3-11

文字数 3,756文字

カルマ fake:recognition 3-11

境界の門から、目的地へと帰る途中であった。
カルマは、スバルの明らかな憤りを感じ取っていた。
「なぁ、あの人と何かあったのか?確か…、昔兄、兄弟子?だったとかなんとか?だっけ?」
その質問をしたカルマに対し、スバルは容赦なくヘビがカエルにするような、鋭ささながらの睨みを効かせた。
「そんなに睨むなよ…。あの人、おまえのこと気にかけてるいい人じゃん?」
「おまえのお人好しさには、ほとほと呆れる。アイツがいい奴?さっきまで試験で、殺されかけてた奴がよく言う」
確かに、あの試験を管理していたのは人見であった。
温い事を言うカルマに対し、スバルはもはや聞く耳を持つ気はなさそうだった。
「いや、まあ…ごもっともです。ハイ」
スバルのキレのあるツッコミに、カルマは情けなくうなだれた。
「そもそも、おまえには関係ない事だ!これ以上余計な事に首を突っ込むな!」
(あっ、これ説教コースだ…)
カルマは、スバルの苛つきの鉾先が自分に向けられたのを感じた。
藪をつついて蛇が出るとは、まさにこの事だった。

しばらく、スバルの説教を無心で聞いていると門の出口に出た。
すると、カルマの影からすかさずシロが飛び出していった。
「おわッ!シロ!?飛び出しちゃダメだって何時も言ってるだろっ!!」
カルマが追いつくよりも早く、シロは目的のある人物の前にたどり着いていた。
「シロおかえり」
シロを快く迎え入れたのは、レンだった。
「おー、レンも来てくれたのかー!」
「二人とも遅いから、迎えに来た」
レンのその一言に納得がいかなそうに、スバルは呟いた。
「なんでオレまで…、そもそも遅いのはコイツだ」
「試験の後も、色々大変だったんですぅ!ちったぁ労ってくれませんかねー?」
スバルは、そんなカルマに目もくれず淡々と家路についた。
「えっ、ちょっと!無視すんなぁ!!」
二人の漫才のように息がぴったりな様子を見て、レンは思わず口に出してしまう。
「二人ともいつの間にか、仲良し…」

「「んなわけあるかぁ!!」」
二人の呼吸が見事にシンクロした。
カルマとスバルは、お互い気不味くなったのかそっぽを向いている。
そんな二人を見て、レンはやっぱり仲がいいのではと、心の中で思ったがそっと胸の内にしまった。

そして、三人と一匹で仲良く帰路についたのであった。

屋敷に辿り着くと、パァンと言う破裂音と共に迎えられた。
ヒラヒラと色とりどりの紙が空中を舞っている。
「「試験合格、おめでとうっ!」」
たった今役目を終えたクラッカーを手に持ち、双子の禿は陽気に出迎えた。
カルマは、禿達の頭をポンポンと撫でてやる。
「カルマさん、試験見てましたよ!凄かったです」
「いつの間にあんなに出来るようになったんですか!?」
二人は矢継ぎ早に質問をしてくる。
「二人とも、主役を困らせちゃダメよ〜。先生、試験を見ててハラハラしちゃった〜、無事で良かったわ〜!」
部屋の奥から、白蝶が朗らかに笑った。
その隣で、耳を指でおさえながら鏑木が現れた。
「白蝶先生!鏑木隊長まで」
「カルマ、これでおまえも正式に俺たちの一員だ」
鏑木の一言に、カルマは涙を滲ませた。
「隊長…、オレ、付き合ってくれたみんなの為にも、これから役に立ってみせます!」
「フッ、そうか。楽しみにしている」
「ハイッ!」
鏑木に向かって、カルマはガッツポーズを決めてみせた。
「また、そうやって調子に乗るなよ?毬栗頭」
「おい、スバル!今、ちょっといい感じの所だっただろうが!空気を読んでくれませんかね?」
スバルの発言にも、大分耐性がついてきたカルマであったがつい挑発にのってしまった。
その二人の様子に、周りの者たちは最早慣れた様子だった。

「…そんな事言ってるけどスバル、カルマのために…ムグ!」
「レン余計な事言うな!」
何かを言いかけたレンの口を、スバルは咄嗟におさえた。
「二人して突然何してんだ?」
カルマの疑問は最もだったが、スバルは必死に誤魔化そうとキツく当たってしまう。
「何でもナイ!おまえには関係ナイ!だから、気にするな!」
「また、おまえそうやって関係ねーって言」
ぎゅるるるうと話の途中に、緊張感の無い音が腹から響いた。
「あっ、そういや。朝から何も食ってねぇや」
どうやら音の出所はカルマの腹の様だった。
「あらあら、じゃあご飯にしましょう!今日はご馳走よ〜。きっと、貴方も気にいるわ」
白蝶が、手をパンッと鳴らし食卓へとカルマを案内した。
「ご馳走楽しみです!皆さんも行きましょう!」
禿の二人が、白蝶たちを追いかける様に、小走りで走って行った。
「お前たちも早く来い」
鏑木がいつまでも、まごまごとしているレンとスバルに声をかけて向かった。
「ウソつき…」
レンはスバルに、ボソりと呟くと鏑木の後に続いた。
「うるさい…」
スバルは、バツが悪そうに一人声に出した。
そんなスバルの気持ちを知ってか知らずか、シロがクゥーンと鳴いてスバルの手をひと舐めして行った。
一呼吸置いてからスバルも、シロの後に続いたのであった。
「あっ、待て!おまえ足は拭いたのか!?」
部屋に上がっていくシロに、慌ててスバルは追いかけた。

