(三・一)悪い予感

文字数 950文字

 ところがです。画面から笑顔いっぱいのよろこびさまの顔が消え、画面はまたまっ暗になってしまいました。心なし健一の部屋の中も、暗くなったような気がします。それに健一の心も急に、かなしいような、さみしいような、そんな気分になってきました。時計を見ると、もう午前一時半を回っていました。
「よろこびさま、どこ行っちゃったの?」
 心細そうに健一が、よろこびさまに呼び掛けました。でも返事はありません。
「ねえ、よろこびさまってば……。もうお終いなら、ぼく寝ちゃうよ」
 でもやっぱり、よろこびさまの返事はありませんでした。その代わり、お父さんのノートパソコンから何かノイズが聴こえてきました。
 ヒュルヒュルヒュルーー、ヒュルヒュルヒュルーー……。
 それは真冬に吹く木枯らしのような音でした。健一はますます心細くなって、凍えるような気持ちになってしまいました。
「ねえ、よろこびさまってば」
 もう一度よろこびさまを呼んでみました。でもやっぱりよろこびさまの返事はありません。その代わり今度はノートパソコンの画面が小さく光り、何かを映し出しました。健一はそれをじっと見つめました。そこには見覚えのある駅が映っていました。健一の家から一番近い駅です。真冬の夜の、薄暗い駅前の景色。
「なんでこんな所が、映っているんだろう?」
 健一は疑問を呟きながら、見続けました。確かに駅前は薄暗いのですが、近くの商店街の方は賑やかそうです。どうやらクリスマスイヴのようですね。眩しいクリスマスツリーやサンタクロース、スノーマンの人形が置かれ、人通りも多くて、とても華やかです。健一はさっき、よろこびさまと一緒に見たヨーロッパの教会のクリスマスパーティのことを思い出しました。
 あの時は貧しい家の子どもたち、施設の子どもたちが招待され、みんな幸せそうでしたね。もしかしたら健一の住む町のこの駅前でも、同じようにパーティが催されるのでしょうか?健一は期待に胸をふくらませました。どころが、健一の期待は裏切られました。
 画面は華やかな商店街から、再び薄暗い駅前の通りを映し出しました。
 ヒュルヒュルヒュルーー、ヒュルヒュルヒュルーー……。
 木枯らしが吹き荒れています。通行人はみんな寒そうにコートの襟を立て、背中を丸め足早に歩き去ってゆきます。
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