第13話 公衆電話でハプニング ~備えあれば憂いなし~

文字数 1,719文字

備えあれば憂いなし、とはよく言ったもの。
備えがないと思わぬハプニングに見舞われることとなる。

メルボルンでのこと。
私と広沢はシドニーから長距離バスに乗りメルボルン駅に到着。
オーストラリアで訪れる2つ目の街である。
メルボルンの街並みは入植時代の英国の面影を色濃く残しヨーロッパの古い街の再現のようである。駅の建築にも重厚な佇まいを感じる。
このメルボルンにやって来た私たちには、じつは明確な目的がある。それは……
――ミッシェルたちに会う!
以前、書いたように、私たちが高校生の時、オーストラリアからミッシェル、母親のアマンダ、友人のベン、が国際交流の一環として我が校にやってきた(第11話)。
私たちは友人宅で歓迎会を開き3人と交流を深め友人となった。
そのミッシェルたちは、このメルボルンの街に住んでいる。
これからミッシェルたちに会おうというのである。
――これは楽しみだ!
ミッシェルたちに会う手はずは出国前に広沢が整えてくれている。
メルボルン駅からミッシェル宅へ電話を掛けると母親のアマンダが駅に車で迎えに来てくれるとのこと。
「よし、これからミッシェルの家へ電話する」広沢が意気揚々と言った。
「うむ」私も頷く。
メルボルン駅構内の公衆電話へと移動。
オーストラリアの公衆電話には、テレカとコインの両方使えるものと、コイン専用の公衆電話などがある。使い方はコインを入れ電話番号を押す。日本と全く同じなので問題はない。
広沢が少しばかり緊張の面持ちでバックパックの脇のポケットから電話番号の書かれたメモ帳を取り出した。
「よし、掛けるぞ」
私は傍らでそれを見守る。
電話番号を押し、しばらくすると広沢が話し始めた。
「ハロー、アイムアキトシヒロサワ……」
受話器からの英語は聞こえづらいようで、多少手こずりながらも会話が進んでいく。
――ミッシェルたちに会えるのかぁ、楽しみだなぁ
私はそう思いつつ、広沢とアマンダの会話の成り行きをうかがっている。
ところが、ここで、思わぬ……
――ハプニングが起きた!
広沢が顔に焦りの表情を浮かべ言った。
「やばい、小銭が無くなる!」
広沢はコインで電話を掛けていたが、予想以上にコインの消費が早く、手持ちのコインが尽きようとしていた!
ここで一気に公衆電話が戦場と化した!
「マジか!」
私も急いでジーンズのポケットに手を突っ込み、コインを探した、が……
「やべぇ、これしかねぇ」
使えるコインがほとんどない!
とりあえず、あった分だけ急いで広沢に渡す!
続いて、猛ダッシュでバックパックのポケット、パスポートケース、小銭のありそうな場所を次から次へと片っ端から広げ、コインを探し、見つけ次第コインを渡す!
――まるで補給部隊!
私の手持ちのコインも尽きようとしていた、その時のことだった。
「オーケー、シーユー、バァイ」
広沢が最後の言葉を口にして、静かに受話器を置いた。
「ありがとう。なんとか間に合った」
広沢が苦々しさと安堵の入り混じった表情を浮かべ言った。
「おぉ、よかった!」
――ミッションコンプリート
とんだハプニングに見舞われつつも、広沢はミッションを完遂した。
これからアマンダがメルボルン駅まで車で迎えに来てくれる。
あとは、アマンダを待つばかりである。
数時間後アマンダがメルボルン駅に到着。
「コンニチハ!」
アマンダはとびっきりの笑顔と日本語(・・・)で私たちを迎えてくれた。
「オォー!アマンダ!ハロー!」
私と広沢は英語(・・)でそれに応えた。
およそ3年ぶりの再会である。本当に嬉しかった。
私たちは公衆電話でのハプニングを乗り越え、こうして見事にアマンダとの再会を果たした。
これもまた旅の良い思い出のひとつとなった。

万事、備えが有ると無いとでは大きな差が生じる。
公衆電話のハプニングで備えの大切さを実感した。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ大切な学び」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはミッシェルたちとの再会を果たすこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス13】
海外で公衆電話を使用する時には、事前に万全の準備をしておく。これをしておかないと、公衆電話が戦場と化すことがある。多めのコインやテレカを用意しておけば安心である。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み