第49話 拳銃所持ハプニング ~入国審査ついに捕まる~

文字数 1,847文字

絶対に笑ってはいけない場面というものがある。
ついうっかり笑ってしまうと思わぬ事態を招くこととなる。

日本へ帰国する飛行機内。
窓の下には日本の街が広がっていた。
空から見ても明らかにそれは見慣れた日本の街の景色だった。
――あぁ、日本に帰ってきたのだな……
日本に戻った実感が湧くと同時に、一気に日常に引き戻されたかのように感じた。
飛行機を降り、空港内を歩くと、そこはもう日本人ばかりの景色。
「ここはやけに日本人が多いな」私は冗談っぽく広沢に言った。
「ははは、そうだな」広沢も冗談っぽく同意した。
これから入国審査を受け日本に入国し、帰国となる。
私たちはこの旅最後のイベントを終了させる為、入国審査の列にならんだ。
これを済ませると、私たちの旅はいよいよ完全終了となる。
まずは、広沢が入国審査を受ける。少しの間、審査官と言葉を交わし難なく通過。
オーストラリアへの入国時より少し会話が多かったようである。
日本に入る審査の方が厳重のようだ。
一体何を話していたのだろうか。私の居る位置からは聞こえなかった。
いよいよ、私の番である。
ところが、ここで、最後の最後にして、またもや思わぬ……
――ハプニングが起きた!
結論から言うと、なんと!私はそのまま入国審査を通過できなかった。
一体、何が起きたのだろうか!
ことの成り行きは、ほんの些細なことだった。
審査官から広沢同様にいくつか質問をされた。
「旅の目的は何でしたか」
「観光です」
と、まぁ、ある意味ありきたりのよくある質問であった。
ところが、次の質問に一瞬、私は言葉に詰まった。
審査官が真顔でこう言った。
「拳銃は所持していませんでしょうか」
――え?
私にとって、あまりに突飛な質問であり、一瞬戸惑ってしまったのである!
実際、私はド真面目な性格だが、この時、確かに私は茶髪だった。
あまり真面目な人物には見えなかったのだろうか。
どういうわけか、私は「拳銃の所持」を尋ねられてしまったのである。
まさか「拳銃の所持」を聞かれるなどとは思ってもおらず、おもわず……
――ぷっ!
と軽く吹いてしまってから「ええ、持っていません」と答えた。
「あ、ヤベ、笑ってしまった……」
と思った瞬間、審査官の目がギラリと光ったのを私は見逃さなかった。
そして予想通りの展開。
「荷物を調べても、よろしいでしょうか」審査官が鋭く言った。
――やっちまった
(私が笑ってしまったことが引き金である)
「ええ、大丈夫です」望むところである。今度は笑わずに応えた。
審査官はその場でバックパックを開け、中身を調べはじめた。
勿論、拳銃など所持していない。荷物を調べられても平気である。
しかし、小説などでは、自信満々に荷物を調べさせると、なぜかそこから「あるはずもない拳銃」が出てくる。そして私は狼狽する。
「なぜだ!なぜそんなモノが入っている!」
「ち、違う!俺はハメられたんだ!」
みたいな展開になるのだろうなぁ、などと、オカシナなことを考えていた。
そうこうしているうちに審査官が手を止めた。
「ええ、大丈夫です。お通りください」
どうやら、何も怪しいモノは見当たらなかったようである。
いやいや、当然である。危険物など何一つ所持していない。
とはいえ、ちょっと緊迫した空気を体験できて……
――面白かった(面白かったんかい)
出口で待っていた広沢に、私は額の汗を拭いながら、こう言った。
「あっぶねぇ。あと少しでワルサーP38が見つかるところだったぜ」
ワルサーP38とはルパン三世が使っている拳銃である。
「ははは」広沢は相変わらず爽やかに笑っていた。
ファッションショーでモデルが歩く道を「ランウェイ」と言う。
ランウェイでは、決して笑ってはいけないとされている。
モデルが笑うと主役である服の存在が薄れるからである。
このように決して「笑ってはいけない」場所というものがある。
そこを間違えると、このようなことになるわけである。
この出来事もまた、記憶に残る旅の思い出のひとつとなった。

ランウェイしかり入国審査も絶対に笑ってはいけない場所であった。
この体験から、その事実を辛くも学びとることが出来た。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ学びの体験」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、いよいよ私たちは日本の地に完全帰還することとなる。

【旅のワンポイントアドバイス49】
入国審査では笑いを堪えることが大切。これがスムーズな入国審査通過のポイント。あやうく笑ってしまうと通過に時間が掛かることになるので、覚えておくと役立つ。


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