(二・四)人々のくらし

文字数 1,576文字

 ノートパソコンの画面がまっ暗になりました。
「さあ、健一くん。今度は人間の登場だよ。世界の人々の暮らしを見てみよう」
「えっ、人間?」
 健一はちょっと不安になりました。戦争や貧困や災害など、かなしいことを思い出したからです。でもよろこびさまは言いました。
「そうさ。人々の暮らしの中にも、よろこびはたくさんあるんだよ」
「ほんと?良かったあ」
 健一は安心し、期待に胸をワクワクさせました。
 画面には再び、大都会ニューヨークのビル街が映りました。それからその中のひとつのビルの窓が映りました。中を見るとたくさんの人が働いています。会社のオフィスのようです。或る人は黙々とパソコンに向かっています。或る人はずっと電話で話をしています。また或る人々のグループは、会議室の中で激しく意見をたたかわせています。みんな、頑張っていますね。
「ほら、働いている大人の人たちだよ。一生懸命働いている人の姿は、美しいと思わないかい、健一くん」
「そうだね、よろこびさま」
 健一は目を輝かせて答えました。
 画面はビル街のある地下鉄の駅に替わりました。そこでも人々が一生懸命働いていました。問い合わせ窓口の駅員、ホームに立つ駅員、階段やトイレを清掃する作業員、怪しい人がいないか見回る警備員、売店や食堂の店員、そして電車の運転手と車掌もいますね。
 地下鉄の改札を抜け外に出れば、バスやタクシーの運転手もいます。みんな一生懸命、お客さんのため、自分のためにと、汗水流して働いています。その姿はやっぱり美しいものですね。
 近くにある商店街はどうでしょう?たくさんの店が並んでいます。その店の人たちも一生懸命働いています。スーパーマーケット、本屋さん、玩具屋さん、ケーキ屋さん、電器屋さん、雑貨屋さん、靴屋さん、床屋さん、ドラッグストア、ファーストフード店、レストラン……。みんな素敵な笑顔で、お客さんを出迎えていますね。

 でも人が働いているのは、勿論都会ばかりではありません。画面が替わりました。中国や東南アジアには、大きな工場がたくさんあります。その中でも、たくさんの人が働いています。機械を操作したり、ベルトコンベアに乗って運ばれてくる製品を組み立てたり。みんな懸命に、黙々と働いていますね。
 画面がまた替わりました。建設中の家のようです。家やビルを建てる大工、職人たちも大変です。重い材料を運んだり。高い危険な場所で作業したり、やっぱり汗びっしょりになって働いていますね。
 そして田畑、農場で働く人たちがいます。もしこの人たちがいなかったら、わたしたちは食べものを得ることが出来ません。お米、小麦、大豆、トウモロコシ、サトウキビ、その他たくさんの野菜。それから牧場もありますね。豚、牛、鶏などの家畜を世話する人たちもいます。やっぱりみんな、汗水流して労働に励んでいます。
「健一くん、ほんとに大人の人たちはみんな、一生懸命真面目に働いてくれているね。ありがたいことだよ」
 よろこびさまがしみじみと言いました。
「うん。そうだね、よろこびさま」
「こうやって大人の人たちが、子どもたちのために働いてくれている。だからわたしたちの世界は、ちゃんと成り立っているんだよ、健一くん」
「ほんとにそうだね、よろこびさま」
 健一も嬉しそうに頷きました。
「もし怠け者ばかりだったら、世界は明日にでも滅んでしまうかも知れないよ、健一くん」
「そんなの、嫌だよ、よろこびさま」
 怠け者かあ……。健一は自分のことを言われているようで、恥ずかしくなりました。でも気を取り直して、元気に答えました。
「大人の人たち、みんなありがとう。ぼくも大人になったら、一生懸命、働きまーーす」
「本当かい、健一くん?じゃ、約束だよ」
 えっ、約束?健一は一瞬戸惑いましたが、やっぱり元気に頷きました。
「はい。約束します、よろこびさま」
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