第11話

文字数 911文字

 ある下校時、ぼんやりと基地の方を見ながら歩いているとトムが遠くで手を振っているのが見えた。三十メートルくらい先だったので急いで駆け寄りフェンスに手をかけた。
「ハイ、タカ。今日の夜九時くらいに会えないかな」
「えっ?夜の九時?何があるの?」
「今夜、流星群が見えるらしいんだ。パパが言ってた。パパは軍人なんだけど、とてもロマンティストなんだ。祖国でもよく星を眺めていたよ。今夜はママとデートなんだって。だから、ぼくはタカとここで寝転んで星空を見たいんだよ。一人ぼっちで留守番なんて寂しずぎるだろ?」
「そういうことならOKだよ。じゃあ、夜九時にここで」
「サーキュー、やっぱりタカはベストフレンドだ」
「じゃあまた」
 トムと別れたあと、ぼくは一人でニヤニヤしながら歩いていた。
(女の子からデートに誘われるのってこんな気持ちなのかな……)
 まだ四時くらいなのに、気持ちがソワソワして落ち着かない。
「お母さん、今日の夜、ユキトと星空観察するから出かけるね」
「あらそう。あまり遅くならないようにね。鍵を忘れずに持っていってね」
「うん、わかった」

 お母さんは、早寝早起きだ。いつも十一時には家の明かりは消える。
 ぼくの家は、ほとんどお父さんは不在だし、その割に、お母さんもあまり口うるさい方ではなかったので同級生の友達より伸び伸びした生活を送っていた。それでも、そんな環境だからこそ自分で生活のルールは決めていた。お母さんも、そんなぼくを信じてくれていたからこそ、獲得した自由だと思っている。

 この前、ユキトの家でゲームをしていて遅くなってしまったことがあった。ぼくなりにルールを破ったという反省があったので、この時ばかりは、流石に叱られると思っていた。素直に謝ろうとは思っていたが、最悪の場合を考えて、言い訳を用意している卑怯な自分もいた。
「ただいま」
「あら、今までいなかったの?二階にいるとばかり思ってたわ。ドラマに夢中になって夕飯の支度が遅くなっちゃったのよ。ちょうど良かったわ。今、夕飯できたところ」
 ぼくは拍子抜けしてしまった。お母さんとは相性がすごくいいらしい。まぁ、いつもそんな感じだから、トムとのデートはまったく問題はない。

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