第3話

文字数 852文字

 ぼくたち家族が埼玉県に移り住んだのは、ぼくが小学一年生のときだ。
 故郷の新潟県から東京へ出稼ぎに来ていたお父さんだったが、雪の少ない関東がすっかり気に入ってしまった。そのまま新しい事業を始め仕事が軌道に乗り、埼玉県に新居を購入したのだ。

 住宅が一列に並ぶ一番端っこの家で、これから開発が進み街が発展する地域だからと業者に勧められて、お父さんが勝手に購入を決めたらしい。
 そしてぼくたちは、電話一本で新潟から呼び寄せられた。新潟県から、お母さんがトラックを運転して遠路はるばる埼玉県にやってきた。お母さんが、トラックを運転できたことも驚いたが、遠路はるばるついた新居にもぼくはびっくりした。

 同じような家が横に並び、隣の家との間は金網のフェンス一枚、窓を開ければすぐ隣の家の壁だった。新潟の家は、隣の家まで歩いて十分かかるし隣家の明かりなど見えなかった。

 そして何よりびっくりしたのは、バス通りなのに砂利道で、そのバスも一時間に一本しかなく周りに何もない場所だったからだ。最寄り駅までバスで二十分。駅まで行かないとスーパーすらない。小学校までは約二キロ、子供の足で約三十分、しかも坂道だった。

 バス通りを挟んだ反対側には、道路に沿って並ぶ十四棟の団地が建設中だった。ほとんど車の通らない道路の真ん中に立って、立ち並ぶ団地の遥か遠くを見ても最後の棟まで見ることはできない。
 
 そこに人が移り住んできて、まだ周辺の整備が追いついていないのに、半月もすると家の周りが賑やかになってきた。他県から人口が流入してきているのが小学生のぼくにもわかるほどだった。

 お父さんの期待通り、小学校に通う六年間で、ものすごいスピードで開発が進んだ。
 のちに、小学校へ通う途中に中学校ができ、ぼくたちが第一期生となった。
 スーパーや病院もでき、自転車で動けば便利な地域となった。その頃には道路も舗装され多い時間帯では十分に一本くらいの間隔でバスが通るようになっていた。

 そしてぼくの家の前には第二ゲート入口というバス停ができた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み