第12話

文字数 963文字

 夜九時ころ、約束の場所にトムはいた。フェンスをくぐって中に入った。
「ここに寝転んでみろよ。今夜は雲一つないよ。満天の星だ」
芝生に寝転んでいるトムのすぐ横にぼくは寝転んだ。
「わーっ、すごい星の数だな。この辺は高層ビルも高い木もない。最高の場所だな」
 しばらくぼくたちは無言のまま、ただ流れ落ちる星を見ていた。辺りはとても静かだ。
 ぼくはこんなに大きなプラネタリウムを体感したことはないと単純に思った。そして、今日が特別な夜なんだと改めて実感した。日本でどれだけの人々が、この流星群を見ているのだろうか。ただ、観察で見ているのではなく、星空に身を委ねて夜空に浮かんでいるような感覚、自らもどこかに転げ落ちて流れて消えてしまいそうな感覚ーー

 ぼくは、この夢のような時間が永遠に続けばいいと思った。

 ふと横に寝転んでいるトムのほうを見ると、目から光るものがこぼれ落ちているのが見えた。一瞬、ハッとしたがすぐに適当な言葉が見つからず、そのまま、また星空に目を移した。

 静寂な時間を破ったのはトムだった。

「ぼくは軍人のパパを誇りに思う。でも人々は戦うべきではないと思うんだ。ぼくの家は代々、軍人なんだ。だから、いずれぼくもパパのような軍人になるだろう……タカ、それでも友達でいてくれるかい?」
 ぼくはトムの涙の意味をなんとなく理解した。
「もちろんだよ。ぼくだって戦争なんかしたくない。ずっと友達でいるさ」
「ありがとう、タカ。今夜のことは絶対に忘れないよ」
「うん、ぼくも。二人で見た星空を一生忘れない」

 それから二人で星空を眺めながら、学校のことや友達のこと、家族のことなど、いろんなことを話した。

 夜十時になってぼくたちは別れた。きっと十時という区切りがなかったらぼくたちは夜が明けるまで話し続けたと思う。

 あの時の涙の意味を今でも考えてしまう。

 あの時、ぼくはどうしたら良かったのか……
 どうすべきだったのか……

 その答えによってぼくたちの未来が変わるとは思えないが、来るべき将来を考えるきっかけとなる涙だったことは否定する余地もない。
 そして敢えて言うなら、ぼくの知っているトムはとても心の優しい人間だった。

 ぼくはあの夜に体験したことを誰にも話さなかった。誰かに話したら、夢のような時間が消えてしまうような、そんな気がしたからーー
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