第17話

文字数 1,062文字

 ぼくが中学生のとき、我が家に事件が起こった。ゴールデンウィークに家族で新潟県へ帰省していたときのこと。渋滞の道を運転していたお父さんが一番疲れていただろうが、イライラに巻き込まれて機嫌の悪い両親に気を使ったせいで、ぼくもとても疲れていた。
 車庫に停めて荷物を玄関に運ぼうとしたとき、異変に気づいた。庭の植木鉢が倒れていてガラス破片が玄関の外に散らばっていたからだ。旅の疲れが一気に吹っ飛んだ。荷物係のぼくは、まだ車にいた両親を慌てて呼びに走った。
「お母さん、家の様子が変だよ。早く来て」
両親は残りの荷物をそのままに、慌てて家に戻ると玄関は施錠されておらず、部屋の中は、ものの見事に荒らされていた。そう、空き巣に入られたのだ。両親は青ざめて、現金や通帳が入っていた引き出しを確認したが、全て持ち去られ何も残っていなかった。
 ぼくは慌てて二階にあがり、部屋の引き出しを確認したが、お年玉袋も、お母さんが作ってくれた通帳も、そしていっしょにしまってあったアルバムや絵本など、大切な箱ごと無くなっていた。ネガも一緒に箱に入れていた。大事にしすぎて、一番奥に宝箱のようにしまっておいたことが、こんなことになるなんて想像もしていなかった。

 ぼくはショックでその場にへたりこんでしまった。散らかった部屋を見て他に何が無くなっているのかわからなかったが、あの箱だけは決して無くしてはいけない大切なものだったのだ。
 ゴールデンウィークの楽しい思い出は一瞬にしてどこかへ飛んでいってしまった。今のぼくにはどうでもよかった。
 その日、ぼくの心の中には、ぽっかりと大きな穴があいてしまった。

 夜遅くに警察官が来て、ぼくは何を盗まれたかと聞かれた。ぼくは現金と通帳が引き出しから無くなっていることだけを話した。警察官が両親に説明していたのを上の空で聞いていたが、概ねこんなことだった。
 最近、この近辺で空き巣被害が多発していて夜間パトロールを強化していたということ。そのパトロールの目をかいくぐって被害にあったということ。おそらくプロのグループ犯の仕業で、しかも、盗まれた品物はもう出てこないだろうーーと。

 ぼくはこの時、人生で初めて神様にお祈りをした。
(現金は出てこなくてもいいですから、絵本とアルバムだけは返してください)
 もちろん、神様なんていないとわかっている。それでも願わずにはいられなかった。ぼくのたった一つの宝物。もう二度と手にすることのできない思い出の宝物。神様にお祈りしながら、散らかった部屋でいつの間にかぼくは眠りについていた。
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