第16話 フェアウェルにハプニング ~また逢う日まで~

文字数 1,603文字

旅にはハプニングがつきものである。
とは言え、まったく予期せぬ展開が巻き起こることすらある。

メルボルンでのこと。
いよいよミッシェルたちとのフェアウェル。そう、お別れの日。
最寄り駅までアマンダがクルマで送ってくれる。
出発時間まで少し時間がある。私と広沢、ミッシェル、ネイスン、ロビーの5人はリビングでくつろいでいた。
ミッシェルの弟10歳のネイスンはMTVのロックのMVを夢中で観ている。
どうやらネイスンはロックが好きのようである。私たちとも気が合いそうだ。
私と広沢は高校時代にギターでバンドに加入していたので、ギターは弾ける。
ネイスンが小さな子ども用のギターを持っていたので、私は声を掛けてみた。
「そのギターちょっと貸してくれるかな?」
「もちろん!どうぞ!」
ネイスンが小さなギターを笑顔で渡してくれた。
私はそのギターのペグに手を伸ばしチューニングを合わせると……
――ジャッツ!ジャッ!ジャジャジャジャジャジャジャ!
ブライアン・アダムスの『Summer of 69』を弾いてみせた。
するとネイスンがすぐさま反応した。
「スゴイ!ブライアン・アダムスだ!」目を爛爛と輝かせてネイスンが言った。
やはりネイスンはロックが大好きのようである。
私が有名な曲のリフを幾つか弾くと、ネイスンはその度に声を上げ喜んだ。
どうやらネイスンはかなりのロック好きらしい。
そこで、私は広沢に提案してみた。
「広沢、歌ってくれ、俺ギター弾くから」
「あぁ、判った」広沢も快諾。
ネイスンたちにお別れの曲をプレゼントしようというわけである。
選んだ曲はボン・ジョヴィの「ユー・ギヴ・ラヴ・ア・バッドネーム」。
HardRockの明るい曲調の有名なナンバーである。
これと言って選曲に意味はなく、私たちが高校時代にバンドで演奏していた曲である。
私はギターを構え無言で広沢に目で合図を送った。
――ワン、ツー、スリー、フォー
ギターのボディでカウントを取り、歌とギターの演奏が始まった。
ところが、ここで……
――思わぬ事態が発生した!
先程まで私のギターを聴き喜んでいたネイスンが、なぜか……
――大爆笑!
大喜びしている様子ではあるが、なぜか大爆笑をしているのである。
笑い転げながら歌とギターを聴いている。思わぬハプニングである。
「そこ、笑うところ?」
そう思いつつも、私たちは演奏を続けた。しかし、ネイスンは……
――大爆笑!
どうしてネイスンが大爆笑をしていたのかは、まったくの謎である。
大喜びしてくれていることはよく伝わってきた。
ただ、完全に笑いのツボにハマってしまったようである。
ミッシェルの家を去る日ということで、少しばかりしんみりしていたのだが、最後にネイスンの大爆笑のおかげで、とても明るい雰囲気のお別れとなった。
ま、まさか、ネイスン……それが狙いで大爆笑を……かどうかは判らないが……
――ネイスン、グッジョブ!
これはこれで有りである。
まさかの大爆笑演奏会も終わり、いよいよ、お別れの時がきた。
近所に住むベンも駆けつけてくれた。出発前に、みんなで記念撮影をした。
「また逢いましょう」と堅い約束を交わし、私と広沢はアマンダのクルマに乗り込んだ。
皆に見送られる中、アマンダのクルマはエンジン音を上げ走り出した。
「ありがとう!みんな!また逢う日まで!」
これもまた旅の良い思い出となった。

日本とオーストラリアは遠く気軽に会うことは出来ない。
しかしまたいつか何処かで必ず逢える、そう信じている。

そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬまた逢う日」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たち、いや、広沢が動物園でライオンとハプニングを起こすこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス16】
現地の方々とのお別れの時、歌を歌うと「明るいお別れ」となる。どうかすると大爆笑が巻き起こり、しんみりとした空気を明るく晴れやかなものにしてくれることもある。


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