第5話

文字数 428文字

 そして、何よりもその道が好きだった理由はもう一つ。
 団地の車道の北側には、高い金網のフェンスがあり上の部分には四十五度内側に反りかえるバラ線が張り巡らされていた。
 フェンスの向こう側は自衛隊駐屯地で両親は米軍基地と呼んでいた。ぼくはその未知なるエリアに興味があった。
 金網のフェンスなので、軍人さんの姿も見えるし、人々の往来も普通に目にすることができる。パトロールしているカッコいいアメリカのパトカーも見える。低い樹木がフェンス近くにあって、一様、目隠しの役目をしているらしい。その向こう側には大きな桜の木が敷地内のあちらこちらに見える。
 せせこましい雰囲気の日本側と広々とした米軍側。日本人が近づいてはいけない場所、近くにある異次元の世界。そんなふうに対照的な景色としてぼくの目には映っていた。

 その金網のフェンスにリコーダーの笛をカチカチとあてて歩きながら考えていた。
(フェンスの向こう側はどんな世界が広がっているんだろう。いつか行ってみたいな……)
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