第28話 ウルルでの宿泊 ~忘れ得ぬ味~

文字数 1,358文字

旅における思い出の味というものがある。
ありふれたモノであっても格別に美味しく感じることがある。

ウルルでのこと。
この街にはちょっとした特別な思い出がある。
ウルルは何もない広大な赤土の荒野に囲まれた小さな街である。
僻地とも言えるこの街で、私たちは一体どのような場所に宿泊したのだろうか。
じつはこれが意外にも少しばかり面白いことになった。
なんともウルルにはいわゆるバックパッカーが泊まる安宿が少ない。
その為、なんともここウルルでの宿が「この旅一番の良い宿」に泊まることになった。
部屋も広く内装も綺麗。この旅で唯一泊まったリゾートホテルであった。
――荒野の土地でリゾートホテル
このギャップがとても面白い気持ちにさせられた。
私たちは安宿も気に入ってはいたが、これまでの安宿の堅いベッドとは違い、柔らかく寝心地も良い。そのベッドで十分な睡眠をとり、爽やかに目を覚ました。
この日はウルルに登る日だった。ウルル登頂のツアーバスの出発までには時間がある。
私たちはホテルのガーデンでゆったり過ごすことにした。
ガーデンには大きな鉄板で調理をしてくれる小さな売店があった。
メニューの看板を見ると、どうやら「焼き立てのハンバーガー」が食べられるらしい。
「これ食べようぜ」私は言った。
「そうだな」広沢も即同意。
私も広沢も焼き立てハンバーガーへの興味は深々である。
店員が鉄板にバンズ、玉葱、パテ、ベーコン、目玉焼きなどを次々と並べ、手際よく焼いていく。
――素晴らしい手際!
私たちはその様子をずっと眺めていた。バンズにレタスとトマト、焼きたての具材を重ねて挟んでいく。
最後に真っ白な紙に包んで「ヒアユア」とハンバーガーを手渡してくれた。
私たちは「センキュ」と受け取った。手にずっしりと重みを感じた。
「うぉお、これスゴイなぁ」
紙包みを開くと驚くべきビッグサイズのハンバーガーが顔を出す。
ウルルサイズとでも言うのだろうか、パテの部分だけでも、ゆうに3cmはある。
こんな巨大なハンバーガーは食べたことがない。
――凄い厚さ!
「これ、どうやって食べるんだよ」広沢が笑いながら言った。
「やはり、こうだろ」私はこれでもかと言わんばかりに大きく口を開けかぶりついた。
――んんん!
口の中に肉汁が溢れ出し、それがトマトの汁や他の具材と混ざり合い、幸せな気分の大波が押し寄せてきた。
「これは美味しいなぁ!」
正直、生まれてこの方、これほどまでに美味しいハンバーガーを食べたことが無い。
このハンバーガーは本当に美味しかった。これは忘れ得ぬ味となった。
言ってしまえばただのハンバーガーである。
しかし、深く記憶に刻まれるほどのハンバーガーでもあった。
世界には、まだまだ美味しい食べ物がたくさんあるのだろう。
荒野の中のリゾートホテルのガーデンで食べたハンバーガー。
これもまた旅のよい思い出となった。

思いもよらないところに美味しい食べ物がある。
その味に出会うと、深く記憶に刻まれる。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ美味しい食事」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

【旅のワンポイントアドバイス28】
旅においてふとした料理がとても美味しく記憶に残ることがある。その料理をどこでどのように食べたかと言う事も合わせて記憶しておくと、旅の良い思い出になる。



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