第36話 カカドゥの驚異 ~塵も積もれば山となる~ カカドゥツアー03

文字数 1,384文字

小さなことを積み重ねると山となる。
旅の途中、その事実を最も驚くべき形で目の当たりにした。

カカドゥでのこと。
私たちはカカドゥの大自然を満喫し、ツアー最後の目的地へと向かう。
最後の目的地とは……
――蟻塚
蟻塚とはアリが巣を作る為に地表に運び出した土砂で出来た山のこと。
その蟻塚の驚くほど大きなものが、ここカカドゥに存在するらしい。
アリが運べる土砂など、せいぜいゴマ粒程の大きさのものであろう。
そのゴマ粒程の大きさの土砂を積み上げたとして、一体、どのくらいの大きさの塚が出来ているというのだろうか。とても興味を引く話である。
この蟻塚はカカドゥの草原に存在する。草原といっても赤土に覆われた荒野のような土地である。蟻塚は舗装されたハイウェイから少し外れた場所にあり、近くまでツアーバスで行くことができる。
しばらく荒野のハイウェイを走っていると、ツアーガイドが窓の外を指差し言った。
「あちらに蟻塚が見えてきました」
私と広沢も身を乗り出して窓の外を見た。
――ん?
「どこにあるのだろうか」
窓の外を見ても、蟻塚らしきものが見当たらない。
「アレじゃね?」広沢が土色の巨大な物体を指差し言った。
「え?アレか?」まさかと思いつつ私は言った。
ところが、ツアーバスはどんどんと、その巨大な物体に近づいていく。
「あぁ、やはりアレだ」広沢が言った。
「そうです。あちらが蟻塚です」ツアーガイドが指さし言った。
――マジかよ……
荒野の真中にドンと巨大な円柱形の物体が立っている。
その巨大な物体が小さなアリが作った蟻塚だと言うのである。にわかに信じがたい話である。うむむ、早く近くで見たい。
バスから降り、私たちはその巨大な物体に歩み寄った。
――デカイ!
「これはデカイなぁ」私は驚きつつ、巨大な蟻塚を見上げた。
おそらく高さ6m近くはあるだろう。私の身長は177cm、その3倍はゆうにある。
アリが作ったと考えると、驚くべき大きさである。



土色の蟻塚の表面に顔を近づけてよく見てみる。表面には無数の小さな穴が開いており、穴から穴へと小さなアリが縦横無尽に動き回っている。どうやら、蟻塚自体が巣になっているようだ。
この小さなアリが、この巨大な塚を作ったとは……
一体どれほどの歳月を費やしたのだろうか。驚くばかりである。
周囲の草原を見回すと、この大きな蟻塚が点在している。
ツアーガイドの話によると、ここの蟻塚がカカドゥでも最大のものとのこと。
「塵も積もれば山となる」というが、まさにそれである。
コツコツと努力を重ねることの大切さを思い知らされた。
ほんの小さな努力であっても、それを積み上げるとこれほどまでの大きなものになる。
この蟻塚を目にして、本当によかった。
これもまた、記憶に深く刻まれる旅の良い思い出となった。

努力を重ねてもなかなか結果が出ない時、この蟻塚が思い出される。
1つ1つの努力は確実に積もり積もっていることが本質的に理解できる。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ本質的理解」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはカカドゥの売店で思わぬハプニングに見舞われることとなる。

【旅のワンポイントアドバイス36】
ダーウィンに行くには、乾季(5月から10月)に行った方が良い。雨季には大雨で道が通行不可となり蟻塚の場所には近づけない。蟻塚を間近で観られるのは乾季のみとなる。


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