
「大丈夫。無事に終わったから、再起動に少し時間がかかってるだけ。すぐいつものシロに戻る」

「そうか…、なら良かった」
しばらくするとシロが目覚め、心配そうにしているカルマに対し「バウッ」とシロは声を発した。
「シロ!大丈夫だったか!」
どうやら、いつものシロに戻ったようだ。
シロは早速、いつものように尻尾をブンブン振り回した。
「これで、貴方とシロは繋がった。貴方の本当の式神になった」
「式神って言われても、シロは家族だ…昔もこれからだって」
「そうね、でも。シロは式神としての使命を、ちゃんと勤めようと思っている。彼の意思を、尊重するのも主人の務めだと思う」
「シロが?」

レンに後ろを見てと言われカルマは振り返った。
そこには、カルマの影の中に身を潜めようとしているシロがいた。
「シ、シロ!?何してんだ?」
「貴方と正式に繋がった今、影の中に居たらいつでも貴方と居れるって彼なりに考えたの」
「そ、そうなのか…?もしかして、この間置いていかれたって思って拗ねてるのか?」
シロは顔だけ影から出し、不満そうに唸りながら返事した。

「ごめん!シロ許してくれ!」
「シロの意思を大事にしてあげて、きっとこれから助けになる」
「ああ!ありがとう、次の試験絶対受かってみせる」
「そうね、期待してる」
そうして、試験前の最後の夜が更けていった。
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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