(二・三)地球スケッチ

文字数 1,551文字

 先ず朝の海辺です。ザヴザヴシュワー、ザヴザヴシュワー……と、透き通った波が白い砂浜へと打ち寄せます。朝焼けが空を焦がし、澄んだ空気の中を潮風が駆け回っています。風に負けじとカモメが空を飛び回れば、浜辺では海亀がゆっくりと歩を進めています。海亀はのんびりと足を止め、眩しい朝焼けを眺めました。寄せ返す波に太陽の光が射して、キラキラとオルゴールの音色のようにきらめいています。再び歩き出した海亀は、やがて母なる海へと帰ってゆきました。少しずつ太陽が昇り、ゆっくりと海辺の時が流れてゆきます。
 次は草原です。一面緑の草の大地を、ヒュルヒュルと風が駆け回っています。風に合わせて草が揺れる様は、丸で名曲を奏でるピアノの調べのようです。大地には様々な植物が咲き、地上を彩ります。蝶々がふわりふわりと花々の中を行き交えば、蜜蜂もブンブンと蜜を求めてせわしなく、花園を飛び回っています。
 近くに森がありました。木の枝にとまった鳥たちのさえずりが透明な空気を震わせ、生命の喜びを歌い上げているようです。鳥たちの他にも、森にはたくさんの動物が生きています。りす、兎、キツネ、たぬき……。自由にのびのびと日々の暮らしを生きる動物たち。太陽の光が木々の葉に降り注ぎ、木洩れ陽がきらきらと、そんな動物たちの姿を見守っています。さらに太陽は昇って昇って、草原と森にも昼が訪れました。そして少しずつ太陽が傾き出します。
 遥か彼方にそびえ立つ山脈が見えます。山にもたくさんの生きものが生きています。松、杉、桜……巨大な木々が連なり、大きな岩も転がっていますね。滝があり、湖もあります。人里離れた山奥や砂漠は、ひっそりとしてしーんと静まり、神秘的な雰囲気を漂わせています。
「この地球上には、健一くんたち人間がまだ行ったことのない場所だって、まだまだたくさんあるんだよ」
 よろこびさまが得意気に言いました。
「そうだね、よろこびさま」
 健一はため息を零しながら、画面に映る世界中の美しい山々や砂漠の風景に見とれていました。
 ジャングルだって、魅力的な場所です。かなしみさまの時のゴリラのボスの悲劇みたいな、あんなかなしいことがなければ、ジャングルは野生の動物たちのパラダイスです。太陽は少しずつ傾いて、やがて夕暮れ時が訪れました。
 人間たちのいない場所だけが美しいかというと、そうではありません。田んぼや畑では、農業を営む人たちが汗だくになって、お米や野菜、果物を育てています。そんな緑の田園風景も、とてもきれいですね。しかも春夏秋冬、巡る季節によって違う表情を見せてくれます。蛙の合唱が木霊し、水を張った田んぼの中では、たくさんの虫たちが遊びます。夏には近くの林から、元気な蝉の声だって響いてきます。夕焼けに染まった素朴な田園の姿は、どこか懐かしい郷愁を誘いますね。でも都会だって、きれいな所はたくさんあります。都会の夜景は、夜空の星にも負けない美しさですね。

 ノートパソコンの画面は地球を一回りして、いつのまにか一番最初の海辺に戻ってきました。ザヴザヴシュワー、ザヴザヴシュワー……と、変わらず波が打ち寄せています。でも朝とは違う、夜の海辺の景色がありました。水平線の上に瞬く星空です。暗い海の面に星の光がキラキラと映って、とてもきれいですね。そしてまた夜が明け、地球には新しい朝が訪れるのです。
「ほんと、きれいな景色が一杯だね。よろこびさま」
「そうだとも、健一くん」
 よろこびさまも満足そうです。
「まるで天国だね、よろこびさま」
「わたしもそう思うよ、健一くん。地球はこの宇宙の中の、パラダイスなんだよ」
 パラダイスかあ!
 健一も嬉しくてなりません。
「ぼく、大人になったら絶対、世界一周旅行をするぞ」
 健一は夢見るように呟きました。
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