「わあ!スッゲー!!これ全部オレの為に?」
部屋に入るなり、美味しそうな料理の数々が鼻腔をくすぐった。
「喜んでくれて、私たちも嬉しいわ〜!みんなでお部屋の飾り付けしたり、頑張った甲斐があったわ〜」
「先生まで、やってくれたんですか?」
「もちろん、受かると信じてたもの!」
そう言うと白蝶はウインクしてみせた。
みんなの気心に触れ、カルマの目頭が熱くなって瞳を潤わせた。
「ところでなんでスバルはやつれてるんだ?」
スバルの様子を見かねて、カルマは問う。
「おまえの犬の足の世話をしてたんだよっ!」
スバルは、シロを追いかけて足の汚れを落とすのに苦労したようだ。
「なんか、ごめん」
カルマの発言に対し、スバルは軽く舌打ちで返事をした。
「あっ、そうだ!食べる前に渡したいものがあるのよ〜!」
白蝶は、二人の禿たちに指示を出す。
「渡したいもの…ですか?」
二人の禿たちは、急いで持ってきた。
「ハイ!カルマさんこちらの品です!」
二人からは大きな包みを渡された。
白蝶が開けてみてと催促する。
カルマはとりあえず開けてみる事にした。
「これは!」
包みを開けてカルマは驚いた。
包みの中からはスバルや鏑木が着ている、隊服が入っていたのであった。
漆黒が烏のように美しいコートがカルマを出迎えた。
着物のような袖がついており、後ろには八咫烏の紋章が刻まれていた。
「どうですか!どうですか!」
禿がカルマの反応を待っている。
憧れていた隊服を目の前にして、嬉しさのあまり声を失う。
「ーーーめちゃくちゃ、嬉しいッス!本当に、オレが着てもいいんですか?」
珍しく消極的になるカルマに対し、先に口を開いたのはスバルだった。
「逆に、他に誰が着るんだ?それは、おまえ用に専用に作った物だぞ?」
「そうなの〜!カルマ、折角だから一度着てみてくれないかしら〜?」
ほらほら、こっちで着替えて着てと、白蝶と禿たちに奥の部屋に連れていかれた。
白蝶たちに、言われるがままカルマは奥の部屋で着替えた。
「これがこうでいいのかな?」
(うーん、ちょっと気恥ずかしさを感じる)
「着替え終わりましたかー?」
禿の一人がまだかまだかと声をかける。
双子は白蝶の周りの世話を受けもっている、薄桃色の髪をパッツンとおかっぱにしている女の子だ。
名前を桜と桃という、瓜二つの顔からは判別が出来ないほどよく似ていた。
二人の違いは唯一、髪飾りの位置でわかった。
右側に花飾りを頭につけてるのが桃で、左側の頭につけてるのが桜だった。
難しい仕事中以外は、二人とも子供らしく天真爛漫だった。
二人に急かされ、カルマは着替えを終えて戻った。

「こんな感じかな?」
カルマは、照れ臭くて頬をかきながら出てきた。
「「わぁ〜!お似合いですよ!カルマさん」」
二人は、口を揃えて声をかけてきた。
「あらあら、とても似合ってるわ〜!それと、サイズもピッタリみたいね」
白蝶も双子に続いた、カルマを見てうんうん、良かった良かったと頷いてみせた。
「フン、馬子にも衣装だな」
「おまえなぁ〜まあ、いいや」
スバルの相変わらずの反応だったが、今は気分がいいのでやめとこうとカルマは思った。

「これからは、隊服に恥じないよう努めるんだぞ」
鏑木にそう言われて、浮かれていた気分が引き締まった。
「わかってます!ところで、サイズピッタリなんですけど…。よく、オレのサイズわかりましたね?」
カルマは、服を着て思った疑問を口に出した。
「それはですね!カルマさんが寝ている間に、わたしたちが測っちゃいました!」
双子の禿たちは、えっへんと胸を張った。
「いつの間に…」
「先生の付き人をしているのだから、この二人は小さくても中々の手練れ」
レンの評価に気を良くしたのか、双子は鼻高々としている様子だった。
ギュウウウとカルマの腹の虫が、再度音を鳴らした。
「あっ、腹減ってたの忘れてた」
腹の虫の音を聞いて、シロも同調するかのように吠えた。
「シロも腹減ったかー?」
パン、パンッと手を鳴らし、白蝶が音頭を取り始めた。
「さあ、衣装のお披露目会も済んだことだし、食事にしましょう!」
久しぶりのみんなで囲む食卓に、カルマは嬉しくなった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み