(三・七)父、母のかなしみ

文字数 838文字

 また画面が替わりました。今度はどこかの会社の中です。健一が声を上げました。
「あっ、お父さんがいる。お父さんの会社だ」
 そこは健一の父親の保雄が働く会社でした。でもお父さんの様子がいつもと違います。いつも家族の前では、偉そうに威張っているお父さん。なのに今は、少しも偉そうにしていません。一体どうしたのでしょう?
「海野くん。きみ、またミスっちゃって。いい加減にしてくれよ」
 お父さんの上司が怒っています。どうやらお父さんは、仕事でミスをしてしまったようです。
「すいません、見落としてました。申し訳ありません」
 ぺこぺこ上司に謝るお父さんを見て、健一はがっかりしました。
「お父さん、かっこ悪い。家ではあんなに威張ってるくせに……」
「そうだね、健一くん」
 かなしみさまも申し訳なさそうです。

 画面は替わり、今度は健一の家です。台所で母親のひろ子が、汗だくになって夕ご飯の支度をしています。思わずため息を吐きました。
「ふう……。四人分の食事を、毎日毎晩作るのって、本当大変」
 えっ!
 健一はドキッとしました。でもお父さんは新聞を広げ、お母さんを手伝おうとはしません。そんなお父さんに、お母さんが言いました。
「ねえ、たまには手伝ってよ、お父さん」
 でもお父さんは無視。
「お父さんてば」
 それでもお父さんは、家事の手伝いを拒みます。
「なんで俺が、手伝わなきゃなんないんだ?俺は毎日、仕事で忙しいんだぞ。家にいる時くらい、のんびりさせてくれよ」
 するとお母さんも負けじと、言い返しました。
「だったら、いいわよ。わたしいつでも、こんな家出ていきますからね」
 とうとうお母さんは、本気で怒ってしまいました。ところがお父さんは……。
「出ていきたきゃ、さっさと出てけーーっ」
 ありゃりゃ、少しも折れようとはしません。健一は思わず、画面の中の二人に向かって呟きました。
「ふたりとも、止めてよ。もっと仲良くしてよーーっ」
 健一は涙目になってしまいました。ここでも申し訳なさそうな、かなしみさまでした。
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