第39話 ラーメン店でハプニング ~箸からして謎~

文字数 1,839文字

異国の地で「日本」を見つけることがある。
それは少し違った日本でありユニークな体験となることがある。

ケアンズでのこと。
海外に長期滞在すると無性に日本食を食べたくなる、という話を聞く。
これまで私たちにはとくにそのようなことは無かった。
ところが、ここケアンズに来てからは少しばかり違った。
ケアンズは日本人観光客も多く、時折、街中に日本語の看板も目にする。
そして、絶対に目にしてはいけない看板を私たちは見てしまった。
その絶対見てはいけない看板とは……
――『ラーメン』
この看板を見たら一巻の終わりである。
脳内で勝手にラーメンスイッチが入り、もはやあらがうことはできない。
「ラーメン、だってよ」私は意味ありげに広沢に言った。
「食べてみるか」広沢から予想通りの言葉が返ってきた。
私と広沢は吸い込まれるように、その店に入っていった。
店内には、日本語も見受けられたが、字が踊っていて明らかに日本人が書いた文字ではない。
おそらくアジア系の外国の方がやっているお店だろう。
そう言えば、表の看板の文字も「ラーメン」ではなく「ラーナソ(・・・・)」と読めなくもない。
店の雰囲気はラーメン店というよりも、全てのテーブルが円卓のせいか中華料理店に近い。
お店の人が注文を取りに来た。
「ラーメン、プリーズ」
私たちは迷わずラーメンを注文した。
オーストラリアで食べるラーメンとは一体どんな味なのだろうか。
少しばかりワクワクと期待して待った。
ほどなくすると、待望のラーメンがやってきた。
「お、普通のラーメンだな」
見た目は一般的なラーメンのように見える。
まずはスープを一口啜る。
――ん?
これは何の味なのだろうか……
醤油味ではなく、どことなく薄い魚介スープのような味である。
お次は麺。
麺はちぢれていない。ストレートでツルっとした細い麺。
時間を掛けて、その麺をようやく箸でつかみ口に入れた。
――うむむ……
こちらもラーメンの麺ではなく、味も見た目もどちらかというとソーメンに近い。
結果、総合的に言うと、この料理は「ラーメン」ではなかった。
何かしらの別の「麺料理」であった。
ひょっとしたらこれは「ラーメン」ではなく看板の表記通り「ラーナソ」だったりして……
(いやいや、そんなはずはあるまい)
勿論、日本のような本格ラーメンを食べられるとは考えていなかったが、わりとラーメンとかけ離れた料理が出てきて、少しばかり面食らった。(麺だけに)
「うむむ……まぁ、こんな感じだろうなぁ……」
少々、納得はいかなったが、これも異国の地ならではの珍しい体験と考えると楽しい。
ところが、ここでまたもや……
――ハプニングが発生した!
最初のひと口目で、すでに気づいていたのだが、なんとも、この麺は箸で……
――つかめない!
箸で麺を掴もうとしても思うようにつかめない!
原因は箸。なんとも坂道をどこまでも転がって行きそうな程、箸がまん丸なのである。
しかもプラスティックのようなツルツルとよく滑る素材の箸。
そもそもここの麺はちぢれのないストレートでつるつるの丸い麺。
そのつるつるの丸い麺を、このツルツルの丸い箸で食べるのである。
その為、この箸では、どうにも麺が……
――つかめない!
何度、麺をつかもうとしても、ツルッ、ツルッ、と箸から滑り落ちてしまう。
子どもの頃、寺で「ところてん」を一本箸で食べさせられた時のことを思い出した。
一本箸での「ところてん」は食べるのがかなり難しい。
しかし、この店のラーメンはそれに匹敵するくらい食べるのが難しいのである。
せめて、麺をちぢれ麺にするか、もしくは、割り箸のような角型の箸にしてほしい。
これは本当に一苦労。大変である。
「この箸、麺がつかめねぇな」私は笑いながら言った。
「おぉ、そうだな」広沢も笑いながら苦戦していた。
これは想像以上に食べるのが難しかった。
日本人二人がオーストラリアで箸の扱いに苦戦している。
この面白い絵づらのハプニングに笑いが込み上げてきた。
これはこれで旅の良い思い出となった。
このラーナソ店(っておい!)に入って正解であった。

ケアンズで箸の扱いに苦戦するとは思わなかった。
これはこれで新鮮で一風変わった旅の面白い体験となった。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ面白い体験」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

【旅のワンポイントアドバイス39】
異国の地で「日本」を見つけた場合、一風変わった「日本」を体験できることがある。とてもユニークな体験となり、それもまた旅の楽しい良い思い出となる。


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