第19話

文字数 1,137文字

 ぼくの家が空き巣に入られたという情報は、近所にあっという間に広がった。学校でも噂が広がり、ほぼ全員が知っていたのではないかと思う。クラスメートは気をつかってくれて敢えて話題を避けていたようだった。そんななか、ユキトだけは心配して声をかけてくれた。
「大丈夫か?もしかして写真も盗まれたのか?」
「あぁ、ぼくが大切なものとして宝箱みたいにしまっておいたのがいけなかった。まさか、こんなことになるなんて考えてもいなかったならな。後悔しても仕方ない。もう戻ってこないんだからな」
「そうだったのか。タカヒロが落ち込んでる様子が尋常じゃないと思ったから声をかけたんだ。やっぱりそうだったのか……ふだんポジティブなタカヒロがいつまでも落ち込んでいるのを見てたら想像できたことだけどな。大事にしてたもんな……俺は羨ましかったんだぞ。基地の話をしているときが、俺と一緒にいるときで一番楽しそうにしてたからさ。俺との時間より、タカヒロはあっちに興味があるんだろうなって思ってたから少し嫉妬してたのかもな」
「なんだよそれ。でもユキトがわかってくれていたことだけで、ぼくは前に進める気がしてきた。そうだよな、ポジティブをとったらぼくのいいところなんてないもんな。ポジティブだけが唯一の取り柄だったな」
「えーっ、そんなつもりで言ったんじゃないよ。そういう単純なところも含めてタカヒロなんだけどな」
 ぼくたちは校庭の端の階段に座り部活のグラウンドを眺めながら笑った。ユキトはぼくを元気づける為に、オタマジャクシのその後を話してくれた。
「タカヒロが嫌いなのは知ってたから、隣のクラスの先生にお願いして、教室でオタマジャクシを飼ったんだよ。観察目的でな。そうしたら、あいつら、あっという間にカエルになって小さな飼育ケースの中で元気にピョンピョン跳ねてたわけよ。日直の係が毎日、水を取り替えたり餌をあげたり順番でやってたわけ。ある日、日直の女の子が、カエルが苦手でさ、でも頑張って水を替えようとしたんだろうな、フタを開けたとたんカエルがピョンピョン飛び跳ねたらしい。びっくりしてケースごとひっくり返しちゃって大騒ぎ。そのまま放置して逃げちゃったからカエルはすべて行方不明になっちゃった……というわけさ」
「えーっ、そんな事件あったの?全然知らなかったよ」
「だろうな。俺が翌日、新たなカエルを調達しておいたからな」
「そういうことか。ユキトならやりそうなことだ」
 ぼくたちは、その後も懐かしい話で盛り上がった。
 ユキトとぼくは今でも仲良しの友達だ。ぼくのことを本当に理解してくれるたった一人の友達だ。ユキトのことめ含めて、米軍基地内での出来事は、今でもぼくの心の中に確かに存在している。
 決して消えないものとして。
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