第44話 ジャングル探検 ~密林の入り口~

文字数 2,114文字

いつか行ってみたいと思っていた場所がある。
旅をしていると、ふとそんな願いが叶うこともある。

ケアンズでのこと。
ケアンズは熱帯気候で山あり川あり海ありと自然に恵まれている。
自然観察をするツアーもたくさんあり、中でも4WD車に乗り込み各所を巡る冒険ツアーが素晴らしいと聞く。その名もサファリツアー。サファリとは探検旅行も意味する。
私と広沢もサファリツアーに参加し探検の旅に出ることにした。
待ち合わせ場所にいると1台の4WD車が現れた。なるほど、これならば、どこでも走れる探検には最適な車だ。
ガイド兼ドライバーのドイツ人のマイクが車から降り陽気な笑顔で挨拶をしてきた。
――え?ドイツ人?
そうである、ドイツ人のマイクはケアンズの大自然に魅了され、オーストラリアに移住。さらには自分自身が感動したケアンズの素晴しさを伝える為、自らガイドになってしまったのである。なるほど、どうやら熱の籠ったマイクのガイドには期待できそうである。
マイクが私たちの探検の水先案内人となる。
ツアー参加者はマイクの他、私と広沢、イギリスから来た若いご夫婦もご一緒となる。
総勢5名でのケアンズ大自然の探検の始まりである。
――さあ、出発!
4WD車を走らせ、ケアンズの大自然の見どころを巡る。
山あり谷あり川まで越えて4WD車はどこへでも行ける。まさに探検旅行。
ケープトリビュレーションなる岬を高台から見下ろす。眼下には岬にそってどこまでも続く白い砂浜と熱帯雨林。
――美しい!
充実したサファリツアーである。
じつは、子どもの頃、一度行ってみたいと考えていた場所がある。
なんとも、これからこのツアーでその場所に行くらしい。
行きたかったその場所とは……
――ジャングル
ご存じジャングルとは熱帯地方にある繁茂した草木で覆われた密林。
インディ―・ジョーンズなど冒険映画やマンガの中によく登場する。
鬱蒼とした植物に囲まれた薄暗い未開の地。ひとたび気を抜けば、獰猛な動物や木の幹の間から這い出た大蛇と遭遇する危険に満ちた場所。
米国ロックバンドのガンズ・アンド・ローゼズの曲に「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル(ようこそジャングルへ)」といった曲もある。
大人になると忘れがちだが、子どもの頃、ジャングルに憧れを抱いた男子はわりと多いはず。
日常生活の中でジャングルに迷い込むことは、まずない。
ところが、このサファリツアーにはジャングル探検も含まれているというのである。
うむ、これはとても楽しみだ。
そうこうしているうちにジャングルの入り口に到着。
――ジャングルの入り口
少しばかりヘンな言い方になるが、ジャングルの入り口のようなところがある。
勿論、『ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』などと書かれた明確な入り口があるわけではない。
ジャングルのすぐ横に道路があり、路肩の一部分が切り開かれていて、なんとなく「ここからジャングルに入れます」的な感じになっているだけである。
どうやらここからジャングルへと入るらしい。
4WD車から降り、私たちはいよいよジャングルへと潜入。
「楽しみだな」私は言った。
「そうだな」広沢も頷いた。
路肩の切れ目なる入り口から土手を下り、その先からが熱帯雨林の密林となる。
そう、ジャングルである。
私たちは土手を下り鬱蒼と草木が茂る地に足を踏み入れた。遂に……
――ジャングル潜入!
「これがジャングルか……」
目の前には映画で観た通りの世界、熱帯雨林のジャングルが広がっている。
多くの木々に囲まれ、太陽光は所々遮断され辺りは少し薄暗い。ここはまだ入り口付近だからまだ明るいが、奥の方はさらに薄暗い。
陽の光が煌々と照りつける暑い道路上と異なり、じめっ、として、ひんやりとした空気が肌に触れてくる。
地面はやたらごつごつして、とにかく足場が悪い。前に進むのにも一苦労。
大きな岩もあれば、行く手を阻むかのように巨木の根が大きく張り出している。
周囲は緑のシダやコケで覆われており湿気が多く、どことなく青い臭いがする。
木々を見上げると、人がぶら下がれそうな木のツルも垂れ下がっている。これでこそ……
――ジャングル!
私はとても大満足。
「なるほど、これがジャングルか」再びそう呟いた。
「あぁ、子どもの頃、俺はここに来たかったのだな」
当時の想いを振り返りつつ、鬱蒼とした薄暗い緑色の世界を見渡した。
かつて想い描いていた夢が叶った瞬間である。これはこれで喜ばしい。
「1枚撮ってくれ」私は密林の中で腰に手を当てポーズをとった。
「オーケー」広沢がカメラを構えた。
――パシャリ!



念願のジャングルでの記念撮影、達成。
これもまた深く思い出に残る1枚となった。

旅をすると忘れかけていた夢を思い出すことがある。
かつての夢がふと叶うことは旅の喜びの一つとなる。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬふと叶う夢」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはオーストラリアの宝石を買うこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス44】
旅をしていると、子どもの頃、想い描いていた夢がふと叶うことがある。そんな時、当時の想いを思い出しつつ、その機会を味わうことでより一層イベントを楽しむことができる。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み